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野球ってさ…  作者: 双鶴


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14/26

第14話 初めての“手応え”

土曜の午前。

薄曇りの空の下、会社裏のグラウンドには、いつもより早く部員たちが集まっていた。

理由は一つ。

今日は、久しぶりの練習試合だった。


相手は、同じ区内の中小企業チーム。

強豪ではない。

だが、黄昏インダストリーズにとっては十分すぎる相手だった。


みのりは、集まってくる部員たちの表情を見て、胸が温かくなった。


「……みんな、いい顔してる」


中山が笑う。


「奇策2.0、今日こそ試せますね」


村井も頷いた。


「数字で配球読むの、昨日からずっと練習してました」


田淵はバットを肩に担ぎながら言った。


「営業の観察力、見せてやりますよ」


晴斗は、少し離れた場所でスコアブックを閉じた。


「……行くぞ」


その声は、以前よりも落ち着いていた。


***


試合開始。


初回の守備。

相手の1番打者が構える。


晴斗は、村井に小さく合図を送った。


村井は、投手の癖とカウントを数字で読み、外角低めを要求する。

投手が投げたボールは、要求通りのコースへ。


打者は泳ぎ、セカンドゴロ。


「よしっ!」


ベンチから声が上がる。


村井は、ミットを軽く叩いた。


「……読めた」


晴斗は静かに頷いた。


「数字は嘘をつかない」


***


続く2番打者。

中山が外野で構える。


打球は高く上がった。

だが、中山は慌てない。


歩数を数え、落下点に入る。

フェイクの動きも混ぜ、相手の走者を惑わせる。


そして——

完璧なタイミングでキャッチ。


「ナイスキャッチ!」


部員たちが歓声を上げる。


中山は照れくさそうに笑った。


「製造ライン、今日も順調っす」


みのりは、その光景を見て胸が震えた。


「……本当に、変わったんだ」


晴斗は、静かに言った。


「変わったんじゃない。

 “自分たちの野球”になっただけだ」


***


攻撃。


田淵が打席に立つ。

相手投手の癖を観察し、初球を見送る。


二球目。

投手の指の動きがわずかに変わる。


田淵は、迷わず振った。


打球は鋭くライト前へ。


「よっしゃあ!」


ベンチが沸く。


田淵はベース上でガッツポーズをした。


「営業の観察力、悪くないだろ」


晴斗は小さく笑った。


「お前の強みだ」


***


試合は終盤へ。

黄昏インダストリーズは、奇策と基本の融合で相手を翻弄していた。


守備は安定し、攻撃は繋がる。

奇策は奇策ではなく、

“社会人の経験を活かした戦術”になっていた。


みのりは、胸が熱くなるのを感じた。


「……晴斗くん。

 みんな、本当に強くなったね」


晴斗は、少しだけ空を見上げた。


「奇策は……俺のものじゃない。

 みんなの仕事と経験があって、初めて成立する」


みのりは、静かに頷いた。


「うん。

 それが一番いいよ」


***


最終回。

相手の最後の打者が打ち上げたフライを、中山が落ち着いて捕る。


試合終了。


スコアは——

4対1。


黄昏インダストリーズ、勝利。


部員たちは歓声を上げ、互いに肩を叩き合った。


「やったぞ!」

「奇策2.0、マジでハマった!」

「これ……本当に勝てるかもしれない!」


みのりは、涙をこらえながら晴斗の方を向いた。


「……晴斗くん。

 本当に、ありがとう」


晴斗は、少しだけ笑った。


「まだ一勝だ。

 でも……悪くない」


その笑顔は、これまでで一番自然だった。


奇策は進化した。

チームは成長した。

そして、初めて“勝利の手応え”を掴んだ。


だが、この勝利はまだ序章にすぎない。


社会人野球の現実は、

この先もっと厳しくなる。


それでも——

今日の勝利は、確かに未来へ繋がっていた。


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