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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

可愛い独裁者

作者: マメ

勇者に指名されたのは偶然だった。


俺はたまたま当たった宝くじで気ままに旅行をしていた。だから知らなかった。


この国が魔物によって滅びる寸前まで追い込まれていた事に。



まあそんなこんなで



「偶然通りかかった街」



「偶然身分を隠して勇者を探していた国王」



「偶然ぶつかり勇者に触れると光る宝石を光らせて」



今、俺は魔王の城の前にいる。

 

 






***



勇者だからと言って楽な生活が出来るわけじゃない。


敵を倒しながら魔王までたどり着かなきゃいけないし、そのプレッシャーは相当なものだ。


俺の最初のレベルは3だった。もちろん何度も死にかけた。


途中で仲間になった奴のレベルの方が高いって事もあったな。勝ったら仲間になってやるって言われて負けて、何度も負けてその辺りでレベル上げしながら挑んだんだ確か。


最後の方は苦笑いで負けてくれたような気がする。今では俺の方が強いけど。


仲間内で恋の三角関係の泥沼バトルもあったな。

魔法使いと弓使いが剣士に惚れちゃってさ。結局剣士が二人を振って収まったけど、二人とも好きではなかった剣士は疲れてた。


俺?俺はクールに対応してたから女に興味ないって思われたみたい。


好きでもない奴に惚れられるのって面倒くさいしね。仲間は仲間としか思えないし。

勇者だから俺にだっていろいろあったのよ。出身が同じってだけで勝手に彼女気取りされてたとかね。


まあそこらへんはまたの機会という事で。



敵も最初はスライムとかゴブリンとか、簡単に倒せる奴だったのがどんどん見た目が人間に近くなってきて。魔王の部下の四天王とかまんま人間だったんだよな。人殺しみたいで罪悪感半端ねえよマジで。


今まで出会ったモンスター達は魔王の仲間だったばかりに倒されて…俺に出会わなかったら普通に暮らせたかもしれないのにな。これも運てヤツか。可哀想に。


そんな事を思い出しながら城の最上階へとたどり着いた俺達は、ひときわ豪華な扉の前へ進み出た。


扉の向こうから感じるこの禍々しい空気。

間違いない。この中にラスボス…魔王がいる。


「みんな、準備はいいか?」


「「「はい」」」


今ではレベル90以上になった仲間達がしっかりと頷く。

ちなみに俺はレベル99ね。はっきり言ってもう敵はいないようなものだ。


「行くぞ」


扉に手を掛け、重い扉を開く。


ギイイィ…と軋む音を立てながら、扉は開いていった。 


だが、魔王がいるはずの玉座には誰もいなかった。


「「「「……」」」」


広い空間はシン…と静まり返っている。物音すらしない。


誰もいないのだろうか。それにさっきまでの禍々しさが減っているような気がする。


「魔王は…?」


「確かに気配がしたのに…」


「セオリー通りならすぐラスボス戦になるはずだが…」


「……」


一体どういう事だ?


まさか…城から去ったとか?


そんなばかな。魔王だって俺達が来る気配くらい分かっていたはずだ。プライドだって高い奴だし逃げるのはありえない。


「ちょっと見てくる」


「勇者様危険です!」


「大丈夫。君達は待っていてくれ」


魔王がそばにいるはずなのに、なぜか危険な気はしなかった。その答えを知りたくて玉座の周りを歩いてみる事にした。



「……」


玉座に近づくとさっきまで誰かがここに座っていた名残があった。少し温もりが残っているのだ。


冷血なはずの魔王も体温があるのかと驚きながらさらに探ってみる。


「これは…」


玉座の裏の壁がなぜかへこんでいた。そこにはスイッチらしきボタンがある。壁の色と同化しているので近づかないと分からないようになっていた。


「えい」


迷う事なく押してみると壁が光ってスライドした。そして現れたのは茶色の扉。


まさかここに?


