彼女が見つけた“人達”
「……晴司……ここって……」
「ああ、俺んちだ」
俺と月乃は俺の家の前にいた。月乃はどこかムスッとした表情をしている。
「……どうしたんだよ」
「なんで晴司の家なのよ……私はてっきりデートに……」
「……別に家でいいだろ」
「―――!!!」
その瞬間、月乃は何かを察知したようだ。
(……あらぁ、バレたかなあ)
もしバレでもしたら……黎たちに血祭に……それはマズイ!!!
「あ、月乃……ちょっとだけよらないか? 俺忘れ物を……」
「晴司の……」
「……月乃さん?」
(月乃さん? どうしてそんなに震えていらっしゃるの? なんか怒ってるように見えるんですが?)
月乃は俯いたまま、手を一生懸命握り締めていた。
「晴司の――ケダモノ!!!」
俺の眉間に稲妻のような鉄拳が突き刺さった。
「ンガアアアア!!!」
鼻血と共に悶絶する俺。可哀想な俺。同情してほしい俺!
「痛い痛い!! 超痛いんですけど!!!
――月乃!! お前何すんだよ!!!」
「晴司最っ低!!! いくら私がもうすぐいなくなるからって……順序ってものが……」
「……お前、何勘違いしてんだ?」
「そうやってとぼけるところが許せない!!!」
「だーかーら!!! 何わけのわからんことを言っとるんだお前は!!」
「自分の胸に聞いてみなさいよ!!!」
「その前にお前の行動を思い返せ!!
色々おかしいだろ!! 可哀想だろ!! 主に俺が!!!」
「アンタが見境ないことをするからでしょ!!」
「見境なく俺を殴る奴に言われたくねええええ!!!」
「……お前たち、何やってんだ?」
「「へ?」」
俺たちは同時に声の方を向いた。そこには、タバコを加えた千春さんが凄まじく呆れた顔で立っていた。
「騒々しいと思って出てみれば……晴司、お前目的を忘れたのか?」
「目的? ねえ晴司、何のこと?」
「まあいい……月乃、入りな」
そう言って、千春さんは月乃を家の中に招き入れた。月乃は黙って千春さんに付いて行った。
残された俺は立ち尽くす……鼻血を流しながら。
(……俺って、すんごい不幸かも……)
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「月乃! 待ってたよ!!」
「月乃先輩!!」
「月乃ちゃん! 会いたかったよ!!」
月乃を待っていたのは、装飾された居間だった。テーブルの上には黎が腕によりをかけて作った料理の数々が並んでいる。部屋の隅々には色紙で作られた折り紙が置かれ、天井にはデカデカと“月乃を励ますパーティー”と看板が立てられていた。
(……衝撃のネーミングセンスだな……)
そんな奇々怪々なネーミングはさて置き、月乃は実に驚いた顔をしていた。
……そしてそこには、懐かしい顔もいた。
「柊!」
「月乃ちゃん!」
空音と、則之だった。こいつらに月乃の話をしたところ、最初はショックを受けていたが、送別会のことを聞くなり、“自分たちも参加する!!”と申し出てくれた。
……それにしても、二人が手を繋いで家に来た時は驚いた。この二人は、この二人の物語をしっかりと進んでいたようだった。
「どうしたの……これ……」
戸惑う月乃を見て、俺は静かに話しかけた。
「みんな、お前と別れるのが辛いんだと」
「晴司……」
「でもな、みんなお前が決めたことだから……友達が決めたことだから、笑顔で送りたいんだってさ」
「みんなが……」
月乃は部屋の中を、そこにいる全員の顔を見渡した。
みんなは、そんな月乃に笑顔を向けていた。
「……お前さ、前に言ってたよな。
“本当の自分をさらけ出せる相手――親友がいない”
って。
でも、今のお前にはいるじゃねえか。こんなにたくさんの“親友”が出来たんだよ。
それは、誰のおかげでもない。お前自身が見つけた奴なんだよ。
――お前は、もう一人じゃない。一人じゃないんだ」
「――――」
月乃は、再び全員の顔を見渡した。そして、両手で口を覆い、涙を流し始めた。
「……みんな、ありがとう……ありがとう………」
そんな月乃を見たみんなも涙を浮かべ、月乃の傍に駆け寄った。少女たちは全員で抱き合い、ひたすらに泣いた。
千春さんは、その光景をタバコ片手に微笑みながら見ていた。その瞳は輝いていて、涙を浮かべているようにも見えた。
「晴司……お前、カッコいいよ」
「よせよ則之……そんなことねえって……」
「いや、俺がそう思うんだよ。お前は、やっぱり最高の“親友”だよ」
「……ありがとよ、則之」
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送別会は本当に盛り上がった。
みんな寂しさを紛らわすかのように、いつも以上に明るく振舞っているように見えた。
泣き、笑い、喧嘩し、驚き……これまでの数か月で見せた月乃を、すべて凝縮したかのように、月乃は喜怒哀楽を出した。
やがて送別会は終わり、空音と則之は帰って行った。
そして、月乃が帰る時間が来た。
「じゃあ、私そろそろ……」
「ちょっと待て、月乃」
千春さんが、玄関を出ようとした月乃を呼び止めた。そして俺の方を振り向き、優しい表情を浮かべた。
「……晴司、送ってやれ」
「え?」
「ちょっと千春!!」
「黎。……晴司、頼むぞ」
千春さんの目は、何かを語り掛けるかのようだった。その目を見た黎は、それ以上何も言わなかった。
そして俺も、ただ頷き、夜の道を月乃と歩き始めた。
その夜の空は晴れていた。月明かりも強く、俺と月乃には影が出来ている。空の雲もはっきりと形が分かる。星は煌めき、夜空を飾り付けていた。
月乃は俺の隣を歩いている。とても嬉しそうな顔を浮かべて。
そんな月乃を見て、俺はあの日心に押し込めてしまった言葉を、ゆっくりと、静かに、開け始めていた。




