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不器用な彼らの空模様。  作者: 井平カイ
自分の居場所、貴方の居場所
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夏の海は疲れを呼ぶ~番外編~

 次の日の海は、絶好の海水浴日和だった。入道雲が遠くに見える空は、どこまでも青く壮大で、太陽は大きく輝き、俺たちを干からびさせるかの如く照り付ける。正直外に出たくなくなるような快晴だった。


「晴司ー! 早くー!!」


 俺がペンションからゆったり歩いていると、既に浜辺にいた月乃が声を上げて俺を呼んだ。もちろん返事をする余裕も元気もない俺は、力ない笑顔で手をヒラヒラさせた。


 この海岸は、きちんと海水浴場として認められているらしい。だが、辺りには家なんてなくて、バス停もない。よって、ペンションを使う人物のほぼ貸し切り状態になる。現に、今白い砂浜には俺たちしかいない。


 夏の海ってのは、ぶっちゃけやることが決まってる。ひたすらに体力の限り泳いだり、スイカ割りして砂が混じったヤツをジャリジャリ言わせながら食べたり、ボールで遊んだり……

 定番と呼べるものは、もはや鉄板になるのだろう。普段の日常では見向きもしないどうでもいいイベントも、夏の海ではかなりのレベルアップを遂げ、その楽しさに心を踊らせてしまう。千春さんではないが、それこそが、海の魔物と言えるのかもしれない。


 そして奴等もまた、そんな鉄板に心を奪われていた。

 月乃と黎は競うように泳ぎまくってる。あの二人に勝てるのは、おそらくプロかモノノケの類いだけだろう。必死の形相でクロールをして、一歩も引かない大接戦となっていた。


(お前らは宿命の対決でもしてるのか?)


 星美と洋子先輩は砂遊びをしていた。……いや、もはや“遊び”ではない。星美と洋子先輩の近くには、巨大な砂で出来た万里の長城がそびえ立っていた。超人二人が揃うと、砂遊びも芸術になるようだ。


(ぜひ美術館に献上してくれ)


 千春さんと母さんは、シートの上で寝転がり、体を焼いていた。 その肉体は衰えることを知らないと思えるほど、艶を帯びていた。


(……シミに気をつけてくれ)


 そう思った瞬間、突然千春さんが殺意に満ちた視線を俺に照射した。


(……え? まさか、違うよね? 心まで読まれてるわけないよね?)


 そんなことはないとは思いつつ、俺は視線を逸らした。

 ちなみに、俺は今パラソルの下で座っている。照り付ける太陽は容赦なく俺の体力と気力を奪い続け、熱を帯びた白い砂浜は俺の汗を無制限に流させ続けていた。

 海にでも入れば少しはマシになるかもしれないが、あそこには魔物が2頭いるわけで、それに飛び込むなんてバカなマネはするわけがない。飢えたライオンの群れに飛び込んでいくシマウマなんていないのだ。


 俺は白い悪魔と化した砂浜に寝転び、燦々と存在感を示し続ける太陽を、パラソル越しに見ていた。パラソルにはぼんやりと明るい光の丸形が見えていた。

 俺は特に理由もなく、その丸形に手をかざしていた。


「退屈か?」


 突然話しかけられた俺は、瞬時にそれが千春さんだと理解した。


「んー、そうでもないけどね」


「せっかく海にまで来たんだ。せめて黎たちと一緒に泳いだらどうだ?」


「……それは俺に、“昇天しろ”と言ってるのと同義だと思うが……」


「それもそうだな」


(認めるのかよ!!)


 突っ込むと同時に俺の目に飛び込んだのは、千春さんの“あの顔”だった。

 ……そう、ニタリ顔だ。あの顔で、千春さんは俺をどこか怪しく妖艶な瞳で、ニタニタと不気味に見ていた。

 俺の脳は瞬時に警戒体制をとった。


「じゃあ晴司……一つ、面白いことをしようか……」


「……お、面白いこと?」


「――これだ」


 千春さんが取り出したのは、何の変哲もないウォーターガンだった。市販で売られている奴で、空気を取り込み、圧縮した水を勢いよく飛ばす、まあよく見かけるヤツだった。


「この中に、これを入れる」


 さらに千春さんは、赤い水を取り出した。


「これは、赤い色素を混ぜた奴でな。目に入っても口に入ってもある程度は問題ない代物だ。これなら、撃たれたらすぐ分かるだろう」


(なるほど……ウォーターガンを使って、バイバル遊びみたいに撃ち合うてわけか……これなら、確かに安心かもな)


「……まあ、いいんじゃない?」


 そう言った瞬間、千春さんはさらに俺に何かを突きつけた。それは、これまたなんて変哲もない、ただの大き目のスコップだった。


「……何、これ」


「砂浜を掘って、壁を至る所に作れ。それに隠れながらするんだよ」


「はあ!? なんで俺が!?」


「さっきお前は、私の話に乗った。ということは、お前も実行委員になったんだよ」


「そんな無茶苦茶な!!」


「……いいから、作れ」


 千春さんは、再び殺意に満ちた視線を送る。問答無用と言わんばかりに。


(……理不尽だ……)


 そんな視線が怖い俺は、奴隷のようにせっせと砂浜に山を作り続けた。





 ==========






 しばらくすると、砂浜には大量の山が出来ていた。無論俺は汗だくだった。


「や、やっと出来た………」


 それを見た千春さんは満足気に山々を見て、全員に叫んだ。


「よしお前ら!! ちょっと集まれ!!!」


 千春さんの声に反応した全員が俺たちの方を振り返る。皆が皆、何だ何だと言った顔をし、ぞろぞろと集まってきた。


「今から、ゲームを開始する」


「ゲーム?」


「これで自分以外を撃ちまくれ。撃たれた者はリタイア。最後に生き残った者が勝者だ!!」


 千春さんは、さっきのウォーターガンを示しながら高らかに説明した。

 当然ながら、みんなきょとんとした顔で見つめていた。


(それはそうだろうな……)


 そんな冷たい視線を受けても千春さんは全く引かなかった。


「そうそう。もちろん賞品は出るぞ」


(またかよ……)


「勝者は明日の夕食後、就寝まで晴司と二人っきりで過ごす権利を与えよう!!!」


(やっぱり……)


 普通昨日の今日であんなことがあったのに、そんなことを言ったところで誰が参加するものか。

 ……そう、思っていた。

 しかし、奴らは超人だった!!!

 奴らは次々とウォーターガンを手に取り、空気を溜め始めた。そして、準備万端となった銃を構え、千春さんの前に立つ。


「千春、さっきの話、本当だろうな?」


「当然だ」


「その時は、他に邪魔されないの?」


「当然だ」


「……俺が勝った時の賞品はないのか?」


「当然だ」


 千春さんは腕を組み、頷きながら凛々しく答えた。

 ……その姿は、異常に腹が立った。


 千春さんの命令により、至るところに赤い水が入ったバケツを置き、全ての準備が整った。

 配置に付く超人達と凡人。俺にやる気なし。 当然だ。

 千春さんが審判となる。そして、大きく宣言した。


「晴司争奪サバイバル――始め!!!」

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