好奇心の強い俺は仲間を無視して中に入る事にした。


「勇者様!」


仲間の制止する声が聞こえたが聞くつもりは無い。


勇者失格?構うものか。

俺が死んでも新しい勇者が生まれる。そういう風になっているらしい。


最初から魔王と刺し違える覚悟で挑んでいるのだ。この命がどうなろうと構わなかった。





扉の中は広間と違って寒かった。少し鳥肌が立っている。


「……」


コツコツと豪華なブーツを鳴らしながら奥へと進む。そこには誰かの気配がした。


「…魔王か?」


「……」


声を掛けたが反応が無い。でもこんな所にいるのは魔王以外ありえないよな。


もう一度声を掛けようとすると暗闇の中から声がした。

 

「…誰だ」


うわ、凄い低い声。

聞いただけで全身が凍りつくのが分かった。それほど威圧感な声だ。


「勇者ですけど…」


「勇者?そうか…」


そう言いながら魔王は姿を現した。


うわ、凄い美形。


男の俺が言うのもなんだが、魔王はこの世の魔物を統べる存在とだけあって美しい人間の姿をしていた。

全身に黒を纏い、頭には左右に二本の羊のような角が生えている。髪も長くて真っ黒だ。でも少しおかしな所があった。目が赤いのだ。


もしかして泣いてた?

…まさかな。


「…我を倒しに来たんだな」


「……」


「殺された仲間の分までお前を切り裂いてやろう…」


ああ、やっぱり。涙声だ。

間違いない。こいつ泣いてた。


「どうした?我を目の前にして恐れおののいたか」


静かにしている俺に向かって魔王が嘲笑う。だが俺はそれどころではなかった。


こいつに聞きたくてたまらない。なぜ泣いていたのか気になってしょうがないのだ。


「なあお前…泣いてた?」


「何を言う」


「だって涙声だし。泣いてただろ?」


「…なっ」


ストレートに聞いたせいか魔王がたじろいだ。こいつ冷静沈着な設定じゃなかったっけ?


「なぜ泣いてた?教えてくれ」


「…お前に話しても解決せぬわ」


そう答えたって事は泣いてたって認めたんだよな。

ああヤバい。拗ねてるようにしか見えない。


「頼むよ。お前の気持ちを聞きたい」


「…黙れ小僧が!!」


「うわっ…」

 

いきなり繰り出してきた魔王の攻撃(風の魔法の一番強いやつ)をバリアを出して弾き返す。だってレベル99だし。あんなの簡単に防げるし。


「お前…これではどうだ!」


魔王はさらに多種多様な攻撃を全力で繰り出してきた。ちょっと焦ったが俺も渾身の技を持って反撃する。そしたら少しだけ魔王を傷つける事ができた。




…そうして一時間が経過した。



「くっ…我に傷を付けたのはお前が初めてだ。名は?」


「泣いてた理由を教えてくれたら教えてやるよ」


「はっ…バカにしておるのか」


「違う。お前の気持ちを知りたいだけだ」


これは本当だった。本当にこいつの気持ちが知りたかった。

なぜ最強のはずの魔王が泣いていたのか。なぜこんな場所に潜んでいたのか。


少し考えた魔王は俺が本気だと分かると攻撃を止めた。



「…寂しくなったのだ」


「え?」


あれ?気のせいかな?

寂しいって聞こえたような…。


「お前には仲間がどんどん減っていく苦しみが分かるか?」


「いや、でもそれはお前らが人間を襲ったからで…」


「我らは特に仕掛けてはおらぬ。人間達が勝手に敵だと決めつけたのだ」


「どういう…事だ?」


それから魔王は延々と説明してくれた。


魔王は魔物達全体を統率する言わば国の王様のようなもので、人間に憎しみは抱いていなかった。

もちろん魔物達も同じ。魔物達のルールを持ち、人間に迷惑がかからないように境界線をきちんと敷いて平和に暮らしていた。


なのにある国が偶然人間の街に迷い込んだだけの魔物を敵とみなし、勝手に討伐隊…俺達のような勇者を仕立てあげた。 


「待て…では魔物が国を襲ったのは…?」


確かどこかの国が魔物に襲われて滅亡したはずだ。


「あれは我の配下ではない。人間が作り出した人工的な魔物だ。裏で人間達が暗躍しておる」


なんという事だ。では俺達は人間の王に騙されて魔王討伐の旅に出たというのか。


「お前を雇った国は悪くはない。他の国に踊らされているだけだ」


魔王が言うには世界を手に入れようとする国がいくつかあり、全てを魔物のせいにしようと企んでいるらしい。真の敵は人間という事だ。


「魔物は悪くはない。なのに無惨に殺されていった…我には彼らが殺される度にその苦しみが届いていた。…そして、我は一人になった」


「…悪い」


天涯孤独になったってワケか。返す言葉がない。どうすればいいんだ。


「我はお前達と戦いたいわけではない。だが、殺したいなら殺せ。このまま一人で生きて行くのなら皆の元へ逝く」


魔王の瞳から涙が零れ落ちた。


「…っ、」


その瞬間、なぜか胸が鷲掴みにされたように苦しくなって、鼓動が激しくなってきた。


「どうした?仲間を呼ぶがいい。早く殺せ」


魔王の涙は止まる事を知らず、どんどん溢れては頬を濡らしていく。


それを見ていたら心に一つの想いが生まれた。



こいつを守りたい。



そう思った瞬間口にしていた。


「なあ、俺がお前と暮らして行くのは嫌か?」


「な…にを…」


「お前が愛しくなった。そばにいたい」


「馬鹿を申すな。お前と我は敵…」


「…じゃないんだろ?お前も俺も、種族が違うだけのただの男だ」


「……」


「そばに居させてはくれないか?一緒に生きよう」


魔王は動揺している。孤独な心に優しい言葉だ。だが元は敵…揺れるのはしょうがないだろう。


「俺が信じられないか?」


「当たり前だ…」


「これではどうだ?」


俺は復活の呪文を唱え、四天王を生き返らせた。


「お前達…!」


魔王が四人に駆け寄った。


「魔王様…?なぜ…」


「私達は殺されたはずじゃ…」


「どうして…なぜ勇者が…」


「生きてる…?」


四人は自分の置かれた状況に頭がついていかないようだ。魔王と俺を見比べて驚いている。

 

 

「あの者がお前達を生き返らせた。我らは敵ではないと分かってくれたのだ…」


魔王が説明すると四人はパアア…と顔を輝かせた。


「本当でございますか!?やっと、誤解が…」


「勝手に誤解されていつも泣いていましたものね魔王様!」


「本当はお優しい方なのに…」


「良かった…本当に良かった…!」


四人はおいおいと号泣している。なんだこれ。こいつらこんなに親しみやすかったっけ?


さっきは確か「貴様ら人間を魔王様に会わせるわけにはいかぬ」とか「野蛮な人間共よ」とか言ってたような…。


驚いて固まっていると四人が俺に向き直った。


「勇者様!」


「魔王様を!」


「よろしくお願いします!」


「します!」


「え?いいの?」


「「「「はいっ!」」」」


四人はしっかり腰を90度に曲げて頭を下げてきた。


「お前達!我はまだ…」


魔王が四人を止めるが一人が訴えた。


「魔王様にはそばで支えて下さる方が必要です!僕達ももちろん頑張りますが、同等の力を持つ方でないと…」


「何かあった時に今回のようにお守りできません!」


「う…」


魔王は黙ってしまった。今回の事で強く言えないらしい。

まあ勇者一人に隠し部屋に乗り込まれたしな。


「じゃあこれからよろしくって事でOK?」


「……」


俺が右手を差し出すと、魔王はしばらく考えた後ゆっくりと頷いた。


「「「「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」」」」


そばでは四人が両手を上げて喜んでいる。

魔王は少しはにかんでいる。


…可愛い。男前の美形が顔を赤らめていると萌えるというのを初めて知った。



さあ、仲間達になんて説明しようか。


俺は魔王の手を取り、仲間に紹介するべく歩き出した。









END


「ぼっちで孤独すぎて泣いていた魔王に勇者がキュンってなる話/どちらも男前希望」



というサイトのリクエスト小説でした。

魔王受けは初めてだったので新鮮でした。


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