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不器用な彼らの空模様。  作者: 井平カイ
ありのままの心で
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更なる混沌へのプロローグ ~月乃サイド~

 あれから晴司は入院した。

 帰ってきた後すぐに救急車で近くの病院に連れていかれ、とりあえずの措置が終わるとすぐに地元の総合病院に転院したのだ。結局、晴司は右足首を骨折しており、左腕に8針も縫う大ケガを負っていて、全身は打撲、擦り傷、切り傷がたくさんあった。

 でも、先生の話では、そんな状態ですら奇跡的だと言う。あの状況を考えると、死んでいた確率の方が高かったらしい。

 私は、心から神様に感謝した。私から晴司を取り上げないでくれてありがとうございました……何度も何度もそう思った。

 もし晴司が死んでいたら、私はもう生きていけなかったと思う。それほど彼は私の中で大きくなっていた。尊いものになっていた。愛しいものになっていた。

 今回の事故で、私は改めてそれが分かった。


 空音と星美も晴司に抱き付いていた。

 この二人も私と同じ気持ちだったのだろう。この二人から責められても仕方がないと思っていたが、二人は私を責めることはなかった。むしろ私のことを気遣ってくれていた。この二人は、今まで私と接してきた女子とは違う。友達ってのは、この二人のことを言うんだろうな……


 臨海学校は中止にはならなかった。途中まで中止になる方向で進んでいたが、なぜか急遽きゅうきょ続行が決定された。

 結局は晴司のケガは自己責任だったということになったらしい。そんなことはないのに。それは私が痛いほどよく分かっている。晴司がケガをしたのは私のせいだから……

 でも、こっちの病院で包帯に巻かれた晴司を見て、私が自分を責めていると、晴司は私にデコピンをしてこう言った。


“そんな顔をさせるために俺は助けたんじゃない。もし誰かが今回の件でお前を責めるなら、俺はこうやってそいつにもデコピンをしてやるさ”


 私は泣きそうになってしまった。晴司は私の気持ちをまた救ってくれた。

 私は、また照れ隠しをするのが精いっぱいだった。


 私は今、海に来ている。明日の朝には学校に戻るらしく、実質、今日が臨海学校の最終日だ。

 ちなみに須賀先輩は帰ってしまった。なんでも自分のすべてに自信がなくなったらしい。

 ……よくわからないが、私としてはメンドクサイ人がいなくなってよかった、というのが正直な感想である。あの人が一緒だと晴司との時間が減るからだ。

 もっとも、晴司がいないからそれもどうでもいいことだけど。

 私は今日のために水着を新調していた。晴司に見てほしかった。晴司に褒めてほしかった。晴司に可愛いって言ってほしかった。

 ……でも、晴司はいない。それがすごく寂しかった。


「楠原くんがいないのって、なんか寂しいね……」


 浜辺で座っていた私に空音が話しかけてきた。


「わ、私は別に……」


「月乃先輩。私たちにそんなのは通じませんよ。きっと、三人とも同じ気持ちだし……」


 星美が私の後ろから声をかけてきた。……そう、私たち三人は同じ気持ちだった。だからこそ、私たちは海に入らず、浜辺に座っている。

 でも、寂しくはあるけど、同じ心境の友達がいるっていうのは、かなり気が楽な気がした。


 夜の花火大会になっても私たちの気持ちはいまいち盛り上がらなかった。田島くんは無理してテンションを上げていて、私たちを精いっぱい元気づけようとしてくれているようだった。

 私たちはその気持ちを素直に受け取った。だから、私たちも出来る限り笑った。


 しかし、そんな私たちの耳に信じられない情報が入った。

 なんと、今2年女子の中で、晴司の人気が急上昇しているらしい。……でも、それも当然のことかもしれない。

 命の危機に瀕した女子を、まさしく命がけで助け、自身も大ケガを負いながら奇跡的な生還を果たす……まるで、どこかの物語の主人公のようだが、実際に“それ”をやってのけた人物がいる。

 ……そう、晴司だ。


 私たちの心境は穏やかではなかった。私たち以外にも晴司を想う人がたくさんいる。それは、私たちにとってオモシロくなかった。

 今まで晴司を見向きもしなかった人が、晴司の良さの片鱗を見ただけで、まるで今まで実は好きだったと言わんばかりに話しているのを、何度も目撃した。

 彼女らに晴司の何がわかるのだろうか。今まで接してきた私たちと比べ、彼女らはあまりにも彼を知らないのに、何をわかったかのような口調で話すのだろうか……

 ……私の中に醜い嫉妬心が芽生える。晴司には到底見せたくない一面だ。そういう意味では、晴司がここにいなくてよかったと思う。

 晴司には、こんな醜い私を見てほしくない。そう思う。





==========





 臨海学校から帰ると、私たちはすぐに病院に向かった。

 そこで私は晴司の異変に気付いた。

 ……何かを隠している。何か重要なことを。

 まずは私たちを直視しない。そして、学校に戻ろうとするような発言をしない。まるで学校に行くのが嫌になったかのような印象を受ける。以前の晴司にはなかった一面だ。

 ……私は、晴司を問いただすことにした。


「晴司、私たちに何か隠してない?」


「いや……そんなことはないぞ?」


 ……激しく怪しい。冷や汗を大量にかいていて、目が視点を彷徨っている。

 何かあるとすれば昨日から今日の朝方――その間に何があったのだろうか……

 とても気になるが、こうなった晴司はおそらく私たちには何も言わないだろう……

 もちろん晴司の状態は空音と星美も気付いたが、同じく詳しくは聞かなかった。

 ……まあ、晴司のことだから、どうせ大した理由でもないのだろう。


 それよりも、問題は晴司の人気である。

 学校が再開すると、臨海学校での出来事は瞬く間に噂として広がり、二年のみならず、一年、三年の女子の中にも晴司を密かに想うようになった女子が増えたのだ。

 ……これはもう、私たちではどうしようもなかった。いっそ、もう一度誰かが付き合ったことにするべきか迷ったが、抜け駆けはダメ、という結論になり、それも却下された。

 私の不安は募っていく。もし知らない女子が告白して、それを晴司が受けようものなら、私はどうなってしまうのだろう。想像しただけで胸が張り裂けそうになる。泣きたくなる。

 でも、そんなことはないと思う自分もいる。晴司はそんな知らない女と簡単に付き合うような人間ではない。相手のことを真剣に考え、周りのことを真剣に考え、最後は自分に正直になる。そんな人間だ。

 噂だけを聞き、晴司を好きになった人の言葉に重みなんてあるはずもないし、晴司の鈍感な心には響かないだろう。

 ……私の中では不安と信頼が入り混じっていた。


 それと、もう一つ気になることがある。不審人物の目撃例である。

 最近、放課後の正門に外国人の女性が現れ、帰る女子に


“楠原晴司の彼女を知らないか”


 ……と聞いてくるらしい。少し前ならもちろん私の話が出ただろうが、今の私は仮面彼女だったことが割れているので、もちろん名前が出ることはない。


 その女性はすごく美人だとか。年齢は同じくらいらしいが、まるで物語に出てくるお姫様という話だ。でも、そんなきれいな顔とは裏腹に、女子に話しかけるときには鬼気迫る雰囲気があるらしい。

 ……もしかして、晴司が隠していることに関係があるのだろうか……

 もしあるとするなら、晴司とその女性はどんな関係なのだろうか……

 ないにしても、結局は晴司が関係しているのは間違いない。だとするなら、晴司はまた何かに巻き込まれているのだろうか……

 その噂は再び学校中を駆け巡り、様々な説が出ている。

 隠れ彼女説…姉説…妹説…幼馴染説……

 空音にも田島くんにも心当たりがないらしい。いずれにしても、晴司が退院したときに本人に聞けばわかることだろうが、その間に私の不安は募る一方だった。


 晴司の人気、謎の外国人女性…………

 いくつもの要素が、私の不安を煽る。

 そして、その時の私にも想像出来なかった。

 ……晴司が退院する日に、私が予想すら出来ない、さらなる混沌が起こることになることを。






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