表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野球ってさ…  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/26

第11話 崩れかけた輪

金曜の夕方。

会社裏のグラウンドに、週末前の疲労が重く沈んでいた。

空は曇り、照明の光が地面にぼんやりと滲んでいる。


部員たちは集まっている。

だが、誰も口を開かない。

昨日までの“奇策の揺らぎ”が、全員の胸に影を落としていた。


みのりは、その空気を見て胸が痛んだ。


「……今日も、重いね」


晴斗は、スコアブックを閉じたまま動かない。


「重いのは……俺のせいだ」


その言葉は、誰に向けたものでもなく、ただ空気に溶けた。


***


練習が始まる。

だが、奇策の動きはさらに悪化していた。


中山は落下点の歩数が合わず、苛立ちを隠せない。

村井はワンバウンド捕球で手を痛め、顔をしかめる。

田淵は初球の見極めに集中できず、バットを地面に叩きつけた。


「……もう無理だよ」

「仕事もあるし、こんな練習じゃ……」

「奇策って、本当に意味あるのか?」


その声は、誰かを責めるものではなく、

“疲れ切った大人の本音”だった。


晴斗は、黙って聞いていた。

その沈黙が、逆に部員たちの不安を増幅させる。


みのりは、耐えきれず声を上げた。


「みんな、ちょっと待って!

 晴斗くんは……」


だが、その言葉を遮るように田淵が言った。


「桐谷さん。

 俺たち、もう限界なんですよ」


みのりは言葉を失った。


***


練習後。

照明が落ち、グラウンドが暗闇に沈む。


部員たちは疲れ切った顔で帰っていく。

その背中には、昨日までなかった“距離”があった。


みのりは、晴斗の隣に立った。


「……晴斗くん。

 今日は、ちゃんと話した方がいいよ。

 みんな、不安なんだよ」


晴斗は、しばらく黙っていた。

そして、低い声で言った。


「……俺のせいだ」


「違うよ」


みのりは即座に否定した。


「奇策は間違ってない。

 でも……奇策に合わせるために、みんなが壊れそうになってる。

 それを見て、あなたが一番苦しんでる」


晴斗は、拳を握った。


「俺が言い出したんだ。

 俺が責任を取らなきゃいけない」


「責任って……何?」


みのりの声は震えていた。


「勝つこと?

 奇策を成功させること?

 それとも……みんなを守ること?」


晴斗は答えられなかった。


みのりは、静かに続けた。


「晴斗くん……

 あなたは、また一人で全部背負おうとしてる。

 それじゃ、昔と同じだよ」


晴斗の目が揺れた。


「……昔?」


「高校の時。

 あなたは一人で責任を背負って、壊れた。

 今も同じ道を歩いてる」


晴斗は、息を呑んだ。


みのりは、涙をこらえながら言った。


「お願い……

 もう一人で抱えないで。

 私も、みんなも……あなたを支えたいんだよ」


沈黙が落ちた。

風が吹き、ネットが揺れる音だけが響く。


晴斗は、ゆっくりと目を閉じた。


「……どうすればいいんだ」


その声は、弱さではなく“本音”だった。


みのりは、そっと晴斗の手に触れた。


「一緒に考えよう。

 奇策を続けるために、

 “社会人だからこそできるやり方”を」


晴斗は、ゆっくりと頷いた。


その頷きは小さかったが、

確かに“崩れかけた輪を繋ぎ直す”第一歩だった。


***


帰り道。

街灯の光が歩道に落ち、二人の影が並んで伸びる。


みのりは、晴斗の横顔を見つめた。


「……ねぇ、晴斗くん」


「なんだ」


「あなたは、間違ってないよ。

 ただ……一人でやろうとしすぎただけ」


晴斗は、少しだけ笑った。


「……そうかもしれない」


その笑顔は弱々しかったが、

確かに“前に進むための笑顔”だった。


みのりは、その笑顔を見て胸が温かくなった。


奇策は揺らいでいる。

チームも揺らいでいる。

晴斗も揺らいでいる。


だが、揺らぎの中でしか見えないものがある。


それは、

“支え合うことでしか前に進めない大人たちの姿”だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