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異変の兆し

「さあ、換金所へ参りましょう」


クラリスが、明るく言う。


お嬢様の表情も、すっかり明るくなっていた。


「はい!」


俺たちは、街の中心部にある換金所へと向かう。


この時間帯、冒険者たちで賑わっている。


「おい、今日の収穫は?」


「ゴブリンの魔石が十個だ。まあまあだな」


「俺はスライムばっかりだったよ。全然稼げねえ」


冒険者たちの会話が、あちこちから聞こえてくる。


換金所の中は、人でごった返していた。


「すごい人ですわね」


クラリスが、辺りを見回す。


「みんな、魔石を換金しに来てるんですね」


お嬢様が、興味深そうに言う。


俺たちは、受付の列に並ぶ。


前には、五人ほどの冒険者がいる。


「次の方、どうぞ」


受付嬢が、機械的に声をかける。


一人、また一人と、順番に換金していく。


「ゴブリンの魔石、五個ですね。五千ゴールドです」


「オークの魔石、三個。三万ゴールドになります」


小さな魔石が、次々と換金されていく。


そして――


「次の方、どうぞ」


俺たちの番が来た。


「お願いします」


お嬢様が、受付に近づく。


俺は、懐から袋を取り出す。


ずっしりと重い。


そして、受付のカウンターに――


ドサッ。


巨大な魔石の塊を、置いた。


「――――っ!?」


受付嬢が、目を見開く。


周囲の冒険者たちも、一斉にこちらを見る。


「お、おい……あれ……」


「まさか……アイアンゴーレムの魔石か!?」


「デカすぎるだろ……!」


ざわざわと、周囲がどよめく。


アイアンゴーレムの魔石は、拳大ほどの大きさだ。


それだけでも十分に大きいのだが――


俺が置いた魔石は、それよりも一回りも二回りも大きい。


まるで、人の頭ほどもある。


「こ、これは……」


受付嬢が、魔石を見つめる。


その目には、明らかな驚きがあった。


「アイアンゴーレムの魔石ですね……?」


「はい」


お嬢様が、頷く。


「中級ダンジョンで、倒しました」


「中級ダンジョン……」


受付嬢が、呟く。


そして、魔石を手に取り、鑑定を始める。


「……」


彼女の表情が、だんだんと険しくなっていく。


「……どうかしましたか?」


お嬢様が、不安そうに聞く。


「……少々、お待ちください」


受付嬢が、奥へと向かう。


しばらくして、初老の男性と一緒に戻ってきた。


「私が、この換金所の所長です」


男性が、俺たちに言う。


「この魔石について、確認させていただきたいのですが」


「は、はい……」


お嬢様が、緊張した顔で答える。


所長は、魔石を手に取り、じっくりと観察する。


「……間違いない。これは、アイアンゴーレムの魔石だ」


所長が、呟く。


「ですが……」


彼は、俺たちを見る。


その目には、疑念と――そして、困惑があった。


「この魔石、通常のものより遥かに大きい」


「……それは」


「アイアンゴーレムの魔石は、通常このサイズの半分ほどです」


所長が、魔石を指差す。


「これほど大きな魔石が出るということは――」


彼は、重い口調で言った。


「このゴーレムは、本来の強さより遥かに強化されていた可能性があります」


「強化……?」


クラリスが、眉をひそめる。


「ええ。魔物が何らかの理由で、通常より強くなることがあるのです」


所長が、説明する。


「魔石のサイズは、魔物の力に比例します。つまり、このサイズということは――」


彼は、深刻な顔で続ける。


「このゴーレムは、通常の倍以上の力を持っていたはずです」


周囲の冒険者たちが、ざわつく。


「倍以上だと……?」


「そんなのと戦ったのか、あの嬢ちゃんたちが……?」


「信じられねえ……」


俺は、内心で驚いていた。


(……確かに、あのゴーレムは硬かった)


クラリスの魔法でも、表面を焦がすのが精一杯だった。


俺が全力で攻撃して、やっと倒せた。


(……通常より強かったのか)


