第十四章:濡れ衣
アリトナ村にかけつけたトルアノ連邦の援軍は、神軍が引き上げたため
守備兵を残して連邦の首都、トルアノへ帰還することになった。
俺達が村の防衛に協力したことは、マルミが仲良くなった
アリトナ村の村長を始め、多数の村人から連邦軍に伝えられた。
その結果、俺達は来賓として招待され、首都トルアノまで同行することになった。
まぁ来賓といえば聞こえはいいが、俺達が神国からの
亡命者であることはばれているし、その辺で事情聴取等があるのだと思う。
俺達は援軍の将であった、フィリコ・フィルバレスという人に連れられて
連邦の最高権力者である、領王への謁見を行うことになった。
「フィリコ・フィルバレス、只今戻りました」
半円状に並んだ玉座に、連邦の領王達が並んで座っている。
座席毎に細かい席次があるらしいんだけど、詳しいことは覚えてない。
ただ、真ん中の人が一番偉かったと思う。
「うむ、ご苦労だった、フィルバレス将軍。
して、そちらの者達は?」
案の定、真ん中の席に座った年輩の男が真っ先に答える。
「はっ、国境沿いの村、アリトナに滞在していた旅人で、
神軍が攻めてきた際、村人を救うために戦ってくれました。」
フィリコ将軍は、アリトナ村の人たちからの評判もよかったし
案外、俺達を本当の来賓として迎えようとしているのかもしれない。
「彼らの働きで多くの罪なき民が命を救われました。
今回の功労者です、なにとぞよしなに・・・。」
「わかった、その方らには後で恩賞を授けよう。
して、フィリコ。前線の状態はどのようになっておる?」
「アリトナ村は無事でしたが、国境沿いの村々はほぼ敵の手中に・・・。
防衛線を当初の予定より5km下げて正規軍を配備しました。」
アリトナ村以外にも連邦は立て続けに攻め込まれているようだ。
半ば奇襲同然の宣戦布告であったので、仕方ないことだとは思う。
「そうか・・・ご苦労であった。
引き続き、貴公は主力を率い、神軍の侵攻に備えてくれ。」
「はっ!」
領王のねぎらいの言葉も終わり、フィリコ将軍が退席しようとしたとき、
領王の側にたっていた、側近らしき男が将軍に声をかけた。
「フィルバレス将軍、貴公に訪ねたいことがある。」
「何か御用でしょうか、サルターラ参謀。」
一応、参謀らしい。まぁいかにも悪巧みしそうな顔ではある。
「貴公のつれてきた、その三人。
アリトナ村で集めた情報によると、ディ・ラオール神国からの亡命者と聞いている。
今回の神軍侵攻はまるで、連邦の地理を心得ているように鮮やかであった。
もしや、その者達は神軍を連邦へと手引きしたスパイではあるまいか?」
鮮やかな侵攻だったのは認めるが、少なくともアリトナ村では
神軍は地理なんて、さっぱり把握していなかった。
この参謀、大丈夫なのだろうか・・・。
「にゃ、にゃに言ってるの!
私たちスパイなんかじゃないし!村長さんに聞いてみなよ!」
マルミがとっさに反応してしまう。
まぁマルミが村長と仲良しなのは事実だし、ちゃんと調べれば濡れ衣なのは
すぐわかることだが、この参謀、一体何が狙いなんだ・・・?
「参謀!彼らは命をかけて神軍と戦い、村人を救ったのです!
それを、スパイなどと、あまりにも無礼ではありませんか!」
フィリコ将軍が一応フォローいれてくてる。
この人、やっぱりいい人だな。
「だが、その可能性は否定できまい?
もし、スパイでないというなら、その証拠を見せてもらおう。」
俺とユウキ先輩は黙って聞いているが、内心はやれやれ・・・って感じだ。
お互い目をあわせて、やれやれ、という表情を暗に浮かべる。
「証拠・・・ですと?」
「そうだ。先ほどの戦役で交易都市ホルンと首都トルアノを結ぶ輸送路上の
ライム砦が神軍の手に落ちてしまったことは貴公も存じておろう。
その三人が誠に敵でないというなら、アリトナ村と同じように
このライム砦も神軍の手から取り返してもらいたいものだな。」
ライム砦が落ちたのか・・・。
ライムは、連邦の重要拠点である交易都市ホルンを守るためにつくられた軍事砦だ。
連邦の中でもかなり堅牢な守りとなっているあの砦が
開戦から一週間もたたずに陥落、か・・・。
不意打ちとはいえ、やはり神国の戦力は絶大のようだ。
「何をバカな!
ライム砦はすでに敵の手にある!
