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学院への第一歩

翌日。

俺たちは、王立魔法学院の正門前に立っていた。


「わあ……」

お嬢様が、息を呑む。


目の前に聳え立つのは、白亜の巨大な建物。

尖塔が空に突き刺さり、窓ガラスが朝日を反射して眩しく光っている。

正門には、魔法学院の紋章――杖と本が交差したデザイン――が掲げられていた。


「すごい……こんなに大きいんですね……」

お嬢様が、圧倒されたように呟く。


「ええ。王国最高峰の魔法学院ですから」

俺も、初めて見る光景に少し驚いていた。


門の前には、俺たちと同じように入学手続きに来たと思われる人々が、何人もいる。


「お父様、本当にここでいいんですか?」

「ああ。お前なら大丈夫だ」


貴族らしい親子連れ。


「やった! ついに学院生活が始まるぜ!」

「落ち着けよ。まだ手続きだけだろ」


興奮している青年たちのグループ。


「……緊張します」

「大丈夫よ。一緒に頑張りましょう」


不安そうな少女と、それを励ます友人。


様々な人々が、期待と不安を胸に、この門をくぐろうとしている。


「行きましょうか、お嬢様」

「は、はい……」


お嬢様が、俺の袖を握る。

その手は、少し震えていた。


学院の事務棟に入ると、そこには「入学手続き窓口」という看板が掲げられていた。


「次の方、どうぞ」

事務員の女性が、機械的に声をかける。


俺たちは、窓口に近づく。


「入学手続きでしょうか?」

「は、はい」


お嬢様が、緊張した声で答える。


「お名前は?」

「エリアナ・フォンブルクです」


「フォンブルク……はい、確認できました」


事務員が、書類を取り出す。


「入学金と前期学費、合わせて三百万ゴールドになります」

「はい」


お嬢様が、昨日受け取った金貨を差し出す。

事務員がそれを確認し、頷いた。


「確認しました。こちらが入学許可証と学生証になります」


彼女は、二枚のカードを渡す。

一枚は、魔法学院の紋章が刻まれた入学許可証。

もう一枚は、お嬢様の名前と顔写真が入った学生証だった。


「こ、これが……」


お嬢様が、学生証を見つめる。

その目に、涙が浮かんでいた。


「私の……学生証……」


「おめでとうございます、エリアナ・フォンブルク様」


事務員が、微笑む。


「入学式は一週間後です。それまでに、制服の採寸と教科書の購入をお済ませください」

「は、はい! ありがとうございます!」


お嬢様が、深々とお辞儀をする。


事務棟を出ると、お嬢様は学生証を何度も見返していた。


「カイト……見てください……私の名前が……」

「はい、お嬢様」


俺は、微笑む。


「おめでとうございます」

「ありがとうございます……本当に……」


お嬢様が、涙を拭う。


「夢みたいです……」


その時。


「あら、エリアナ様」


聞き覚えのある声がした。


振り返ると、そこにはクラリスが立っていた。


「クラリスさん!」

お嬢様が、嬉しそうに駆け寄る。


「入学手続き、終わりましたの?」

「はい! 今、学生証をもらいました!」


お嬢様が、学生証を見せる。


「まあ、素敵ですわね」

クラリスが、にっこりと笑う。


「これで、あなたも学院の一員ですわ」

「はい!」


お嬢様が、満面の笑みを浮かべる。


「これから、よろしくお願いします!」

「ええ、こちらこそ」


クラリスが、お嬢様の手を取る。


「一緒に、頑張りましょうね」


その後、俺たちは学院内を案内してもらった。


「ここが、講義棟ですわ」

クラリスが、大きな建物を指差す。


「魔法理論や魔法史など、座学の授業はここで行われますの」


「わあ……」

お嬢様が、目を輝かせる。


「そして、あちらが実技棟」

クラリスが、別の建物を指す。


「魔法の実技訓練は、あちらで行われますわ」


「実技……」


お嬢様が、少し不安そうな顔をする。

だが、すぐに表情を引き締めた。


「頑張ります」

「ええ、その意気ですわ」


クラリスが、微笑む。


「あちらは図書館。魔法に関する本が、数万冊もありますのよ」

「数万冊……!」


お嬢様が、驚きの声を上げる。


「そして、こちらが学生寮」


クラリスが、少し離れた建物を指した。


「エリアナ様は、通いですの?」

「はい。屋敷から通います」


「そうですか。では、カイトさんも一緒に通われるのですわね」


クラリスが、俺を見る。


「はい」

俺は、頷いた。


「お嬢様をお守りするのが、俺の役目ですから」


「ふふ、素敵な執事さんですわね」

クラリスが、くすりと笑う。


学院内を一通り見て回った後、俺たちは正門まで戻ってきた。


「では、また入学式の日に」

クラリスが、手を振る。


「はい! ありがとうございました!」

お嬢様が、何度もお辞儀をした。


クラリスが去った後、お嬢様は学院を振り返る。


「カイト」

「はい?」


「私……頑張ります」


お嬢様が、真剣な目で言った。


「ダンジョンでは、カイトに頼りっぱなしでした。でも、学院では違います」


「お嬢様……」


「自分の力で、ちゃんと勉強して、強くなります」


お嬢様が、拳を握る。


「そして、いつか……カイトに頼らなくても、自分で戦えるようになりたいんです」


その目には、強い決意が宿っていた。


俺は、微笑む。


「応援しています、お嬢様」

「ありがとうございます」


お嬢様が、笑顔を返す。


そして、二人で学院を後にする。


夕日が、学院の白い壁を赤く染めている。


「カイト」

「はい」


「一週間後……楽しみです」

「はい、お嬢様」


俺も、頷いた。


(……新しい生活が、始まる)


ダンジョンでの戦いとは違う、日常が。

お嬢様が、自分の力で成長していく場所が。


(……俺も、影から支えていかないとな)


俺は、心の中で誓う。

お嬢様の学院生活を、全力で守ると。

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