太陽の再臨
「な――――!!??」
雨が少し弱まった公園のベンチで、俺は絶句していた。
以前より髪が伸び、顔も大人びてはいたが………間違いなく、あの陽子先輩だった。
「よ……陽子…先輩……?」
「え? ……キミは……後輩…くん?」
俺と陽子先輩は、見つめ合ったまま動かなくなった。
(なぜ!? なぜ陽子先輩がここに!?)
頭の中は、絶賛パニックに陥っている。目が泳ぐ。言葉が出ない。
なんで!? なんで!?
俺の中は、その言葉でいっぱいになっていた。
「……晴司?」
「……陽子ちゃん?」
月乃は俺を、空音は陽子先輩を、それぞれ心配そうに見ていた。
「……そっか。もしかしてって思ってたけど……
空音が話していた高校の友達の男子って、やっぱり後輩くんだったんだ……」
先輩は、クスッと笑って語りかけてきた。
その笑顔はあの頃のままだった。……あの、俺が憧れていた太陽のような先輩の笑顔が、また、俺の目の前にあった。
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それからのことは、よく覚えていない。
空音と陽子先輩は、簡単な挨拶をし、そのままどこかへ歩いて行った。その後すぐに雨が止んだので、俺と月乃も帰った。
帰り道に月乃と2、3言だけ会話をした気がするが、基本的には二人とも無口だった。
荷物を月乃の家の玄関まで運び、俺は電車に乗って帰った。
「またね後輩くん」
陽子先輩の最後の言葉は、俺の頭の中で繰り返されていた。
確か、空音は、先輩はハラコーから近い女子高に通っていると説明していたな……
遠くに引っ越すって言っていたが、まさかこの町にいるなんて……
もっとも、すでにフラれた俺にとっては、どうでもいいことかもしれない。
……でも、それでも2年ぶりに会った先輩の姿は、俺の目に鮮明に残っていた。
気が付けば深夜になっていた。
何気なくケータイを手に取ってみると、いつの間にかメールが来ていた。それは、月乃からだった。
“今日はありがとう。一応礼を言っておく”
(アイツ、この言葉好きだよな。そういえば、アイツからのメールは初めてだな……)
そんなことを思っていると、本文がずっと下まで続いていることに気付いた。下にスクロールしていくと、そこにはさらに文章が続いていた。
“ところで、あの人誰?”
メールが送られたのは約三時間前……完全に、俺が無視した形になっているだろう。全く気付かなかった……
今更な感はあったが、俺はとりあえずメールを返すことにした。
“お礼はいらねえよ。あと、あの人は中学の時の先輩なんだ”
(まあ、こんな時間だからもう寝てるだろうけど)
ピロリロリン
(……メール返ってきたよ。てか早いなオイ)
“ふーん、そうなんだ”
(……コイツは、あんまりメールしたことがないようだな。さっきから絵文字が一つもない。俺も人のこと言えないが)
ピロリロリン
またも月乃からのメール。
“それについてはいい。あと、アンタの助言、やってみる”
(……そっか)
“ああ。頑張れよ!”
“はいはい。お休み”
最後の返事も素っ気なかった。でも、月乃は変わろうとしていた。
(そうだ月乃、少しずつでもいいんだ。頑張れよ!!)
俺は、月乃を全力で応援することを誓い、目を瞑った。