第3話 一秒
災害区域の中心部だった。
建物同士が折り重なり、倒壊の層が何段にも積み上がっている。
《ガードライン》がこれまで対応してきた現場より、
明らかに密度が高く、重い。
「生存反応、一」
「二次崩落リスク、高」
指揮車のモニターに、赤が広がる。
だが、数値は――止まっていた。
成功確率:72%
引く判断としては、決定打に欠ける。
「無人機、展開」
早瀬 迅の声は、いつも通りだった。
建物外周に二機。
外側から梁と床を押さえ、沈み込みを抑える。
残る一機だけが、内部へ入る。
人が通れる幅を、最低限維持するためだけの機体だった。
「外部支保、安定」
「内部保持、開始します」
瓦礫が、わずかに持ち上がる。
人ひとりが、身体を横にして通れるだけの隙間が現れた。
♦︎
内部映像が切り替わる。
倒壊した階段の下。
梁と床の間に、身体が挟まれている。
動きは、わずかだ。
「要救助者、意識あり」
「呼吸反応、確認」
迅は、数値から目を離さない。
二次崩落リスク:高
猶予時間:未確定
撤退アラームは、まだ鳴らない。
「救助班、進入」
救助班が、無人機の保持する隙間に身体を滑り込ませる。
内部では、体勢を変える余地がほとんどない。
瓦礫を動かすことはできない。
触れれば、全体が動く。
「接触確認」
「声かけ、反応あり」
救助班の声は、落ち着いている。
だが、迅には分かる。
持ち上げられない。引き抜けない。
無人機は、支えているだけだ。
構造を“直す”ことはできない。
♦︎
「……構造、再計算入ります」
オペレーターの声が、わずかに遅れる。
モニターの一部が、瞬間的に止まった。
「……何秒だ」
「一秒未満です!」
一秒。
この現場では、
まだ動けるか、もう動けないかの境目だ。
床が、わずかに沈む。
「退路、縮小」
「内部保持、限界近い」
迅は、映像を見たまま告げた。
「――引け」
♦︎
「了解、撤退します」
救助班は、即座に身体を引く。
要救助者に触れた手を、離す。
「……すみません」
それが、最後の声だった。
――ピッ。
――ピッ。
――ピッ。
撤退アラーム発令
想定猶予時間:10秒
無人機が、保持を解く。
救助班が、隙間から外へ出る。
次の瞬間、
内部が、沈み込んだ。
♦︎
外は、静かだった。
誰も、声を出さない。
無人機は、破損していない。
救助班も、全員戻っている。
ログが表示される。
無人機支援:有効
判断上書き:無
結果:救助不可
迅は、ヘルメットを外した。
「……限界だった」
誰も、否定しない。
否定できない。
無人機も、AIも、
できることは、すべてやった。
それでも――
助けられない場所は、存在する。
♦︎
次の現場要請が、すでに入っている。
迅は、表示を閉じた。
また一線を引く。
また、決める。




