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野球ってさ…  作者: 双鶴


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24/26

第24話 予選一回戦 ――“価値”を示す日

土曜の朝。

冬の空気は冷たく澄み、会社裏のグラウンドには緊張が漂っていた。

今日は、ついに予選一回戦。


勝てるかどうかではない。

会社に“存在意義”を示す日だった。


みのりは、集まってくる部員たちの顔を見て胸が熱くなった。


中山の姿はない。

だが、その不在を埋めるように、全員の表情には覚悟が宿っていた。


晴斗は、スコアブックを抱えながら静かに言った。


「……行こう。

 今日の目的は“勝つこと”じゃない。

 “価値を見せること”だ」


部員たちは頷いた。


「部署を超えて支え合う姿勢」

「社会人としての責任を果たしながら戦う姿勢」

「奇策ではなく、集合知で戦う姿勢」


それを見せるための試合だった。


***


試合開始。


相手は、区内でも中堅の企業チーム。

派手さはないが、基本がしっかりしている。


初回の守備。

外野は二人で歩数を分担し、

内野はフェイクのタイミングを声で合わせる。


村井は、数字ではなく“傾向”で配球を読む。


「外角低め、来るぞ」


その読みは見事に当たり、

打者は泳いでセカンドゴロ。


「ナイス!」


ベンチから声が上がる。


みのりは胸が震えた。


——中山さんがいなくても、動けてる。


続く打者。

田淵が、投手の癖を読みながら仲間に声をかける。


「次、カーブ来るぞ。

 腕の角度が変わってる」


その情報共有が守備全体を引き締め、

三者凡退で初回を終えた。


晴斗は、静かに頷いた。


「……いいぞ。

 これが“集合知の奇策”だ」


***


攻撃。


田淵が打席に立つ。

投手の癖を読み、初球を見送る。


二球目。

わずかな指の動きの変化を見逃さず、

田淵は迷わず振った。


打球は鋭くライト前へ。


「よっしゃあ!」


ベンチが沸く。


続く打者たちも、

“観察した情報”を共有しながら打席に立つ。


「外角が甘い」

「カーブは抜け気味」

「インコースは来ない」


その積み重ねが、じわじわと相手を追い詰めた。


三回、ついに先制点が入る。


みのりは、思わず涙が出そうになった。


——勝っていることより、

——“みんなで戦っている”ことが嬉しい。


***


中盤。


相手も反撃してくる。

外野の連携が乱れ、同点に追いつかれる。


だが、誰も責めない。


「次、俺がカバーする」

「声出していこう」

「焦らなくていい」


社会人だからこそ、

“責めるより支える”空気が自然に生まれていた。


晴斗は、静かに言った。


「これでいい。

 ミスしても、支え合えばいい」


みのりは、その言葉に胸が温かくなった。


***


終盤。


1対1のまま、試合は緊迫していた。


七回裏。

村井が、相手の配球傾向を読み切る。


「ここ、外角ストレート来る。

 絶対に」


打者はその言葉を信じ、

外角を狙い撃ち。


打球はレフト前へ。


続く打者が送り、

三塁に走者が進む。


そして——

田淵が打席に立つ。


「任せろ」


投手の癖を読み、

三球目を捉えた。


打球はセンター前へ。

走者がホームに帰る。


2対1。


逆転。


ベンチが揺れた。


「よっしゃあああ!」

「田淵さん、最高!」

「これが俺たちの野球だ!」


みのりは、涙をこらえきれなかった。


——勝ち負けじゃない。

——でも、この瞬間は……嬉しい。


***


最終回。


相手の最後の打者が打ち上げたフライを、

外野の二人が声を合わせて追う。


「俺いく!」

「任せた!」


そして——

しっかりとキャッチ。


試合終了。


スコアは、2対1。


黄昏インダストリーズ、勝利。


だが、勝利よりも大きかったのは——

**“チームとしての価値”を示せたこと**だった。


部員たちは肩を叩き合い、笑い合った。


「今日……最高だったな」

「中山さんにも見せたかった」

「これなら、会社に胸張れる」


みのりは、晴斗の隣に立った。


「……晴斗くん。

 本当に、すごいよ」


晴斗は、少しだけ笑った。


「まだ一回戦だ。

 でも……

 “価値”は見せられたと思う」


夕陽が沈み、グラウンドに長い影が伸びる。


奇策は進化した。

チームは成熟した。

そして今日、

**会社に見せるべき“姿勢”を証明した。**


次は二回戦。

勝てるかどうかではなく、

**どう戦うか**が問われる。


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