援軍がくるまで護ればよかったアリトナ村の時とはわけが違う!」
フィリコ将軍のいうことはもっともで、むしろライム砦を落とすのは
連邦が一丸となって取り組むべき命題のはずである。
その如何によって戦局が左右されようという、重要拠点を
俺達にまかせよう、というのだから、連邦の将来は危うい。
「できる、できないを問うているのではないのだ、将軍。
やるか、やらないか、その気持ちを問うている。」
「サルターラ参謀、彼らは軍人ではない。
いくら、貴殿とは言え、彼らにそれを強制することはできないぞ。」
来賓っていう話はどこへやらっていう感じだな、もう。
「もちろん、強制はしない。
が、断れば彼らの連邦への忠誠心も、所詮はその程度、ということに・・・。」
「よさぬか、サルターラ。」
ようやく領王が止めに入る。
もうちょっと早くとめてくれてもいいものだけど、
案外この参謀の発言権とやらは、連邦でもかなり強いのかもしれない。
「はっ、陛下がそう仰せられるのであれば・・・。」
「すまぬな、若き英雄達よ。
サルターラとフィルバレスは何かと仲が悪くてな、このようなことも日常なのだ。
先ほどの事も、悪気があったわけではない、忘れてやって欲しい。」
あぁそういうことか。
ようは、参謀殿は、フィリコ将軍と対立してて、将軍がつれてきた俺達に
何かと難癖つけて、将軍を困らせようとしているわけだ。
「くぬー!
領王様!私たちでよければやりますよ!
スパイとかいわれて、黙って引き下がれますかっ!」
マルミが、ずいぶんと熱くなって、売り言葉を見事に買ってしまった。
「お、おい、マルミ、落ち着け!」
俺が慌てて止めにはいるが、予想外の所から合いの手が入ってしまう。
「そうだね、マルミちゃんの考えも悪くはない。
連邦は敵国である神国出身の我々を受け入れてくれている。
今後も連邦に滞在するのであれば、相応の礼を持って応えるべきであろう。」
ユウキ先輩はトルアノ連邦での長期滞在許可と引き替えに
この件を引き受けるつもりのようだ。
確かに、連邦での俺達の地位は危うい。
実際に、連邦が俺達の亡命を受け入れたわけではなく、
アリトナ村の人が、受け入れてくれただけにすぎない。
そこで、俺達は連邦に受け入れられた、ということを事実として認めさせると共に
今後も滞在をしたい、ということを前提に、引き受ける、というわけだ。
メリットはわかるが、それ以上に危険だと思う。
「ユウキ先輩、いいんですか、
結構危険な橋を渡ることになりますけど・・・。」
俺がユウキ先輩に話し終わらないうちに、参謀のやろうが割り込んでくる。
「はっはっは!
女性陣はやる気のようですな、フィルバレス将軍。
尻込みしている彼はほっておいて、彼女達を派遣してはいかがです?」
「誰が尻込みしてるってんだよ!
わかった、やってやるさ!」
この参謀、何かむかつくんだよな・・・。
くそっ、いらいらする。
「お、おい、カナート!
あつくなるな、冷静に考えろ!」
「水を差すことはありますまい、フィルバレス将軍。
当人達がその気なのです、問題ありませんよ。ですよね、陛下?」
結局、参謀にのせられて、引き受けることになってしまった。
ユウキ先輩が引き受けているのだから、間違いはないだろうけど、
俺ももっと冷静にならないと、くそっ・・・わかってるんだけど・・さ・・・。
「まぁ、いいだろう。しかし、さすがに三人だけで行かすわけにはいかん。
フィリコ、貴様の第一師団から、彼らに一個中隊を貸し与えてやれ。」
「一個中隊ですか?
それで、あのライム砦を陥落させよと?」
ライム砦を守護している部隊がどの程度かはわからない。
だが、アリトナ村に攻めてきた部隊だけでも1個連隊はいた。
一個中隊だと、その10分の1程度しかない。
神軍がライム砦程の場所を攻めるのであれれば、
当然アリトナ村より多くの戦力を割いていることになる。
陥落した後もホルンからの攻撃を防いでいることを考えると
それなりの守備隊、砦の規模からだと2個連隊は残しているだろう。
つまり、こちらの1個中隊の20倍にもなる戦力だ。
正直、アリトナ村での戦いがかわいく思えてくるぐらいだ。
「それ以上の軍隊を割くことはできん。
彼らは聴くところによると、神国の士官候補生だというではないか。
経歴も申し分なく、アリトナ村で実戦経験もある。
一個中隊と言えど、有効に活用してくれるであろう。」
「しかし・・・。」
「カナート、と申したか。
それで問題ないな?」
もういまさら引き返せない。ユウキ先輩に目で合図を送り、俺は答える。
「はっ、承知致しました」
「こらっ、カナート!勝手に返事を・・。」
フィリコ将軍は、参謀の思い通りにいったのが気にくわない、というより
俺達の無謀を心底心配してくれているようでもある。
やっぱり、いい人だな、この人。
「さて、話はまとまったようですな、フィルバレス将軍。
楽しみですなぁ・・・彼らがライム砦を落としてくれるのが。」
対して、参謀殿はまったく・・・。
こうして、俺達の新たな戦いが幕をあけた。




