第一章:国立星士官学校
大陸中の英才、鬼才が至高の存在である星騎の位を目指し
日々、修練に励む場所が、ディ・ラオール神国にある国立星士官学校である。
創立者は、最強の星騎士と謳われる、神王レルアレーゼ・ラオール。
設立から800年。星騎士の誕生こそないものの、
次位となる公騎士を数多に排出し、星騎士に最も近き門と言われる。
神都ラオールのやや郊外に位置する広大な敷地は
普段は向学心に富んだ厳粛な制服に身を包んだ生徒であふれかえり
活気と情熱に溢れた風景が伺える。
だが、今はこの眼に移る校舎の姿は別の情熱に満ちあふれていた。
そう、明日は神国の建国1000年を祝う、国を挙げての祭りが始まる。
千年祭の前日なのだ。
「明日は千年祭か・・・。」
学校の窓からは眺めると、敷地にも様々な出店や
ステージがつくられており、明日はこの校舎すらも
イベントの会場となることが伺える。
「カナート、何見てるの?」
窓の外を眺める俺が珍しかったのか
それ違ったセルフィアが俺に声をかけてくる。
「あれだよ。」
窓の外を指さして俺はそういった。
「あぁ、千年祭ね。
明日は講義もお休みだし、今から楽しみだよね。」
普段はお堅いセルフィアも、今からワクワクしているようだ。
「おっ、祭りの話かね、お二人さん。」
祭りときいて、にぎやか大好きのマルミが
俺とセルフィアの間に割り込んできた。
「よう、マルミ。」
「おっす、カナート!」
「おまえは千年祭、どうすんだよ?」
千年祭は大陸中の芸術、文学が集う文芸展が開かれ
数多の音楽家が歌や音を数多の会場で奏でる。
往来には万国の食を網羅した出店が立ち並び
煌びやかな衣装を身につけた建国史を語るパレードが催される。
そんな中でにぎやか代表のマルミが何に興味をもつかと思ったんだが・・・。
「あたし?あたしは会場中の食べ処を食べ回るんだ。
千年祭は国中の珍味が集う、一大イベントだからね!
私たちグルメにはたまらないわけ、わかる?」
訪ねられたマルミはさも当然のように答える。
だが、マルミは、グルメっていうか、まぁただの食いしん坊だ。
「マルミ、ヨダレでてるよ・・・。」
セルフィアが慌ててこぼれそうになったよだれを
ハンカチで拭いてあげていた。
「ジュルっと、いかんいかん。
へへっ、それより、あなた達はどうするの?
私と一緒に屋台を回ってみる?」
「ごめん、私はミリファリア様の音楽会を観たいから・・・。」
ミリファリア・エスシオール様は星騎士の一人だが
芸才に優れ1000年にわたって数多の傑作を世に送り続けている。
音楽、絵画、彫刻、文学・・・彼女の才は止まることを知らず、
星騎士であるが故に長きに渡って生み出される作品の数々。
神国が芸術において他国を圧倒している唯一にして絶対の理由がミリファリア様にある。
「音楽会なら、会場の近くにも食べ処がでるはずだよ。
あの辺りはミリファリア様の住むマルネイアから多くの店がでてくるからね。
マルネイアと言えば、最大の貿易拠点!国中どころが、世界中の珍味が・・・じゅるぅ。」
「マルミ、よだれ、よだれ・・・。」
またもや、セルフィアがよだれを拭いてあげる。
マルミ。よだれは自分でふけよ・・・。
「じゅるじゅるっ、へへ・・・・。
で、どうする?食べ処にいながらでも聴けないことはないけど・・・。」
「う~ん・・・ごめん、やっぱり、近くで観たいから。
ミリファリア様に会える、数少ない機会だし。」
「セルフィアはミリファリア騎士団長に憧れてるからなぁ・・・。
やっぱり聖騎士団へ配属希望なわけ?」
「うん、入団できる見込み、少ないけどね。」
星騎士はそれぞれ、専属の騎士団を有しており
聖騎士団はミリファリア様が騎士団長を務める直属の団となる。
芸才があるとはいえ、星騎士が率いる以上、音楽隊ではなく
れっきとした戦闘部隊、エリート騎士団という奴だ。
ミリファリア様に憧れ入団希望者も後を絶たず、
神国随一の狭き門と言われる騎士団となっている。
「そんなことない!そんなことないよ、セルフィ!
