第十一章:戦いの決意
アリトナ村の人々は、勝てる見込みがないのを知って知らずか、
徹底抗戦の構えで、村に立てこもるつもりのようだ。
すでに、ディ・ラオール神国から、トルアノ連邦に対して
一方的な宣戦布告が行われているようで、トルアノ連邦からは
まもなく援軍がくるとの知らせがあり、それがくるまで持ちこたえる、のだそうだ。
「神国と、トルアノ連邦が戦争を始めることになるなんて・・・。
俺達は、俺達はどうするべきでしょう、ユウキ先輩。」
アリトナ村には少なからずお世話にはなったし、
亡命して行き場のない俺達にとって、この場所を守りたいという思いはある。
だが、相手は神国だ。俺やマルミの生まれ故郷であり、
家族や多くの友人が住まう国である。
神国と戦う、ということは、それらの人たちを敵にまわすということだ。
「カナート、私は常に義に従い生きてきた。
今回も、それに従うつもりだ。この戦い、大義はどちらにある?
私は義のある方と共に戦う。」
大義がどちらにあるか。もちろん一方的な宣戦布告をした神国に
義はなく、そこから人々を守るトルアノ連邦に大義はある。
目的はわからないが、現状では神国の戦いは、単なる侵略でしかない。
「俺もここで神国と戦います。
ここで逃げたら、一生逃げ続けなきゃいけない気がする。」
「そうか、君も一緒に戦ってくれるなら心強いよ、カナート。
それでは私たちがどう戦うべきか考えようか。
このままでは、アリトナ村は、援軍がくる前につぶされてしまうからね。」
ユウキ先輩は紙をひろげて、この付近の地図を書いていく。
「敵は、エルフランから国境を越えて、アリトナ村にまっすぐ向かっている。
迎え撃つのはそうだな・・・ここがいいかな。」
そういって、国境とアリトナ村の中間付近を指さす。
「ここの林で奇襲をかけるのがいいだろう。
道も狭いし、人数差による不利が目立たない。」
一般的に、騎士位が1つ上がると10倍の戦力が必要と言われる。
小騎士一人に10人、その上の英騎士一人だと100人。
ユウキ先輩のような公騎士は一人で1000人分の戦力になる。
ただし、神国は世界で最も騎士位を持つ者が多い国だ。
攻めてくる部隊にもある程度の騎士位をもつものがいるだろう。
そういう意味でも、できるだけ相手にする兵は少ない方がいい。
「ふんふん、なるほどなるほど。」
気が付くとマルミがよこでうなずいている。
「おまえ、いつのまにあらわれたんだ?」
「にゃはは。
ねぇこれ、村の人たちにも話して良いよね?」
「そうだね、私とカナートだけだと心許ない。
村の人たちが協力してくれると助かるけど
私たちの言うことを聞いてくれるかどうか・・・。」
村の人と多少の交流はあっても、俺達は余所者だ。
そんな奴と一緒に戦ってくれるかどうか・・・。
「にゃはは、さっき村長さんと意気投合しちゃってさ。
こう、うちのユウキ先輩は公騎士さんだから、
神国とか、ばったばった倒しちゃいますよ!っていっちゃったんだ。」
忘れてた・・・マルミは誰とでもすぐ仲良しになれる奴だった。
っていうか、勝手にマルミの中では俺達は神国と戦うことになってたらしい。
祖国と戦うんだから、もうちょっと悩もうぜ、マルミ・・・。
「ふふっ、なかなか頼もしいね、マルミちゃんは。
それじゃ、村長さんにも話しておいてくれるかな。
最初の防衛地点は、さっきもいっていたこの林のある場所。
ただし、不利になったら、この橋の所まで下がる。
最後は村の入り口かな。」
ユウキ先輩は国境からアリトナ村の間で防衛できそうな地点を3カ所決めた。
これ、国境からここまで逃げてくる間にユウキ先輩に言われて休憩をとった場所だ。
たぶん、追っ手がきた場合に迎撃しやすい場所で休憩をとっていたんだな。
それが、ここでいきてくるとは・・・。
「ほいじゃ、村長さんに話して村の人たちにも動いてもらうね。
いってくるっ!」
マルミは元気よく飛び出していった。
「それじゃ、俺達も準備していきますか。
最初の防衛地点まで行くには、そうのんびりもしてられないですよね。」
「そうだね、行こうか。」
そうして、俺達の最初の戦いが始まった。




