感想返答
この物語はフィクションです!(断言)
現実とは何ひとつ関係がありませんし、会話の内容も全部創作です!(よし、言い切った!)
拙作『誤字報告』を先に読むと、よりわかりやすいです。
「空、久しぶり」
文芸部の元部長であるゆかりが、片手を上げた。ちょっと小洒落た居酒屋の半個室だ。コートを脱いで、空いている椅子の背にかける。
「おひさ。――とりあえず黒ビールで」
注文タブレットのドリンク画面を見せてくるゆかりに、空は頼んだ。ゆかりが注文してくれている間に、どっかりと椅子に座った。一日事務仕事をして固まった背中が、ぱきぱき鳴っている。
「それで? その後、どうなのよ、川崎くんとは?」
「いま、それ聞く?」
「聞く」
真顔で言い返すゆかりに、空は視線をうろつかせた。
「蓮とは、まあまあ、うまくやってる、よ?」
「呼び捨て」
ゆかりはにんまり笑ってから、頬杖をついたまま、揚げ出し豆腐を口に放り込む。しばらく咀嚼して、首をかしげた。
「なにか、私に言うこと、あるでしょ?」
「……蓮の尻叩いてくれて、ありがと」
「結婚式には呼びな。お祝いもってかけつけるから」
またニヤリとしてからビールを流し込むゆかりを、空はようやくきた黒ビールに口をつけながらうかがう。
「そんで、今日は、なに?」
「あんた、また、小説の投稿でトラブったって聞いたから」
「あなたの情報網は、どうなっていますか?」
思わず半眼になった空に、ゆかりは肩をすくめる。
「まあ、あちこちから、いろいろとねえ」
ため息をひとつ落として、空も枝豆に口にした。
「今度は別に落ち込んでない。困ってもない。ちょっとむかついているだけ」
「なんか、変な書き込みされたんだって?」
「そうなのよ。ランキングあがると、変なやつが出てくるのは前の一位のときで経験済みだけどさ。貴族のざまあ物? みたいなの書いて、けっこう評判いいんだけど。感想で『これが貴族だっていうと、現実貴族に怒られる(しかも真っ当な怒り)から、気をつけて』って書かれたわけさ」
ゆかりが眉をしかめる。
「あんた、フィクションだって書いてたんじゃないの?」
「書いてた。ちょーっと人権的に問題な表現があったから、小説情報にわざわざ明記した」
「……ばかなの?」
「だねー。さすがにあれなんで『フィクションと現実の区別はするように、知り合いの貴族に言ってくれ。貴族がどこの人かは知らんが、封建時代のフランス史実の学習をするように』とすすめといた」
「あんた、史学科だったものね」
「専門は日本史だけどね。そんで『ちなみに、脅迫罪が成立する可能性があるので(しかも真っ当な犯罪)、気をつけて』って追記しといた」
あはは、と、ゆかりが明るく笑った。
「相変わらずね」
「だって、物書きを言葉で殴りつけといて、殴り返される覚悟、してないわけないよね?」
「拳で語るみたいに言わない。あんた、どこの少年漫画よ?」
真顔でつっこむゆかりに、空も笑った。
「で、相手がメッセージ送ってきた」
「どんなの?」
「『ニュースで現実の貴族が迷惑してるって知ったんで』って、上から目線」
「…………ばかなの?」
「うん。身内が迷惑してるから、ほんと止めてくださいってんなら、まだ、ごめんなさい、だけど。ただニュースで見たこと、代弁されてもね」
肩をすくめた空に、ゆかりも苦笑する。
「んで、『ニュースソース、教えてもらっていいですか。ググっても出ないんで。フィクションだって、わざわざ明記してんのに、現実と混同するやつらの責任を作者に求めれても困るんですけど。なら、世の作家は全員、悪く書いたやつから怒られるわけ? 自分に正当性があると思うなら、おおやけの場で言ってもらっていいですか?』とメールを送ろうとしたら、ブロックされてた」
ゆかりが半笑いを浮かべる。
「なので、返信に追記してやろうと思ったら、感想ごと消されてた」
「あらまあ」
「ほんと、勘弁して。自分で言ったことにはちゃんと責任持って。こっちだって生半可な気持ちで投稿してないんだから。自分で書いた文、そのまま返されて腹立つってことは、不適切だって気づけ。まあ、でも、そんだけのことだよ」
空は、テーブルにぺちゃりと潰れる。
「なんで、自分は好きなこと言って、暴言吐いといて、言い返されないって思うかな? こちとら、言葉を扱うことに四苦八苦して、日々鍛錬してるんだよ?」
ゆかりが手をのばして、空の頭をなでた。
頬をテーブルにつけたまま、空はゆかりを見上げる。
「なに?」
「まじ、かわいいわ。あんたって」
「いや、褒めてもなんも出ないから」
「そんな真摯で健気なあんたにご褒美。ほら、ちょうど来た」
「来たって、誰が」
顔をあげて振り返った空が固まる。
元文芸部の友人で、現恋人の川崎蓮が立っている。
「最近、忙しくて会えてなかったんでしょ? 寂しくって泣いてたって聞いたわよ」
ぎぎい、と音がしそうなぎこちなさで、空はゆかりへ顔を戻した。
「だから、どこからその情報。そして、なんでばらすかな」
ゆかりは答えず微笑してから、自分のコートを持って立ち上がる。
「お先」
そう言って、すれ違い様に蓮の背中をぱんと叩いて「会計よろしく」と告げてから、颯爽と去っていった。学生時代から空は、元部長に勝てたためしがない。
蓮は苦笑でそれを見送り、真剣な表情を浮かべると、空いた席に座った。
自然と空の視線がさがる。
「なんで言ってくれないんだよ、空」
「だって、蓮がわたしと結婚するために頑張って仕事して、お金溜めてるの、知ってたから。奨学金も返さなきゃだし」
「あのさ」
いつになく真剣な声に、空はおずおずと顔をあげた。
「それで泣かせるなんて、本末転倒だと思わないわけ? 俺ってそんなに頼りない?」
「ご、ごめん、そんなつもりじゃ」
どこか痛む場所をこらえるように顔を歪めた蓮を見て、空はあわてて言い募る。
「――わかった。次の日曜、空いてる?」
「……予定は、ないけど」
「空のご両親、家にいるよね?」
「…………いると思うけど」
にっこりと怖い笑顔を浮かべる蓮に、空は肩を縮こませる。
「じゃあ、俺から話があるって言っておいて」
「あの。蓮さん? 話って、どのような……?」
「うん。婚約して同棲の許可もぎとりにいく。――それとも、婚姻届、持参しようか?」
腕を組んで言い切った蓮に、空は顔を真っ赤に染めた。
蓮は愛し気に目を細めると、腕を伸ばして空の頭をぐしゃぐしゃとなでた。
「ちょっ、なにっ」
「ごめんな。心配させて。あと少しで奨学金、返し終わるから」
「……うん、よかったね」
綺麗に笑う空に、蓮の手が止まる。蓮も穏やかな笑みを浮かべた。
「蓮、お腹空いてない?」
「そういや、注文忘れてた。すいませーん、焼酎割りひとつー!」
「いや、ここ、タブレット注文だから」
思わず突っ込んだ空と蓮は顔を見合わせてから、二人してこらえきれずに笑い出した。
ということで、空さん再登場。元部長が書けて嬉しい。
あ、感想は大歓迎ですよ?
以下、蛇足。
現貴族の方が、貴族ってだけで悪辣に書かれて複雑な気持ちになるのは理解できます。が。でも、それ、貴族だけじゃないよねって話。
ステレオタイプの決めつけは、どこにでもあります。
嫌な思いをする人がいるからと、作者が責められるのも、おかしな話。
フィクションだから何を書いてもいいとは思いませんが、書かれた話が気に入らないからって、怒られるのが真っ当だと言われるのは、真っ当ではないと思う次第です。
「嫌な思いをしている人もいるから、表現に気をつけて」って言われたら、「はい、気をつけます」だったなあ、と。表現方法って大事。精進、精進。




