コーヒー
私は今馬鹿げた口喧嘩をようやく終えたところである。
ああもう、うるさい、うるさい。わかった、わかったから。そう受け流すように相手の怒りをどうにかして鎮めようと努力するも、火に油を注いでしまっているというのは誰から見てもわかった。まったく懲りないやつだ、いつまで同じ事を指摘するのだ。私はやっていない。
彼女はしばしば私の浮気を疑う。もちろんその様な非道で馬鹿げた行動はするつもりもないが、この頃一つ一つの行動にいちゃもんをつけてくるようになってしまった。昔はそんなことは無かったはずなのに。
私達は長い付き合いである。5年といったところか、ずっと離れず、一途に、思い続けていたはずなのに、彼女はある日を境にこっぴどく豹変してしまった。私の濃く深い愛情は彼女の疑い様によりどうにも薄く浅くなってしまっているように感じる。
「すみません。コーヒー1杯。」
そう頼むと私の目の前にコップいっぱいの、深く黒ずんだ茶色のコーヒーが置かれた。そのコーヒーにシュガーを溶かし、冷えたミルクを混ぜることで深く黒ずんだ茶色は段々と淡い茶色へと変化していくのが目に見えた。
私は潔白だ!そう主張しても彼女は疑いをやめない。寧ろ彼女のヒステリックさどんどんとエスカレートし、ついには店を出ていくまでに発展してしまった。
はぁ。これからどうしようか。そう悩みながら私はコーヒーにミルクを注ぐ。
彼女が酷く豹変してしまったのには理由があった。端的に言えば、彼女の親友が浮気をしていたからである。あれだけ彼女の意見に沿わせ、同調し、浮気はあり得ないとまで断言した彼女の親友は、浮気をし離婚を決意、彼女とも縁を切り音信不通状態までに陥った。
「私が最初に見つけたの。」そう言い張る彼女は不安と絶望にごちゃ混ぜになった顔を近づけながら語った。
「隣歩く人がいつもの彼と違うなって思って、どうにもおかしいなあって思ってね、追跡してみようと企んだの。そしたら…」ゴホッゴホッと彼女は苦手なコーヒーにむせながら一気に飲み干した。「あの子、その男性の家らしき場所へ入っていったのよ。ほんとに信じらんない。」
少し涙を浮かべながら訴えかける彼女の瞳は涙越しにも光も通さぬほど濃く黒ずんでいるように思えた。
もう誰も信じられないと、私すら信じられないと言い捨てた彼女は先急ぐように店を私よりも一歩先へと出た。
その時からだった。私にも疑いの目をかけてきたのだ。
私は束縛されるのが苦手なのだ。自由に生きたい。ただその彼女との永遠と混ざりきらない水と油はとうとう今日、火にかけられてしまった。
はぁ。これからどうしようか。
コーヒーに手を伸ばすと、ミルクのせいか少し冷えてしまったように感じた。




