表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/30

笑顔の仮面

会議室を出た後、エリアナ、リリア、シェリルの三人は、しばらく廊下を並んで歩いていた。

スカーレットは、先ほど一人で去ってしまった。


「あの……これから、よろしくお願いします」

エリアナが、シェリルに向かって言う。


「うん、こちらこそ! よろしくね」

シェリルが、明るい笑顔で答える。


「……よろしく」

リリアも、小さく頷く。


「リリアちゃんって、あんまり喋らないタイプ?」

シェリルが、興味深そうにリリアを見る。


「……うん」


「そっか。でも、それもいいよね。私、結構喋る方だから、バランス取れるかも」

シェリルが、笑う。


その明るさに、エリアナも少し安心した様子だった。


「それじゃあ、これから準備とか色々大変だけど、頑張ろうね」


「はい!」

エリアナが、元気に答える。


三人は、学院の廊下を歩いていく。

俺は、少し離れたところから、その様子を見ていた。


シェリルは、明るく振る舞っている。

だが、先ほどのスカーレットとのやり取りを考えると、本当に大丈夫なのだろうか。


学院の玄関に近づいた時、前方に複数人の生徒がたむろしているのが見えた。

制服を着た、五人ほどの生徒たちだ。


その中の一人が、こちらを見ると――


「あ、シェリルじゃん!」


声をかけてきた。


「お待たせー!」

シェリルが、明るく手を振りながら、その生徒たちに向かって駆け出す。


「じゃあね、二人とも! また学院で!」

シェリルが、振り返ってエリアナとリリアに笑顔を向ける。


「はい、また明日!」

エリアナが、笑顔で手を振る。


「……また」

リリアも、小さく手を振った。


シェリルは、生徒たちと合流すると、何か楽しそうに話し始めた。


「良かったです。シェリルさん、元気そうで」

エリアナが、ほっとした様子で言う。


「……うん」

リリアも、頷く。


だが、俺には分かった。

スカーレットとのことがあっても、もう吹っ切れたのか。

それとも――。


俺は、シェリルの様子を見ていた。

笑っているはずなのに、その表情が、どこか固まって見えた。


生徒たちは、何か話しながら、学院の門の方へと歩き出した。


その時――

一瞬、シェリルの顔が曇ったのを、俺は見逃さなかった。


ほんの一瞬だ。

すぐに笑顔に戻ったが、確かに何かを抱えている表情だった。


学院の窓際。

腕を組み、眉をひそめた少女が、シェリルの背中を見つめていた。


誰かが、じっと観察している。

だが、それに気づいている者は、今はまだ誰もいない。


◇◇◇


シェリルが生徒たちと去った後、エリアナとリリアは、少し困ったような顔をしていた。


「……どうしましょう」

エリアナが、小さく呟く。


「……スカーレット……と、シェリル……」

リリアも、心配そうに言う。


「どうにか、二人の仲を取り持てないでしょうか……」

エリアナが、真剣な表情で言う。


「……でも」

リリアが、首を傾げる。


「……二人のこと……よく知らない」


「そうなんですよね……」

エリアナが、困ったように頷く。


シェリルのことも、スカーレットのことも、二人はまだ詳しく知らない。

どんな性格なのか、何が好きなのか、何が嫌いなのか。


そういった情報がなければ、仲を取り持つのも難しい。


「何か、好きなものとか、色々分かればいいのですが……」

エリアナが、悩ましげに言う。


その時――

リリアが、ピンと来たように顔を上げた。


「……好きなもの、わかるところ……ある」


「え? そんなところがあるんですか!?」

エリアナが、驚いた表情を見せる。


「……うん」

リリアが、小さく頷く。


「……みんなで、買い物……行こう」


「買い物……?」


「……そう。一緒に買い物すれば……好きなもの、わかる」


リリアの言葉に、エリアナの表情が明るくなる。


「それは名案ですね、リリア!」

エリアナが、リリアを褒める。


「……えへへ」

リリアが、照れたように頬を染める。


普段あまり表情を変えないリリアが、少し嬉しそうにしているのが微笑ましい。


だが、その時――


「お嬢様、申し上げにくいのですが……」

俺が、口を開く。


「スカーレットさんは、来ますかね?」


「……え」

エリアナの表情が、固まる。


「……あ」

リリアも、気づいたように顔を曇らせる。


そうだ。

いくらいい案を思いついても、スカーレットが来なければ意味がない。


あの様子では、シェリルと一緒に買い物に行くなど、到底承諾しないだろう。


「また、振り出しですね……」

エリアナが、がっくりと肩を落とす。


「……そう、だね」

リリアも、顔を下げる。


(……やってしまった)


俺は、少し後悔した。

二人の落ち込んだ様子を見て、俺は何とかしなければと思った。


そして――

一つの方法を思いついた。


「お嬢様」

俺が、エリアナに声をかける。


「はい……?」

エリアナが、顔を上げる。


「俺に、いい案があります。任せてくれませんか?」


「え? そうなの、カイト!?」

エリアナの表情が、一気に明るくなる。


「本当……ですか?」

リリアも、期待の眼差しを向けてくる。


「はい。スカーレットさんを、買い物に誘う方法があります」

俺が、自信を持って言う。


「それは……どんな方法ですか?」

エリアナが、身を乗り出す。


「それは、当日までのお楽しみということで」

俺が、少し意地悪く笑う。


「もう、カイトったら……」

エリアナが、頬を膨らませる。


「……カイト……ずるい」

リリアも、少し不満そうに言う。


だが、二人とも、さっきまでの落ち込んだ様子は消えていた。


「では、私たちはシェリルさんをお誘いしておきますね」

エリアナが、決意したように言う。


「スカーレットさんは、お願いします」


「お任せください」

俺が、頷く。


「……頼んだ」

リリアも、小さく頷く。


「それじゃあ、今日のところは、一旦帰りましょうか」

エリアナが、言う。


三人は、学院を後にして、帰路についた。

夕日が、長い影を作っている。


俺は、心の中で思った。


(……さて、どうやってスカーレットを説得するか)


あの頑固そうな性格だ。

簡単には首を縦に振らないだろう。


だが、俺には一つ、勝算があった。


スカーレットの姉、ヴィクトリア。

彼女なら、きっと協力してくれるはずだ。


夕暮れの道を歩きながら、俺は明日の作戦を考え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