第十五章:連邦の公騎士
「まったく、おまえ達、一体何を考えている!」
領王の謁見が終わった俺達はフィリコ・フィルバレス将軍に
中隊の引き継ぎを行うため彼の執務室に案内されたが、
入るなり、将軍の怒声が響き渡った。
「っつ~、耳元でどなるなよ、将軍。」
「これが怒鳴らずにいられるか!
たった、一個中隊でライム砦を陥落させるだと!?
ライム砦には二個連隊が待機しているのだぞ!!
みすみす、殺されに行くようなものだ!」
「う・・・んなこと言ったって・・・。」
まぁ正直どうやって攻めようかは俺も頭が痛い問題だ。
「ご心配なく、フィルバレス将軍。
この任務はちゃんと、勝機があって、引き受けましたから。」
「なっ、なんだと!?」
「ほ、ホントですか、ユウキ先輩!?」
だが、ユウキ先輩の中ではすでに勝算がたっているようだ。
本当に、この人、冷静なときはすごいな・・・。
「もちろん。じゃなきゃ、引き受けるわけないだろ?
しかし、そんなことを言っているようだと、カナート。
君は勝機も見えずに任務を引き受けたんだね?」
「うっ・・・そ、それは・・・。」
「まったく、参謀殿の挑発に乗ってしまっただけか。
君もまだまだ青いところがあるんだな。」
ユウキ先輩は少しうれしそうに笑う。
俺は、顔が真っ赤になって、穴があったら入りたい気分だった。
ちぇっ、参謀の奴がわるいんだよ・・・。
「それより、ユウキ!おまえ、どうやってこの戦に勝つつもりなんだ!?」
フィルバレス将軍は、ユウキ先輩の目の前に怒濤の勢いで迫り、
ユウキ先輩を食ってかかりそうな勢いで問い掛ける。
「将軍、今回ライム砦を取り返すのは
北西の交易都市ホルンとの輸送路を確保するため、で間違いありませんね?」
「う、うむ。それは確かだ。
交易都市ホルンはライム砦を落とされ孤立状態にある。
多少の蓄えはあるだろうが、このままでは神軍の攻撃には耐えられまい。」
「つまり、そういうことです。」
あぁ、何となく俺はユウキ先輩の意図がわかった。
「交易都市ホルンの守備隊長は、トルアノ連邦でも名だたる
メイ・ロミーネ大将でしたっけ。
ロミーネ大将は確か公騎士ですよね。」
「う、うむ、よく知っているな、カナート。」
「神国では、どの国の誰が何の騎士位を持っているという情報は
割と簡単に手に入るんですよ。
確かに、メイ・ロミーネ大将が守っているのであれば、
何とかなるかもしれませんね。」
「だろう?まぁあの参謀殿がそこまで考えて、
私たちに依頼したのかは疑問だがね。」
まぁあの参謀殿に限っては、それはないだろう。
「おい、おまえ達、一体どういうことだ?
おまえ達はホルンの救援にいくのではなく、ライム砦を狙うのだぞ?」
将軍はまだよくわかっていないらしく、俺とユウキ先輩を交互に見ている。
大きい図体でキョロキョロとする様がなんともおかしくて、俺は吹き出しそうだった。
「ロミーネ大将ほどの人物であれば、防戦しながらも、ライム砦を落とし
首都との輸送路を確保しようと、考えられているはずです。
ですが、何らかの理由で、うまく攻めることができない。
俺達の目的は、ロミーネ大将がライム砦を攻められるように
何らかの形で協力すること、ですね。」
ユウキ先輩はどちらかというと、その笑いをこらえて説明している俺をみて、
吹き出しそうになっていた。
「まぁそういうことだ。それぐらいなら1個中隊の任務として
それ程難しいとは思わないね。
まだ具体的なことは現地の調査をしてみないとわからないが、何とかなるだろう。」
ユウキ先輩は、俺が参謀殿相手にいらいらしてる間にそこまで考えていたのか。
まったく、いつも助けられているのは俺の方ですよ・・・。
「そういうわけですので、フィルバレス将軍。
できるだけ早く部隊の手配をお願いしたいのですが。
ホルンが疲弊する前に私たちは行動を起こさなくてはならない。」
「わ、わかった、とりあえず中隊と進軍の手配は私がしておこう。」
将軍は言うが早いか、部下に指示をだして、さっそく手配を始めてくれた。
「カナート、マルミ。
君たちも準備をしておいてくれ。」
「あっ、はい!」
俺達は、首都トルアノにゆっくり滞在する間もなく、
再び戦場に向かうことになった。
首都トルアノを出発し、アリトナ村を越えたさらに先にライム砦はある。
砦の他に、周囲に野営地がはられ、敵の陣容が伺える。
「砦に人が収まってないですよ、あれ。
3個連隊はいるんじゃないですか・・・。
あきらかに野戦で戦う気ですね。」
「そのようだね。砦に籠もられるよりはましだと思うけど
こちらの方が数が圧倒的に少ないからね。
さてさて、どうするべきかな。」
俺とユウキ先輩は二人で砦の周辺を偵察している。
一応、ユウキ先輩は中隊長になったので、偵察を部下に任せてもいいんだけど
やっぱり自分の眼でみないとわからないこともあるらしい。
俺は、まぁおまけでついてきたようなものだ。
「ロミーネ大将が攻めあぐねる理由はどこにあると思いますか?
確かに数は多いですけど、交易都市ホルンの守備部隊も
かなりの数が配備されているって聞いたことがあるんですが・・・。」
「あぁ、それならもうわかっているんだ。
カナート、君も聞いているだろう?」
「えっ・・・?」
「今回の侵攻作戦は、神国の新設部隊である蒼騎士団が担っている。
アリトナ村に攻めてきたのは、師団長クラスだった。
それでは、騎士団長であるファルナが攻める場所といえば・・・?」
「あっ・・そういうことか・・・。」
「そう、軍事砦ライム、そして交易都市ホルン。
トルアノ連邦と戦うのであればここを押さえることが、勝敗の分かれ目になる。
当然、この砦にいるだろう。星騎の力を持って、ね。」
公騎士は、1000人の戦力に相当すると言われる。
であれば、星騎士は・・・?
一万人をもっても、たりるかどうか。
ファルナ先輩が星騎士となって、その力をもって攻めてくるのであれば
公騎士であるメイ・ロミーネ大将は、苦戦せざるを得ない。
「とはいえ、俺達で星騎士を何とかしろっていうのも
結構無茶なことだと思うんですけど・・・。」
「うん、まだ情報が足りないね。
ということで、だ。カナート。君に頼みたいことがあるんだけど。」
ユウキ先輩の有無を言わさぬ押しにまけて、俺はその頼みを聞くことになった。




