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18/30

模擬戦の開幕

朝、お嬢様は鏡の前で何度も深呼吸をしていた。

「大丈夫……大丈夫……」

その手は、わずかに震えている。


「お嬢様」

俺が声をかける。


「は、はい……」

お嬢様が、振り返る。


「今日は、リリアさんと頑張ってきた成果を見せる日です」


「……はい」

お嬢様が、頷く。

「私、頑張ります」


その目には、不安と決意が混じっていた。


「俺も、応援しています」


「ありがとうございます、カイト」

お嬢様が、小さく微笑む。


俺たちは、学院へと向かった。


教室に着くと、生徒たちが黒板の前に集まっていた。


「見て見て、対戦表が出てる!」

「俺の相手、誰だ?」

「マジか、あいつと当たるのかよ」


ざわざわと、教室が騒がしい。

お嬢様と俺も、黒板に近づく。


そこには、対戦表が張り出されていた。


【第五試合】

エリアナ・フォンブルク vs スカーレット・ローズウェル


「……!」

お嬢様が、息を呑む。


「ローズウェルさん……!?」

お嬢様の声が、震える。

「あの……あの方が相手なんですか……!?」


お嬢様が、俺を見る。

その目には、明らかな動揺があった。


(……良かった)


俺は、内心で安堵する。

対戦相手はランダムと言っていたが――

結果的にスカーレットとお嬢様が対戦することになった。


これで、あとは、お嬢様次第だ。


「カイト……私、どうしたら……」

お嬢様が、不安そうに俺を見る。


「大丈夫です。お嬢様なら――」


その時。


「覚悟はできて?」


冷たい声が聞こえた。


振り返ると、スカーレットが立っていた。

腕を組み、冷たい目でお嬢様を見ている。


「ローズウェル、さん……」

お嬢様が、後ずさる。


「今日の模擬戦、覚悟しておきなさい」

スカーレットが、一歩近づく。

「私は容赦しないわ」


「……っ」

お嬢様が、唇を噛む。


そして、スカーレットは俺を見た。


「それと、あなた」


「……はい」


「あの時の言葉、忘れていませんからね」

スカーレットが、冷たく言う。

「あなたの主人が、私にやられる様を――しっかりと見ていなさい」


そう言い残して、スカーレットは去っていった。


「……あの時?」

お嬢様が、不思議そうに俺を見る。

「カイト、何か言いましたか?」


「あ、いえ……」

俺は、慌てて誤魔化す。

「ちょっと、言い忘れていたことがありまして」


「え? 何をですか?」


「いえ、大したことでは……」

俺は、視線を逸らす。


お嬢様に、スカーレットと戦うように仕向けたことは――

今は、言わない方がいい。


模擬戦の会場は、学院の外に建設されたスタジアムだった。

巨大な円形闘技場。

観客席が、ぐるりと取り囲んでいる。

学院の催し物でも使われる、立派な建物だ。


「すごい……」

お嬢様が、呟く。


一年生たちが、続々と会場に入ってくる。

みんな、緊張と期待の入り混じった表情だ。


「全員、グラウンドに集合!」


教師の声が響く。

生徒たちが、グラウンドの中央に集まる。

お嬢様も、その中に混じる。


俺は、観客席の端から見守る。


「これより、一年生の模擬戦を開始する!」

教師が、大きな声で言う。


「ルールを説明する!」

「魔剣士や魔導銃士など、各自の戦闘スタイルに合わせて武器の使用を許可する!」


教師が、生徒たちを見回す。


「戦闘不能と判断した場合、こちらで試合を止める!」

「これは実戦形式の模擬戦だ。怪我をしないよう、各自注意すること!」


生徒たちが、緊張した面持ちで頷く。


「一組目は十分後に開始する! 準備しろ!」

「他の者は、観客席で観戦だ! 解散!」


生徒たちが、それぞれの場所へと散っていく。

お嬢様も、俺とリリアと一緒に観客席へと向かった。


お嬢様は、グラウンドを見下ろしている。

既に、第一試合が始まっていた。

二人の生徒が、魔法を撃ち合っている。


「すごいですね……!」

お嬢様が、目を輝かせる。

「今の、見ましたか!? あんな魔法が……!」


お嬢様は、興奮気味だ。


俺は、その隣でリリアにこっそり話しかける。


「リリアさん」


「……何?」

リリアが、小さな声で答える。


「特訓は、どうでしたか?」


「……うん」

リリアが、頷く。

「秘策、用意してる」


「秘策……?」

俺は、少し不安になる。


リリアは、なぜか自信ありげだ。

だが、秘策とは何なのか。

お嬢様の魔力制御は、本当に大丈夫なのか。


(……少し、不安だな)


俺は、視線をグラウンドに戻す。


そして――

視界の端に、スカーレットの姿が映る。


彼女は、観客席の反対側に座っている。

こちらを見ているのか、それともグラウンドを見ているのか。

その表情は、冷たく、真剣だ。


(……スカーレットも、お嬢様が特訓していることは知っている)

彼女は、油断していないだろう。

むしろ、全力で来るはずだ。


(……以前のように、魔法が暴発しないといいが)


俺の心配事は、増える一方だった。


「次、リリア・アルテミス!」


教師の声が響く。


「……行ってくる」

リリアが、立ち上がる。


「頑張ってください、リリア!」

お嬢様が、声をかける。


「……うん」

リリアが、小さく微笑んで、準備室へと向かった。


しばらくして、リリアの試合が始まる。

グラウンドに、リリアと相手の生徒が立つ。


相手は、他のクラスの女子生徒だろうか。

見たことのない顔だ。


「始め!」


教師の合図と共に――

リリアが、魔法を展開する。

相手の生徒も、とっさに防御魔法を展開する。


だが――

リリアの放った魔法は、防御魔法を容易に突破する。

他の生徒に比べ、魔法の威力、精度が違っていた。


「――ッ!」

相手の生徒が、吹き飛ばされる。


リリアが、倒れた相手に向かって杖をかざす。


「……降参して」


「こ、降参します……!」


「勝者、リリア・アルテミス!」

教師が、リリアの手を上げる。


観客席から、拍手が起こる。


「すごい……!」

お嬢様が、目を輝かせる。

「リリア、すごいです……!」


(……さすがだな)


俺も、感心する。

あっという間の決着。

さすが、天才魔導士と名高いリリアだ。


リリアが、観客席に戻ってくる。


「お疲れ様です、リリア」


「……ありがとう」

リリアが、小さく微笑む。


そして――


「次、エリアナ・フォンブルク!」


教師の声が響く。


「……!」

お嬢様が、立ち上がる。


「行きましょう、お嬢様」


「はい……!」

お嬢様が、決意を込めて頷く。


そして、一緒に準備室へと向かった。


扉を開けると、そこには既にスカーレットがいた。

腕を組み、壁に寄りかかっている。


お嬢様と俺を見ると――

無言で出て行ってしまった。


「……」

お嬢様が、少し傷ついた顔をする。


(……あれだけ挑発したし、嫌われているのも仕方ないよな)

俺は、小さく溜息をつく。


その時、リリアが部屋に入ってきた。


「エリアナ、……忘れ物」

リリアが持っていたのは、木製の大きな杖だった。


「リリア……ありがとう」


「頑張って」

リリアが、お嬢様の手を握る。

「大丈夫……練習した通りにやれば……」


「……はい」

お嬢様が、頷く。


「次、エリアナ・フォンブルクとスカーレット・ローズウェル、入場!」


教師の声が聞こえる。


「行ってきます……!」


お嬢様が、準備室を出る。

俺は、その背中を見送る。


(なんとか、無事に終わってほしい)

(そして、特訓の成果を出し切ってほしい)


俺は、心の中で祈った。


お嬢様の戦いが、今、始まる――。

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