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野球ってさ…  作者: 四葉亭玖隴羽亜


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25/26

第25話 二回戦 ――揺れる均衡

日曜の朝。

昨日の勝利の余韻がまだ残っているはずなのに、

グラウンドに漂う空気はどこか張りつめていた。


予選二回戦。

相手は、区内でも上位常連の強豪企業チーム。


みのりは、集まってくる部員たちの表情を見て胸がざわついた。


——昨日とは違う。

——緊張じゃない、“覚悟”だ。


晴斗は、スコアブックを抱えながら静かに言った。


「……今日も“価値”を見せる。

 勝てなくてもいい。

 でも、胸を張れる戦いをしよう」


部員たちは頷いた。


中山の不在。

会社の視線。

奇策の再構築。


すべてを抱えたまま、二回戦が始まった。


***


初回の守備。


相手の1番打者は、鋭いスイングで外野の頭を越える二塁打。


「やば……」

「強いな……」


だが、外野の二人はすぐに声を掛け合った。


「次、俺が深めに入る」

「カバー任せろ」


続く打者。

村井は配球傾向を読み、外角低めを要求。


だが——

相手はその読みを逆手に取ってきた。


内角高めのストレート。

打者は迷いなく振り抜き、センター前へ。


1点先制。


晴斗は、静かに言った。


「……相手も“読んでる”な」


みのりは息を呑んだ。


——奇策が研究されている。


***


攻撃。


田淵が打席に立つ。

投手の癖を読むが、相手は癖を隠す技術が高い。


「……見えない」


三球三振。


続く打者も、

外角に逃げる変化球に手が出ず、凡退。


「強い……」

「昨日とはレベルが違う……」


ベンチの空気が重くなる。


晴斗は、静かに言った。


「焦るな。

 “勝つため”じゃなくて、

 “価値を見せるため”の試合だ」


その言葉に、部員たちは少しだけ肩の力を抜いた。


***


中盤。


相手は、奇策の“集合知”を完全に警戒していた。


外野の歩数分担には、

打球方向を逆手に取るバント攻撃。


内野のフェイクには、

走者がフェイクを逆利用して揺さぶりをかける。


村井の配球読みには、

投手が意図的に“傾向を崩す”投球。


「……すげぇな」

「ここまで対策されるとは……」


だが、部員たちは折れなかった。


「じゃあ、次はこうしよう」

「声でカバーしよう」

「情報共有をもっと早く」


奇策は崩されても、

“集合知”は崩れなかった。


みのりは胸が熱くなった。


——これが、晴斗くんが作ったチーム。


***


六回表。

1対0のまま、試合は緊迫していた。


その時だった。


村井が、突然膝に手をついた。


「……っ」


晴斗が駆け寄る。


「どうした!」


「昨日の疲れが……

 足にきて……」


キャッチャーは、チームの頭脳。

村井が抜ければ、奇策は大きく揺らぐ。


だが、村井は首を振った。


「大丈夫です……

 最後まで……やらせてください」


晴斗は、迷った。


——無理をさせれば、怪我を悪化させる。

——でも、村井の意思を折ることにもなる。


みのりは、そっと言った。


「晴斗くん……

 “価値”を見せる試合なんだよ。

 無理をさせることが価値じゃない」


晴斗は、ゆっくりと頷いた。


「……村井。

 今日は、ここまでだ」


村井は悔しそうに唇を噛んだ。


「……すみません」


「謝るな。

 お前は十分やった」


控えの捕手が入り、試合は続いた。


***


七回裏。

最後の攻撃。


1点ビハインド。


二死一塁。


打席には——田淵。


相手投手は、癖を完全に隠している。

観察力が通用しない。


だが、田淵はバットを握り直した。


「……癖が読めないなら、

 “俺の強み”で勝負する」


初球。

外角ギリギリのストレート。

見逃し。


二球目。

インコースの変化球。

ファウル。


三球目。

外角低めのスライダー。


田淵は、迷わず振った。


打球は鋭くライトへ——

だが、相手の守備が一歩早かった。


ライトフライ。


試合終了。


スコアは、1対0。


黄昏インダストリーズ、敗退。


だが——

ベンチに“敗北の空気”はなかった。


「いい試合だった」

「強かったな、相手」

「でも……俺たちも負けてなかった」


みのりは、涙をこらえながら晴斗の方を向いた。


「……晴斗くん。

 今日の試合、すごく良かったよ」


晴斗は、静かに頷いた。


「勝てなかった。

 でも……

 “価値”は見せられたと思う」


夕陽が沈み、グラウンドに長い影が伸びる。


奇策は崩された。

チームは敗れた。

だが——

**存在意義は、確かに示された。**


次は、会社の判断が下る…

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