表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/30

特訓と遭遇

翌日、学院に行くと――


「聞いた? 昨日の事故」

「フォンブルクでしょ? すごかったらしいね」

「風弾が人の背丈ほどになったって」

「リリアが怪我したんだって」

「マジで? 大丈夫なの?」


学院中が、昨日の事件の話でいっぱいだった。


お嬢様は、その視線に耐えながら、教室に向かう。

俺は、少し離れたところから見守る。


(……辛いだろうな)


だが、お嬢様は顔を上げている。

昨夜、決意したのだろう。

リリアと一緒に、頑張ると。


放課後。


「カイト、今日からリリアと特訓します」


お嬢様が、嬉しそうに言う。


「そうですか。頑張ってください」

「はい!」


お嬢様が、リリアと一緒に実技棟へ向かう。

俺も、ついていこうとした――が。


「あの……カイトさん……」


リリアが、俺の前に立ちはだかる。


「はい?」


「その……特訓は……二人だけで……」


「え?」


「失敗するところを、カイトに見られたくないみたいで……」


リリアが、申し訳なさそうに俯く。


「……そうですか」


俺は、少し驚いたが、納得した。

確かに、俺がいると、お嬢様は気を使ってしまうかもしれない。


「分かりました。終わるまで、外で待っています」


「……ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ」


俺は、微笑む。


リリアは、ほっとした顔で、お嬢様と一緒に訓練場へと向かった。


(……さて)


俺は、廊下に一人残される。

訓練場の扉は、固く閉ざされている。

中の様子は、まったく見えない。


(……暇だな)


時間になるまで、何をしようか。

俺は、学院内を散策することにした。


特訓が始まって、数日が経った。


毎日、お嬢様とリリアは放課後に訓練場にこもっている。

そして、俺は毎日、学院内を散策している。


最初は図書館に行ったり、中庭で時間を潰したりしていた。

だが、さすがに飽きてきた。


(……暇だな)


俺は、学院の廊下をぶらぶらと歩く。

この学院は広い。

まだ、行ったことのない場所もたくさんある。


そんなことを考えながら歩いていると――


「あら」


聞き覚えのある声がした。


振り返ると、そこにはクラリスが立っていた。


「クラリスさん」

「お久しぶりですわ、カイトさん」


クラリスが、にこやかに微笑む。


「エリアナ様は?」

「今、リリアさんと特訓中です」

「そうですか。頑張っていますわね」


クラリスが、優しく言う。


その時、クラリスの隣から、もう一人の女性が現れた。


赤い髪をした、気品の高そうな女性だ。

年齢は、クラリスと同じくらいだろうか。

その佇まいには、凛とした威厳がある。


「クラリス、この方は?」


女性が、俺を見る。


「ああ、紹介しますわ」


クラリスが、女性を指差す。


「この方は、生徒会長のヴィクトリア・ローズウェル様です」


「生徒会長……」


俺は、驚いた。

学院の生徒会長といえば、学院の頂点に立つ存在だ。


「そして、ヴィクトリア様」


クラリスが、俺を指す。


「この方が、以前お話しした、エリアナ様の執事のカイトさんですわ」


「ああ、君が」


ヴィクトリアが、興味深そうに俺を見る。


「以前、クラリスから話は聞いていますわ。中級ダンジョンで、クラリスを守ってくれたとか」


「いえ、それは――」


「その時はありがとうございました」


ヴィクトリアが、軽く頭を下げる。


「クラリスは、私の大切な友人ですから」


「……こちらこそ、クラリスさんにはお世話になっています」


俺も、頭を下げる。


ヴィクトリアは、満足そうに頷いた。


「ところで」


ヴィクトリアが、話題を変える。


「最近、魔法技術測定会で事故があったと聞きましたが」


「……はい」


俺は、少し表情を曇らせる。


「エリアナ様が、風弾を暴走させてしまいまして……」


「ええ、報告は受けていますわ」


ヴィクトリアが、腕を組む。


「例年、暴発を起こす生徒はいるものです。初級魔法とはいえ、制御が未熟な新入生には難しいこともありますから」


「そうなんですか」


「ええ。ですが――」


ヴィクトリアが、少し表情を変える。


「エリアナ様が起こした爆発は、あまり例がありませんわね」


「……」


「人の背丈ほどの風弾が暴発したなど、私の記憶にもありません」


ヴィクトリアが、じっと俺を見る。


「幸い、重傷者はいませんでしたが」


「はい……本当に、申し訳ございませんでした」


俺は、深々と頭を下げる。


「いえ、あなたが謝ることではありませんわ」


ヴィクトリアが、手を振る。


「むしろ、学院側の監督不行き届きですから」


「ヴィクトリアさん……」


「それに、アルテミス家へは、学院からも正式に謝罪いたしました」


「そうなんですか」


「ええ。リリア様が怪我をされたということで、当主に直接お詫びに伺いましたわ」


ヴィクトリアが、少し考え込むようなそぶりを見せる。


「……何か?」


俺が聞くと、ヴィクトリアは小さく息を吐いた。


「いや……自分の娘が怪我をしたというのに、放任が過ぎるというか……」


「え?」


「『その程度、問題ない』と、あっさりと返されましてね」


ヴィクトリアが、少し困惑したような顔をする。


「まあ、私たちが首を突っ込むことではありませんが」


「ヴィクトリア様、そこらへんで」


クラリスが、やんわりと止める。


「ああ、そうね」


ヴィクトリアが、頷く。


そして、去り際に――


「そういえば」


ヴィクトリアが、振り返る。


「君は確か、Aクラスだったわね」


「はい、そうですが」


「ふふ、妹がお世話になっていますわ」


「妹……?」


俺が聞き返す前に、ヴィクトリアは手を振って去っていった。


「……妹?」


俺は、首を傾げる。


生徒会長の妹が、Aクラスにいる?


「クラリスさん、あれは……」


「ああ、ヴィクトリア様の妹さんですわね」


クラリスが、微笑む。


「一年生のAクラスにいますわよ」


「誰ですか?」


「それは――」


クラリスが、少し楽しそうに言う。


「自分で確かめてみてくださいな」


そう言って、クラリスも去っていった。


(……妹、か)


俺は、考える。


Aクラスの一年生で、生徒会長の妹。

赤い髪の――


(……まさか)


俺の頭に、一人の少女の顔が浮かぶ。


あの、赤髪の少女。

お嬢様に厳しい言葉を浴びせた、あの少女。


(……あれが、生徒会長の妹なのか?)


俺は、少し驚いた。


だが、確かに似ている。

赤い髪。気品のある佇まい。

そして、強い信念を持った目。


(……なるほどな)


俺は、小さく溜息をついた。


生徒会長の妹ということは、それなりの家柄だろう。

そして、姉と同じように、正義感が強いのかもしれない。


(……厄介だな)


だが、今は考えても仕方ない。


俺は、訓練場へと戻った。

そろそろ、お嬢様の特訓が終わる時間だ。


訓練場の前で待っていると、扉が開いた。


「カイト!」


お嬢様が、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「お疲れ様です、お嬢様」

「はい! 今日も頑張りました!」


お嬢様の顔は、汗で光っている。

だが、その表情は明るい。


「リリアさん、ありがとうございました」


「……うん」


リリアが、小さく微笑む。


「エリアナ……頑張ってる……」


「ありがとうございます!」


お嬢様が、リリアの手を握る。


二人の間には、確かな信頼関係が築かれていた。


(……良かった)


俺は、安心する。


お嬢様は、少しずつ成長している。

リリアという、良い友達にも恵まれた。


(……これから、どうなっていくんだろうな)


俺は、夕日に染まる学院を見上げる。


生徒会長の妹のこと。

お嬢様の特訓のこと。


そういえば。


学院では近々、実技評価を兼ねた模擬戦が行われるという噂も出ているらしい。


(……嫌な予感がするな)


「カイト、帰りましょう!」

「はい、お嬢様」


俺たちは、学院を後にした。


明日も、特訓は続く。

お嬢様の成長を、俺は見守り続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