輝ける太陽
一夜明け、学校では、いつもと変わらない日常を過ごしていた。
……そのつもりだった。
「……晴司、今日のアンタ、何か変よ?」
月乃は俺の顔を覗きこみ、奇怪なものを見るかのような目を向けてきた。
「え? そうか?」
「言われてみれば……先輩何かあったんですか?」
「いや……別に…………」
……昼に空音に告白されて、夜に陽子先輩に泣かれた――なんて言えるはずねえし…………
「いやいや、なんかあったんだろ! 晴司! 白状せい!!」
則之がやたらと煽ってくる。
……お前、絶対に分かってないだろ!?
「……則之、止めなよ………」
空音は小さく則之を静止した。
「………あ、なるほど、ね」
「………なるほど、です」
そんな空音の様子を見た月乃、星美の両名は、すぐさま何かを察知した。
……女子、恐るべし…………
しかし、月乃の視線は相変わらず俺を射貫いていた。
「でも晴司、他にも何かあったんでしょ? アンタの目がそう言ってるわ………早く言いなさい」
月乃が俺に迫る。
「いや……何も…………」
「隠さないで言いなさいよ!」
絶体絶命の俺。
――その時、救いの手が差し伸べられた…………!
「あ………そういえば、月乃先輩」
「何よ。星美」
「先輩は、ちゃんと言ったんですか?」
「え!?」
理由は分からんが、突如、月乃は固まった。
「………まさか、言ってないんですか?」
「………月乃ちゃん………」
「いや……言ってはないけど……それに似たことはしたような……」
「言ってないんですね…………」
星美が、ズイッと身を乗り出し、月乃に迫る。
「…………なあ晴司、なんの話だ?」
「俺が知るかよ…………」
睨む星美と空音。たじろぐ月乃。
……ふむ、新しい構図だ。
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その時、そんな微笑ましい(?)光景を切り裂くような叫び声が聞こえた。
「後ーー輩ーーくーーーん!!!!」
突然の叫び声に俺達はビクッとした。
「な、なに!?」
「この声って…………もしかして!?」
…………陽子先輩だ…………
俺たちは……いや、学校中がその声の方を見た。
場所は中庭。――そこには、やっぱり陽子先輩が私服で立っていた。
「陽子ちゃん!?」
………あの人は、何をしてるんだ?
「誰あれ!?」
「他校の人でしょ!?」
「俺好みだ!」
「俺も俺も!」
……等々、学校中がすでにお祭り騒ぎになっていた。
先輩は、そんな騒ぎの中、周囲の目を全く気にすることなく、大声で叫び続けた。
「昨日はありがとう! 私! もう大丈夫だから!!」
「……もしかして、晴司に言ってるの?」
「……ですよね…………」
「……そうみたい…………」
月乃、星美、空音が何かを悟ったようで、俺を氷のような視線で睨む。
コワイ…………
「私! こう見えて頑固なんだ! だから! 私! 諦めない!!」
叫び声が学校中に響き渡る。中庭が見える窓は、一面生徒の姿で埋め尽くされていた。
「後輩くん!! 私は! あなたが好き!! 大好き!!
――今日はそれが言いたかったの!!!!」
「なあああぁぁぁぁ!!」
「にいいいぃぃぃぃぃ!?」
学校中が驚愕の声を上げた。
…………マジかよ…………
と、先輩は何かに気付き、横に止めていた自転車に股がり、颯爽と学校を出ていった。その後ろには、走って追いかける生徒指導の先生がいた。
先輩が立ち去った学校は、騒然としていた。
“後輩くん”を探せ!
…………という雰囲気が学校中を包み込んでいた。
渦中の俺は、4人に詰め寄られていた。
「晴司………どういうこと?」
「先輩………どういうことですか?」
「楠原くん………説明して?」
「晴司いい!! 何でお前ばっかりいい!!」
「いや………あの…………」
言うなれば、虎、狼、豹、カバに睨まれる草食動物。――逃げ場なし。
「お、俺………俺………早退!!」
鞄を掴み、教室を飛び出した。
「あああ!! 逃げた!!!」
「先輩! 待って下さい!」
声を無視し、廊下を走り抜ける。
……でも、逃げる俺の心は、晴れていた。昨日までウジウジしてたのがバカらしくなっていた。
先輩………先輩は、やっぱり太陽です。
どんだけ曇っても、どんだけ夜が深くても、太陽は変わらず光輝き、照らしてくれる。
先輩、ずっと、輝いていてください。