「あの……」


お嬢様が、おずおずと聞く。


「それって、何か問題が……?」


「ええ」


所長が、重々しく頷く。


「中級ダンジョンで、魔物が異常に強化されているということは――」


彼は、俺たちを見る。


「ダンジョンそのものに、何か異変が起きている可能性があります」


「異変……?」


クラリスが、繰り返す。


「ええ。魔力の流れが乱れているのかもしれません。あるいは――」


所長が、言葉を切る。


「より深刻な、何かが」


空気が、重くなる。


周囲の冒険者たちも、不安そうに顔を見合わせている。


「所長」


一人の冒険者が、声を上げる。


「俺たちも、最近ダンジョンがおかしいと思ってたんだ」


「そうだ。いつもより魔物が強い気がする」


「数も多い」


次々と、冒険者たちが証言する。


所長は、深刻な表情で頷いた。


「……やはり、か」


彼は、腕を組む。


「これは、協会に報告しなければならないな」


「協会に……?」


お嬢様が、不安そうに聞く。


「ええ。ダンジョンの異変は、放置すれば大規模な魔物の暴走に繋がります」


所長が、説明する。


「最悪の場合、街まで被害が及ぶ可能性もある」


お嬢様が、息を呑む。


「そんな……」


「ですが、今はまだ調査段階です」


所長が、お嬢様を安心させるように言う。


「あなた方が倒してくださったおかげで、我々も異変に気づけました」


彼は、深々とお辞儀をする。


「ありがとうございます」


「い、いえ……」


お嬢様が、戸惑いながら答える。


「では、換金の方を」


所長が、魔石を鑑定し直す。


「この大きさ、そして純度……買取価格は――」


彼は、数字を書いた紙を、俺たちに見せる。


「二百万ゴールドです」


「に、二百万!?」


お嬢様が、驚きの声を上げる。


「はい。通常のアイアンゴーレムの魔石の倍以上の価値があります」


所長が、にこりと笑う。


「それと――クエスト報酬の方もお支払いしますね」


「あ、はい」


クラリスが、クエストの受注書を取り出す。


所長がそれを確認し、頷く。


「アイアンゴーレム討伐クエスト、達成確認しました。報酬は百万ゴールドです」


「ひゃ、百万……!?」


お嬢様が、また驚きの声を上げる。


「魔石の買取と合わせて、合計三百万ゴールドです」


所長が、穏やかに微笑む。


「これだけあれば、かなりのことができるでしょう」


お嬢様が、俺を見る。


その目は、喜びと驚きで輝いていた。


「カイト……三百万ですよ……三百万……」


「良かったですね、お嬢様」


俺は、微笑む。


(……これで、半年分は確保できたな)


学費が月に五十万ゴールド。三百万あれば、半年は安心だ。


お嬢様が、しばらくダンジョンに来なくて済む。


それだけで、十分だ。


「ありがとうございます!」


お嬢様が、所長に深々とお辞儀をする。


「いえいえ。こちらこそ、貴重な情報をありがとうございました」


所長が、笑顔で答える。


換金所を出ると、もう日は完全に沈んでいた。


「三百万……三百万ゴールド……」


お嬢様が、まだ信じられないという顔をしている。


「これで、学費が……半年分……」


「良かったですわね、エリアナ様」


クラリスが、微笑む。


「はい! 本当に……夢みたいです……」


お嬢様が、満面の笑みを浮かべる。


だが――


「でも……」


クラリスが、少し表情を曇らせる。


「ダンジョンの異変、気になりますわね」


「……ええ」


俺も、頷く。


あのゴーレムが、通常より強化されていた。


それは、偶然ではないかもしれない。


(……何かが、起きている)


ダンジョンの奥深くで。


それが何なのかは、まだ分からない。


だが――


(……嫌な予感がする)


俺は、夜空を見上げる。


星が、冷たく光っている。


「カイト?」


お嬢様が、不安そうに俺を見る。


「……大丈夫です」


俺は、笑顔を作る。


「何があっても、お嬢様を守りますから」


「……はい」


お嬢様が、安心したように微笑む。


だが、俺の心の中には――


不安が、静かに広がっていた。



次の話から学園の話も始まります

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