第十二章:アリトナ村防衛戦
林道に陣取り、身を隠して敵を待つこと1時間。
道の向こうに土煙と共に大軍が姿を現す。
「かなりの数ですね・・・一個連隊ぐらいでしょうか・・・。」
「そうだね、連隊クラスだと英騎士が一人はいるかもしれないな。
英騎士がいたら私が相手をするから、その間、他の兵はカナート、君に任せるよ。」
「が、がんばってみます。」
「不利とわかったら橋の所まで退くんだ。
決断が遅れれば、それだけ被害も大きくなる。
判断は頼んだよ。私は戦いでそれどころじゃないと思うからね。」
この戦い、戦力と言えばユウキ先輩頼みと言えるのがつらい所だ。
俺達は林道を挟むように散開し、林の中に身を隠す。
やがて、遠くの土煙は次第に人の姿へと形を変え、鎧姿が黙視できるようになってきた。
「き、きた・・・。」
敵は速度をゆるめることなく林道に向かって迫ってくる。
大勢の人が放つ熱気のせいだろうか。少し周りの温度が上がってきた気がする。
俺の汗がスルリと、流れ落ち、その音で気づかれないかと、ハラハラする。
「まだだ・・・まだ引きつけて、敵の半分が林道に入るまでは待つんだ。」
ユウキ先輩ははやる俺に小声でそう促す。
林の陰に隠れている俺達には気が付かず、敵兵が林道を進んでいく。
幸いにも彼ら自身が放つ大量の足音や雑音のせいで、多少の物音はかき消される。
「いくぞ、放て・・・!」
敵の半数が林道にさしかかった所でユウキ先輩が号令と共に突撃する。
村人達が大量の弓矢を放ち、林道に沿って細長くのびた敵兵を各個撃破していく。
とたん、すさまじい衝撃と共に林道を兵士達が転げ落ちていく。
平坦な林道を転げ落ちる、とはおかしな表現だが、
これが公騎士であるユウキ先輩の力だろう。
公騎の位を授かる者は、重力を操ると言われている。
これが、公騎の力・・・。
林道の兵士達は次々と転げ落ち、はたまた弓矢で倒れ、林道に入った兵士の半数以上が
かなりの手傷を負っているだろう。
「ユウキ先輩、徐々に敵からの反撃を受けるようになっています。
そろそろ退きましょう。」
敵も奇襲の混乱から立ち直りつつある。
冷静に、軍団を組織して立ち向かわれたら一気に形成は不利になる。
「わかった、よしみんな退くぞ!」
撤退合図として簡易祝砲を3発放ち撤退を告げる。
村の人たちはみんな、林の中は庭のようなもので、すいすいと進んでいく。
俺とユウキ先輩は村人の後をついていく。
林をぬけて、少しいくと次の迎撃地点である橋まで付いた。
アリトナ村の近辺に流れるラン・ランドルフ川は海まで続く河川で
流れも速く幅も広い。また、水門が近くにあるので
川を渡ろうとしたときに開け放てば、敵を一気に下流まで流すことができる。
橋の付近には俺とユウキ先輩がたち、
村人は川を渡ってくるものがいれば弓や槍で迎撃する。
にらみ合いのような形で時間がつぶせればいいんだけど、どうなるか。
しばらくすると、林を抜けて敵が迫ってくる。
元々の数が多すぎるせいもあり、敵の数はあまり減ったようには見えない。
そのままこちらまで迫ってくるかと思ったが、手前で軍の歩みが止まる。
しばらく相手の出方を伺っていると、白旗をあげた騎兵が一騎、こちらに近づいてくる。
白旗っていうことは、使者っていうことになるんだけど、何故このタイミングで?
「どういうことでしょうか、ユウキ先輩。
神国から使者をよこすなんて・・・。」
神国側からの使者といえば、降伏勧告ぐらいしか思いつかないが
奇襲でやられた後にするのはお粗末すぎる。
別の意図だとは、思うけど、それが読めない。
「確かに、相手の意図はちょっと読めないな。
とりあえず話を聞いてみるしかないね。」
ユウキ先輩も使者の意図はわからないようであった。
俺達は、ゆっくりとこちらにせまってくる白旗を複雑な気持ちで見つめていた。




