表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野球ってさ…  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/26

第15話 仕事の波、野球の波

月曜の昼下がり。

オフィスの空気は、週明け特有のざらついた緊張を帯びていた。

電話が鳴り、キーボードが叩かれ、誰かのため息が遠くで落ちる。


黄昏インダストリーズは、今まさに繁忙期の真ん中にいた。


みのりは総務部のデスクで書類を整理しながら、

部員たちの顔を思い浮かべていた。


——今日、みんな来られるかな。


昨日の勝利は確かに大きかった。

だが、社会人の現実は勝利の余韻を待ってはくれない。


***


夕方。

グラウンドに集まったのは、いつもの半分ほどだった。


中山が息を切らしながら駆け込んでくる。


「すみません……ライン止まってて……」


村井は書類の束を抱えたまま。


「今日、決算の締めで……30分だけなら……」


田淵はネクタイを緩めながら言った。


「客先から直帰です。

 でも……来たかったんで」


みのりは胸が痛んだ。


——勝った翌日なのに、こんなに疲れてる。


晴斗は、静かに全員を見渡した。


「……無理して来なくていいんだぞ」


その言葉に、誰も返事をしなかった。

返事をすれば、どこかで“負け”を認めるような気がしたからだ。


中山が、ぽつりと言った。


「来たいんですよ。

 勝ったからこそ……続けたいんです」


村井も続く。


「奇策2.0、昨日やっと形になったんで……

 今日やらないと、忘れそうで」


田淵は苦笑しながら言った。


「仕事はキツいですけど……

 野球は、やめたくないんですよ」


晴斗は、ゆっくりと息を吸った。


「……わかった。

 じゃあ、今日は“短く、濃く”やる」


みのりは、その言葉に胸が温かくなった。


***


練習が始まる。


昨日の試合で得た感覚を、

短時間で再現するためのメニュー。


・外野の歩数合わせ(5分)

・配球の数字読み(5分)

・観察力バッティング(5分)

・軽いノック(10分)


奇策2.0の“核”だけを抽出した、

社会人のための練習だった。


中山は、昨日よりも歩数が安定していた。

村井は、数字で配球を読む精度が上がっていた。

田淵は、投手の癖を読むスピードが速くなっていた。


みのりは、その光景を見て胸が震えた。


「……すごい。

 昨日の勝利が、ちゃんと力になってる」


晴斗は、静かに頷いた。


「勝つと……人は変わる。

 でも、勝ったあとに“続けられるか”が一番難しい」


みのりは、晴斗の横顔を見つめた。


「晴斗くんは……続けられる?」


晴斗は、少しだけ笑った。


「続けるよ。

 俺だけじゃなく、みんなで」


その言葉は、以前の晴斗なら絶対に言えなかった言葉だった。


***


練習後。

部員たちは疲れ切っていたが、

その表情には確かな充実感があった。


「短かったけど……濃かったな」

「これなら続けられるかも」

「仕事あっても、やれるんだな」


みのりは、晴斗の隣に立った。


「……今日の練習、すごく良かったよ」


晴斗は、少しだけ空を見上げた。


「奇策は……仕事と両立できなきゃ意味がない。

 社会人野球は、時間との戦いだ」


みのりは頷いた。


「うん。

 でも……今日のやり方なら、きっと続けられるよ」


晴斗は、静かに言った。


「続けるために……

 “勝つための奇策”じゃなくて、

 “続けるための奇策”に変えていく」


みのりは、その言葉に胸が熱くなった。


「晴斗くん……

 あなた、本当に変わったね」


晴斗は照れくさそうに笑った。


「変わったんじゃない。

 みんなに変えられたんだ」


夕陽が沈み、グラウンドに長い影が伸びる。


奇策は進化し続けている。

チームも進化し続けている。

そして晴斗自身も、静かに前へ進んでいた。


だが、この先には——

“勝利よりも厳しい現実”が待っている。


それでも、今日の練習は確かに未来へ繋がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