そして彼は宣戦布告した。
空港に着いた俺は、月乃たち柊家を探す。
夏休み中の空港は、人がごった返していた。様々な家族、サラリーマン、外人……いろんな人が往来している。
(人多すぎだろ……どこだよ……)
俺は必死に空港を駆け巡っていた。どこの乗り場か聞いていなかった自分が歯痒く思える。
(ちくしょう……!!)
俺は走り回った。でも見つからない。
(どこだ!? どこだ!!??)
焦りに翻弄され、目は左右を泳いでいる。息が上がり、心臓がバクバク言う。
「くそ!! どこだよ!!」
やっぱり、俺は会えないのか!?
……嫌だ!! それは嫌だ!! そんなのは嫌だ!!
それでも、俺の中には絶望が広がっていく。心が砕けそうになる。
(……月乃……)
「月乃おおおお!!!!」
「――何よ」
「うおっ!!??」
気が付けば、月乃は俺の後ろに立っていた。予想外にあっさり見つけてしまい、逆に戸惑う俺。妙な声出しちゃったし。
「お、お前、なんでこんなところに!?」
「はあ? 飛行機に乗るからに決まってるでしょ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「……どうでもいいけど、こんなところで名前叫ばないでよ……恥ずかしいじゃない……」
「うぐ……」
月乃は顔を赤くしている。辺りをよく見ると、めちゃくちゃ周囲の人に見られていた。
外国人のオジサンは“Oh…Oh…”とか言いながら写真撮ってるし。
これは恥ずい。超恥ずい。穴があったら入って蓋して、南京錠で施錠したい気分だ。
「もっと場所を考えなさいよ。まったく……アンタはいつもいつも……」
月乃は溜め息まじりに呟いていた。なんだかスンゴイ腹が立った。
「……なんか、バカみたいだな俺……」
「何か言った?」
「別に……ところで、お前何してんだよ」
「飛行機まで時間があったから、ここで待ってたのよ」
(そうなのか……焦って走り回った俺って……)
「そしたらなんか晴司が走り回ってる姿が見えて……何かと思って近付いたら、急に私の名前叫び出すし……」
(……何も言えねえ……)
「本当、何考えてんだか……で? アンタ、何してんの?」
「……もういいよ。何か気が抜けちまったし」
「気が抜けたって……結局何しに来たのよ……」
「……お前に、会いに来たんだよ」
「……私に?」
「そうだよ」
「なんで?」
「さあ……」
「さあって……理由もなく来たわけ?」
「そうだよ……」
「アンタって……」
月乃は頭を抱えて“やれやれ”と言った顔を浮かべた。
「悪かったよ……詩乃さんたちはどこだ?」
「この先で待ってるわよ。……私も、そろそろ行かなきゃ」
そう言って月乃は付けていたピンク色の腕時計を見た。
……俺は、未だに迷っていた。ここに来てまだ迷う俺は、本当にチキンだと思う。
「じゃあね、晴司……」
俺の元から離れていく月乃。
(俺は……俺は……!!)
「月乃!!!」
……またしても叫んでしまった。周囲の視線が再び俺に注がれる。
(うぐ……すっげえ恥ずかしい)
「……だから、叫ばないでよ」
月乃は立ち止まり、また顔を赤くしながら振り返った。
(恥ずかしいけど……)
「……本当はな、色々と言いたかったことがあるんだよ。それはとても複雑なことなんだ。文字にすれば単純だけど、それを発するまでは色んなことを覚悟して、色んなことを想像しなければならないんだ」
「……晴司?」
「でも、今の俺には、それを言葉にすることは出来ない……今の俺は、それを言葉にするだけの人間じゃない。
……もっと大人になって、自分の足で歩いて、月乃の前に胸を張って立てるだけの男になった時……
その時、改めて言わせてくれ」
「………」
「だから、必ず帰ってこい!! 俺はまだ、お前に言いたいことがたくさんあるんだ!! まだ、お前と見たい景色があるんだ!!!
それを、俺が見せてやる!! 俺は必ず、お前とその景色を見る!!!
――そう、これは、宣戦布告だ!!!」
「晴司……」
「……だから、別れの言葉なんて言わないからな」
俺は右手を差し出した。
それを見た月乃は頬を桃色に染め、優しく微笑んだ。そして、月乃は右手で俺の手を握った。
「――またな、月乃」
「――またね、晴司」
俺たちは笑顔を向け合い、力強く握手をした。
……そして、月乃は旅立っていった。
月乃を乗せた飛行機は、大空に飛び立つ。白いその姿は、まるで空に羽ばたく白い鳥のように見えた。
鳥は、大空を駆け抜ける。日射しを受けて、雲を突き抜け、遥か彼方へ月乃を運ぶ。
俺は、飛行機が見えなくなるまで、外から見ていた。
俺の心には寂しさがあった。それでも、それ以上に清々しさを感じていた。
(俺も、ぼちぼち行くかな……)
俺は、ゆっくりした足取りで家に帰る。
これから、俺は大人になっていく。それまでに色んな経験をして、様々な壁が立ちはだかるだろう。
でも、大丈夫だ。きっと大丈夫だ。俺は、約束したんだ。宣戦布告したんだ。
(俺は、前に進むんだ)
見上げた空は、今日も快晴だった。晴れ渡る空は若干暑かったが、気持ちい日射しを俺に照らしていた。
目が眩んだ俺は、少しだけ笑い、確かな足取りで歩き始めた。




