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星騎士  作者: ぱんだまる
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第十六章:潜入

「おい、新入り、そこにある木箱を全部、医務室まで運んでおけ。」


「は、はいっ!」


俺は、そういってしぶしぶ木箱を運ぶ。

ユウキ先輩の頼みを聞いてみたら、こんなことになっていた。

俺は士官学校でそれなりに神軍の軍規や慣習を見聞きしたし

生まれも神国だから、いかにも、一般的な神国兵士に化けやすい。


ユウキ先輩はブリトニア皇国の生まれで、神国では少し目立ってしまう。

ブリトニア出身の者は剣の腕にすぐれ、多くがラスティア様所属の

征龍騎士団に配属されることもあり、他の騎士団でブリトニア出身者はほとんどいない。

マルミは楽隊希望で砦詰めの兵士役は難しいし、まぁ俺しかいなかったわけだ。


神国からの輸送隊の一人と入れ替わり、俺は何食わぬ顔で

ライム砦に潜入することができた。

できたのはいいんだが・・・軍隊の下っ端として良いように使われている。


「これ、結構おもいな・・・何はいってるんだよ・・・。」


木箱を抱え通路をよたよたと歩いて、医務室へと向かう。

本来の俺の目的は、ライム砦に詰めている戦力、つまりは

騎士位保持者の数を把握すること。


神国であれば、身分と騎士位はだいたい一致しているから

身分の高い騎士がどの程度いるかを調べればいい。


とりあえず、俺が入れ替わった兵士は第二師団所属だったし

師団長がここにいるとすれば、最低でも英騎士が一人はいる。

ただ、星騎士が団長を務めている場合、第二師団は公騎士であることが多い。

その辺りの確認をしないといけないんだが・・・。


「よ、ようやくついた・・・。」


医務室に1つめの木箱を運び終えた。

まだまだ木箱は残っていて、正直うんざりだ。

だが、命令違反して大事になられると困る。

俺はしぶしぶ、歩いてきた道を引き返していた。そんな時だ。


「おかしい、おかしいよ!

 神王陛下が言ったからって、それが絶対なの!」


聞いたことのある声が扉の向こうから聞こえてくる。


「セルフィア、神軍の誰かにそんなこと言ってるの聞かれたら

 ただではすまわないわよ、慎みなさい。」


この声も、聞き覚えがある。

やはり星騎士はこのライム砦にきていたようだ。


「ユウキ先輩がいなくなってから、姉様はおかしくなったよ!

 人が笑って暮らせるようにする、それが騎士位を持つ者の務めって言ってたじゃない!

 この侵略戦争のどこに、人の笑顔があるっていうの!」


マルミの話では、セルフィアはファルナ先輩を説得するために

神国に残ったという。だがまさか、戦場まで後を追って

説得をしているとは思わなかった。

俺は足をとめ、扉の向こうで話される内容に耳をすます。


「セルフィア、何度言えばわかるの。

 公騎士と星騎士では、同じ騎士位でも決定的に違うものがあるわ。

 公騎士でいた頃は、今の時代の人たちを幸せにしたいと願っていた。

 でも、星騎士はそうではないのよ。今の時代の人が不幸になる選択を迫ることもある。

 ユウキのことも、今回の戦争のことも、ただそれだけのことなの。」


ファルナ先輩は、星騎士としてユウキ先輩を反逆者として処理することも、

トルアノ連邦を侵略し、多数の命を奪うことも、仕方がないことだと言っている。

でも、本当にそうなのだろうか・・・。


「わからない、わからないよ、姉様!

 こんなことなら・・・こんなことなら、

 星騎士になんてなってほしくなかった!」


パシーン!

扉の向こうにも響き渡る、大きな平手の音。


「妹でも許されない発言もあるのよ、セルフィア。」


「うっ、うっ・・・」


セルフィアの涙が目に浮かぶ。

セルフィアは姉であるファルナ先輩を慕っていたし

それだけに、つらいのだろう。


「もう、話はこれでおしまいね。私はいくわ。」


や、やばっ・・・俺は慌てて扉から離れるが

俺は姿を隠すことはできなかった。

ガチャリっと扉がひらき、ファルナ先輩が姿を現す。


「ん?盗み聞きとは趣味のわるい子がいたものね。

 ふっ・・・まぁいいわ。これを泣いているあの子に渡してあげて。

 後、このことは他言無用。それで見逃してあげる。いいわね?」


ファルナ先輩は、兜を深くかぶっていたため、俺がカナートであると

気が付いていないようだ。俺はだまって、それを受け取り軽くうなずく。


「あまり、さぼるんじゃないわよ。」


それだけ言い残してファルナ先輩は去っていった。

ファルナ先輩からうけとったのは、ライム地方でも名産の

月光の滴という、香水だった。


これをプレゼントしようとしたんだけど、タイミングを失ったのだろう。

侵略先で手に入れたお土産を渡せる雰囲気では、ないだろうな。

おれ?俺も無理だよ。とりあえず後で渡そう。

それより今はもっと話すべきことがある。


扉の向こうから聞こえる嗚咽に、俺はそっと近づいた。

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