第一章 仮想世界
荒んだ荒野の道に盗賊グループ三人と若い女性がいた。
「は、離してください! 私は、この金塊を村に届けなければ、いけないのです!」
「ゲハハハハハハ! そうはいかねーな嬢ちゃん。俺はその金塊を奪って、多額の金を手にいれるんだ。痛い目見たくなかったら、早くその金塊をこっちに渡せ!」
ガシッと女性の細い腕が、盗賊のリーダーに掴まれる。
「さあ、早く渡せ!」
盗賊リーダーが剣を振り上げたその時――
「やめろ! このクズども!」
荒野に怒号が響き渡る
「な、何者だ! 出てこい!」
「お、お頭! あ、あそこ!」
盗賊グループの一人が荒野の崖を指差す。そこには、茶髪の若い少年が立っていた。
「な、何者だ! 小僧!」
盗賊のリーダーが少年に問う。
少年は、足に力を入れて、崖から盗賊達のいるところまで跳躍した。
「俺の名は、大崎一誠この世に蔓延る悪を消しに来た!」
「なにぃ! 消しに来ただと! ふざけんなガキ! 俺達がお前なんぞに消されるわけないだろ!」
そう言って盗賊達が剣を振り上げた。
「ふん! 三下が、俺の持つ聖剣で世界の塵にしてくれる!」
「こい! エクスカリバー!」
一誠の掌に光の剣が現れる。そして、一誠は剣を前に構える。
「いくぜ! 必殺ゴッド――」
一誠がエクスカリバーを天高く掲げ光を纏ったその時――
一誠の肩がトントンと叩かれた。
「誰だ!?」
一誠が振り向くと、そこには友人の間宮洋介が立っていた。
「よ、洋介!? 何でここに! 今はオフラインだった筈なのに!」
一誠の唖然とした顔を見て、洋介は、ため息をついた。
「オフライン中だってフレンド登録してたら、来れるんだよ。忘れたか?」
あっ・・・そうだったなと一誠が頭を掻き苦笑する。
「ところで、洋介。俺に何か用か?」
「用も何も、学校。遅刻するぞ」
「えっ?」
一誠は腕時計を確認する。
現在時刻、8時20分
「やべっ! もうこんな時間かよ!!」
「じゃあ、さき行ってるぞ」
そう言って、洋介の体は光に包まれ消えた。
「ああ!! 置いて行くなよ!!」
「どこへ行く小僧。貴様はここで死ぬのだ!」
盗賊の一人が駆け寄ってくる。
「だぁー! うるさい!」
一誠は自分の左手首を掴み、キーを唱える。
「創造せし我が世界よ。空想の扉を今、王である我が閉めよう。『デリート』」
一誠がキーを唱えると、荒野の道も崖も、金塊を持った女性と盗賊グループも全てがデータの残骸となった。
「ふう、急がなきゃ。『エスケープ』」
一誠が脱出のキーを唱えると、一誠の体は光に包まれ消えた。