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執事の役目

クラリスが、先手を打つ。

「【火球(ファイアボール)】!」


二発の火球が、ゴーレムの顔面に命中する。

爆炎が上がり、視界を奪う。


「今ですわ!」


俺は地面を蹴り、ゴーレムに接近する。


(……だが、本気は出せない)

クラリスが見ている。ここで全力を出したら、完全にバレる。


煙の中、ゴーレムの巨体が見える。


(……右腕が動く)


鉄球が、俺に向かって振り下ろされる。

俺は、体を横にずらす。


ドガァンッ!


鉄球が、床に激突する。


(……この隙に)


その隙に、俺はゴーレムの腕に飛びつく。

鉄の表面を、必死に掴みながら駆け上がる。


(……胸の魔石が見える)


だが、ここで俺が破壊したらバレる。

俺は剣で、魔石の周りの装甲を削る。


ガキィン! ガキィン!

火花が散る。


(……これなら、ただの囮に見える)


「カイト! 危ない!」


お嬢様の声が聞こえる。

ゴーレムの左腕が、俺を掴もうと迫る。


俺は、慌てて後ろに跳ぶ。

着地した瞬間、足がもつれる。


(……しまった、演技がオーバーか?)

だが、これくらいの方が自然だ。


着地と同時に、クラリスが魔法を放つ。


「【氷の(フロストボルト)】!」


氷の矢が、ゴーレムの足元に突き刺さる。

足が凍りつき、動きが鈍る。


「……はあ、はあ……」


クラリスが、息を切らしている。

さすがの彼女も、魔力の消耗が激しいようだ。

額に汗が浮かび、顔色が悪くなっている。


「もう、時間がありませんわ……!」


クラリスが、お嬢様を見る。


「エリアナ様! 今ですわ!」


「は、はい!」


お嬢様が、杖を構える。


「【ウィンド……カッター……】」


魔力が、震えながら集まっていく。

お嬢様の額にも、汗が浮かんでいる。必死に魔力を絞り出している。


(……頼む、間に合ってくれ)


ゴーレムの足の氷が、ヒビ割れ始める。


「エリアナ様! 撃って!」


「【風刃(ウィンドカッター)】!」


風の刃が放たれる――

だが、軌道が大きく逸れている。

魔石どころか、ゴーレムにも当たらない。


(……っ!)


その瞬間、クラリスが杖を振る。


軌道修正(アジャストメント )――!」


風の刃が、急激に曲がる。

そして――


ギリギリで軌道が修正され、魔石の近くに命中した。


ピシィッ……。


魔石に、小さなヒビが入る。


「……まだ、足りませんわ!」


クラリスが叫ぶ。

その声には、焦りが混じっている。


ゴーレムが、完全に凍結を破る。

そして、こちらに向かって――

両腕の鉄球を、同時に振り下ろす。


「――ッ!」


全員、それぞれの方向に飛び退く。


ドガァァァンッ!!


床が崩れ、巨大な穴が開く。

土煙が舞い上がる。


「……はあ……はあ……」


お嬢様が、膝をつく。

魔力を使い果たしたようだ。顔色が真っ青で、立つこともできない。


クラリスも、杖にもたれかかっている。


「……これは、厳しいですわね」


クラリスが、苦笑する。


「流石に、(魔力)が……」


彼女の手が、震えている。


(……クラリスさんでも、ここまで消耗するのか)


俺も、息を切らしてみせる。

実際は、まだまだ余裕がある。だが、それを見せるわけにはいかない。


(……まだ、倒せない)


ゴーレムは、まだ動いている。

魔石にヒビは入ったが、完全には破壊できていない。


ドシン……ドシン……。


再び、ゴーレムがこちらに向かってくる。

その赤い目が、こちらを捉えている。


「……どうしましょう」


クラリスが、呟く。


「このままでは、私たちの魔力が先に尽きますわ……」


その時。


ゴーレムの胸の魔石が、微かに光った。


(……あれは)


魔石のヒビが、わずかに広がっている。

さっきの一撃が、効いている。


ならば――

もう一撃、同じ場所に当てれば。


「クラリスさん」


俺が、彼女を見る。


「もう一度、同じことを」


「……無理ですわ」


クラリスが、首を横に振る。


「私の魔力は、もう……」


そう言いながら、彼女は杖にもたれかかる。

手が震え、立っているのがやっとだ。


「エリアナ様も……」


お嬢様は、完全に膝をついている。

顔色は真っ青で、呼吸も荒い。


「ふええ……もう、魔法が……撃てません……」


(……二人とも、完全に魔力切れか)


俺は、ゴーレムを見る。


ドシン……ドシン……。


再び、こちらに向かってくる。

両腕の鉄球を引きずりながら、ゆっくりと。


「……カイトさん」


クラリスが、俺を見る。

その目には、懇願の色があった。


「あなただけが……頼りですわ」


「……っ」


(……もう、隠してる場合じゃない)


二人を守らなければ。

ここで死なせるわけにはいかない。


俺は、剣を構える。


「……お二人は、下がっていてください」


「カイト……?」


お嬢様が、不安そうに俺を見る。


「大丈夫です。俺が、何とかします」


「で、でも……一人じゃ……」


「お嬢様」


俺は、お嬢様を見る。


「俺は、お嬢様の執事です」


そして、微笑む。


「お嬢様を守るのが、俺の仕事ですから」


お嬢様が、涙を浮かべる。


「……カイト……」


俺は、前を向く。


ゴーレムが、咆哮を上げる。


(……さあ、やるか)


もう、隠す必要はない。

クラリスには、既にバレている。


ならば――


俺は、剣を構え直す。

魔力を、解放する。


ゴオオオッ――


空気が、震える。


「……!」


クラリスが、目を見開く。


「これは……まさか……」


俺の周りに、魔力の光が渦巻く。

今まで抑えていた力を、全て解放する。


「行くぞ」


俺は、地面を蹴った。

ゴーレムに向かって、一直線に。


ドシン!


ゴーレムが、鉄球を振り下ろす。

だが――

俺には、遅い。


避ける。


鉄球が床に激突する。

その衝撃を利用して、俺は跳躍する。


ゴーレムの頭上へ。


(……あの魔石を――)


剣に、魔力を込める。


空中で、剣を振り下ろす。

狙うは、胸の魔石――


その瞬間。


ゴーレムの左腕が、こちらに迫る。


(……っ!)


間に合わない。

このままでは、叩き落とされる。


だが――


(……やるしかない!)


俺は、剣を振り抜く。


そして――

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