あなたはやればできるんだから!
ファルナ先輩の妹でしょ!もっと自信を持ちなさい!」
「もう、姉様の話はやめてよぉ・・・。」
「またまた、うれしいくせに~!
大陸中から集まった英才が通う、国立星士官学校において
その頂点を極める、至高の天才!
レーナレーナ様の末裔にして、その再来と言わしめる、ファルナ様!
う~ん、その人の妹なんて、あなたはなんて幸せ者なのよぉ!」
レーナレーナ様は星騎士の一人で、未だにご健在の方だ。
星騎士は歳をとらないため、その何十代目にもあたる子孫である
ファルナ先輩や目の前のセルフィアと同じ時を生きていることになる。
あの清廉な銀髪の神女といわれるレーナレーナ様の血を受け継いでいることなど
マルミはまったく気にかけていないようだ。
「べ、別にそんなことないけど・・・。」
「馬鹿者!身内が褒められてうれしくない者がおるか!
ほれほれ、素直になってみなさい、ほれ、ほれ!」
マルミがセルフィアの顔を後ろからつかんで、
こめかみのあたりをぐりぐりしてる。
俺としては、マルミのよだれがセルフィアにつかないかと、ヒヤヒヤなわけだが。
「ふ、ふえぇ・・・。」
「おい、マルミ、あまりセルフィアをいじめるなよ・・・。」
俺がみかねて、止めに入る。もちろん、よだれの方が気になって、な。
「はいはい、カナートはセルフィには優しいんだもんね。
で、あんたはどうするのよ?」
「はい?」
「千年祭、どっか行くあてがあるの?」
あて・・・か。
そういえば、あまり考えてなかったな。
「まぁ、適当に飲んで騒いで、って所か?」
「やる気ないなぁ・・・カナートは・・・。
っていうか、仮にもエスシオールの家名を冠する者が
始祖であるミリファリア様の音楽会にでなくていいわけ?」
「うるさいなぁ・・・俺は分家の方だからそんな義理はないんだよ。」
星騎士の子孫とすんなり言えるセルフィアと違って
俺のうちはいろいろと複雑だから、面倒なんだよな。
「ったく、せっかくの千年祭なのに、そんなんでいいわけ、カナート?」
「俺はファルナ先輩とユウキ先輩の模擬戦にでるのが目的だからな。
後はあんまり興味ないんだよ。」
千年祭の催しの1つに、星士官学校の騎士候補生の中でも
成績優秀なものが集まって行う模擬戦がある。
騎士候補生、とはいっても星騎を目指している公騎士もいるから
かなり、レベルの高い模擬戦になっている。
「はぁ・・・男って血の気が多いわよねぇ・・・もっと祭りを楽しむ心を・・・。」
「食い気の多いマルミに言われたくないぞ・・・。」
「う、うるさいわね・・・それで、あなたはどっち派なの?」
「はい?」
「ファルナ先輩の紅騎士団か、ユウキ先輩の白騎士団か、
どっちに付いて戦うのよ?」
模擬戦のメンバーは、戦力が均等になるよう
成績上位者10名があらかじめ、別々のチームに別れるようになっている。
後の者はなるべく希望する方に配属されるが、人数の兼ね合いもあり絶対ではない。
「えっと、確か希望通りいけば白騎士団だったかな。」
「あれ?ファルナ先輩の敵にまわるつもり?
知らないわよぉ~命落とすわよぉ~?」
「模擬戦で命落とすわけないだろ・・・。
ファルナ先輩とは一度剣を交えてみたいしな。
それに、剣聖と謳われるユウキ先輩と共に戦ってみたいって思ってな。」
「ふ~ん、ユウキ先輩に変なことしたら、
白騎士新鋭隊がだまっちゃいないから、気を付けた方がいいよ?」
「んなことしないって・・・。」
マルミは変なところでミーハーだが情報は確かだ。
白銀の剣聖と謳われるユウキ先輩には、彼女の鎧装束を真似た
白い鎧を身にまとう、白騎士親衛隊っていのがいるのは確からしい。
なんだか、本当に命が心配になってきたな・・・。




