第2話 成功率
同じ災害区域の中で、
《ガードライン》は次々と現場に投入された。
最初の撤退判断から、まだ数時間しか経っていない。
「次の現場、生存反応あり」
「二次崩落リスク、中」
指揮車のモニターが更新される。
上空から集約された観測データが、静かに反映された。
指揮車のモニターには、航空支援統合管制機《夕凪》から送られた広域観測情報が重ねて表示されていた。
数値は、直前の現場と比べても明らかに低い。
探索可能範囲は広く、構造の歪みも限定的だ。
「無人機、先行投入」
早瀬 迅の指示で、
四脚型の支援無人機が三機、瓦礫の内部へ進入する。
「構造スキャン、問題なし」
「支保開始します」
アームが伸び、
傾いた床と梁を同時に押さえる。
無人機同士が位置を微調整し、
人が入る前に、通路が形作られていく。
「……早いな」
誰かが、思わず呟いた。
実際、早かった。
人が工具を抱えて入るより、
無人機のほうが確実で、無駄がない。
それを否定できる者は、
もうこの現場にはいなかった。
「人、入れる」
救助班が突入する。
要救助者は、高齢の女性だった。
瓦礫に挟まれてはいるが、
無人機が支えている間は、構造が安定している。
「救助、完了!」
担架が外に出た、その瞬間。
S-HADが、短く通知を出した。
二次崩落リスク:上昇
だが、撤退アラームは鳴らない。
数秒後、
無人機が離脱した場所が、小さく崩れた。
「……ギリギリだな」
誰かがそう言い、
それ以上は続かなかった。
だが――
誰も死んでいない。
♦︎
その次の現場も、
さらにその次も。
無人機は止まらなかった。
支え、切り、除去し、退く。
S-HADの警告は、早く、正確だった。
「撤退アラーム、発令前に離脱完了」
「判断、問題なし」
ログが、淡々と積み上がっていく。
救助成功:4件
人的損失:0
成功率は、数字で示される。
九十七パーセント。
その数字が表示された瞬間、
誰も声を上げなかった。
だが、
誰も否定もしなかった。
「……本当に、変わったな」
誰かが言った。
「前なら、人が入ってた場所だ」
「無人機が、全部やってる」
その言葉に、軽さはなかった。
現場の空気が、
少しずつ変わっていく。
行ける。
大丈夫だ。
そんな感覚が、
誰も口にしないまま共有されていた。
♦︎
指揮車の中で、
早瀬は一人、ログを見ていた。
判断は、間違っていない。
撤退も、進行も、すべて合理的だ。
過去の自分なら、
もっと迷っていたはずだ。
だが今は――
数字が、背中を押してくれる。
成功確率:97%
その数字を、
疑わなくなっている自分に気づく。
忙しさのせいか。
現場の流れのせいか。
それとも、
誰も止めなかったからか。
判断の重さが、
少しずつ軽くなっている。
「……慣れるなよ」
誰に向けた言葉でもなく、
早瀬は小さく呟いた。
無人機は、今日も正しく動いている。
AIも、正しい警告を出している。
だからこそ――
次も、行けると思ってしまう。
それが、危険だと分かっていながら。




