第四章:はらぺこ亭と音楽会
ファルナ先輩達と別れて、俺は模擬戦前に腹ごしらえをすることにした。
とりあえず、目に付いた「はらぺこ亭」なる食堂に入ってみる。
「いらっしゃいませ~。」
店員がくるので、俺は注文を頼む。
「マルアイア風ブタ猪の煮込み汁を1つ。」
「毎度、ありがとうございま~す。
席におかけになってお待ちくださーい!」
「さて、どこに座るか・・・ん?」
俺が座る場所を探して、辺りを見回すと、見知った顔がそこにあった。
「ガツガツ・・・ガツガツ・・・。」
あの食べっぷり。
「あれは・・・。」
間違いない。
「ガツガツ・・・おっ、ブリトニア産のかれい牛もあるの?
じゅるじゅるっ、すいません、このかれい牛って頼めます~?」
目の前に大量の皿が置かれているにもかかわらず
さらに注文をしている。
「は~い、かしこまりました~少々お待ちください!」
「じゅるじゅるっと、ガツガツ・・・ガツガツ・・・」
食べるのに夢中なのか、こちらに気が付かない。
「はぁ・・・おい、マルミ。」
声をかけても気が付かないとか・・・どんだけ夢中なの。
「ガツガツ・・・ガツガツ・・・。」
「おいっ!」
ようやく、マルミがこちらを振り返るが・・・。
「おっ、もう、カレイ牛きたの?」
「誰がカレイ牛だ・・・。」
俺を店員と間違えたらしい。
「なんだ、カナートか・・・。
どうしたの、こんな所で?」
「腹が減ったんで何か食べるものないか、って思ってな。」
俺はそういってマルミの隣に座る。
「カナートもなかなかやるねぇ・・・。
もう、20件ぐらい食べ歩いたけど、この店が一番のお薦め!
種類は豊富だし、味はうまいし、もう、生まれてきてよかったぁ~って感じ?」
いま、マルミのテーブルに並んでいるものだけでも2人前はあるし
さらにカレイ牛とやらも頼んでいるのに、これで20件目なのだという。
「20件もまわっておいて、まだそんなに食べるのか、おまえ・・・。」
「今日は千年祭だよ、堅いこといわないの。」
「・・・千年祭でなくても食べるだろ、おまえは。」
そうこうしているうちに、店員が料理をもってやってくる。
「おまたせしました~ブタ猪の煮込み汁とカレイ牛の塩焼き、お持ち致しました~。」
俺が頼んだ料理だな。
「おっ、きたきた~。
あれ、ブタ猪って私頼んでないけど・・・
おいしそうだし、まっいっか・・・じゅるじゅる。」
「ばか、それは俺のだ!」
「え、あ、そうなの・・・ちぇっ・・・。
すいませ~ん、ブタ猪の煮込み汁、あと1つお願いしま~す!」
「は~い、かしこまりました~少々お待ちください!」
「おまえ、まだ食うのか・・・。」
「いいから、早く食べよ、さめちゃうよ?」
マルミにせかされ、俺は箸をとって食べ始める。
「そうだな・・・ガツガツ・・・お?」
「ガツガツ・・・ガツガツ・・・おいしいでしょ?」
「う、うむ・・・ガツガツ・・・ガツガツ・・・。」
「ガツガツ・・・ガツガツ・・・。」
「ガツガツ・・・ガツガツ・・・。」
俺達は夢中で食べ続けあっという間に平らげた。
だが、俺が食べた後もマルミは食べ続けて、まだ注文していたので
声をかけて先に店をでる。
マルミ、食べ過ぎだぞ・・・。
店をでて、模擬戦までどうしようかなぁとぶらついていると、
不意に声をかけられる。
「あら、君・・・・カナート君・・・かな?」
「えっ?あ、み、ミリファリア様・・・!?」
目の前にいるのは、ミリファリア・エスシオール様。
神国に4人しかいない星騎士のうちの一人。
1000年にも近い時を生き、この国を支えてくださっている神に等しい存在だ。
「ふふっ、久しぶりね、カナート君。
大きくなったわね・・・。」
「えっ?ひ、久しぶり・・・?
い、以前にお会いしてました?」
ミリファリア様は何故か俺のことを知っている様子だ。
遠目に俺がみかけることはあっても、話をするのはこれが初めてのはずだ。
「えっ?あ、うん・・・エスシオール家の人には一通り面識あるから、私。
ふふっ、君は特別だったけどね。」
「と、特別・・・?え、え?」
「音楽会、来てくれたの?」
気が付けば、セルフィアが見に行くといっていた音楽会の会場がそばにあった。
あぁそれでミリファリア様がいるのか。
ここでミリファリア様に、たまたま通りがかりました、とも言えず・・・。
「え、えっと・・・一応・・・。」
「それじゃ、中入りなよ。
前の席、空いてるからとっとおいてあげる。」
「えっ?あ、でも・・・。」
「いいの、いいの。
こうして、君が元気で、生きて、今日と言う日を迎えてくれた。
ラナリアにも感謝しなくちゃ、ね?」
ラナリアとは、俺の母であるラナリア・エスシオールのことだと思う。
「えっ?母のこともご存じなんですか・・?」
「あれ、ラナリアからは何も聞いてない?」
俺も、俺の母親も、エスシオール家では分家にあたり
本家であるミリファリア様と個人的に関わることはないと思う。
母は神国中央騎士団の副団長を務めているので
仕事上で何らかのつながりがあったのかもしれないが、少なくとも
俺は母親からミリファリア様の話を聞いたことは一度もなかった。
「は、はい・・・。」
「そっか・・・ふふっ、ラナリアも変わらないなぁ・・・。」
「え?」
「義理堅い所。まっ、そこに惹かれたんだけどね。」
「あの・・・。」
「ごめんごめん、物思いにふけちゃって。
やっぱり年をとるとダメね。」
実際にミリファリア様は1000歳ぐらいにはなると思う。
だが、星騎の称号を授かったときより、肉体の老化は止まるため
見た目には、俺と同い年ぐらいにしか見えない。
「そんなことないですよ、ミリファリア様は若くて・・・。」
「見た目は、ね・・・。でも、
やっぱり千年も生きると、ちょっと疲れちゃう、かな?
「・・・ミリファリア様?」
「ふふっ、年寄りの愚痴でした。
さっ、入って、最初の演目はすぐに始まると思うから。」
「あっ、はい・・・。」
その後、俺は音楽会の会場で、ミリファリア様の奏でる演奏を聴いていた。
星士官学校に通う者において、いやこの神国に住まう者にとって、
星騎という称号は、まさに神に等しい存在である。
世界を救い、世界を支える至高の存在。
そんな人が何故、俺のことを知っていたのか。
音楽の演奏はすばらしかったが、俺の頭は疑問でいっぱいだった。




