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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第四十八話 ツキヨ様へ

シャドーレから手紙を預かり、今は退位してエアネ離宮にいるツキヨを訪ねることになったミノリ。

寂しく暮らすツキヨを可哀想だと思いつつ、ミノリはあくまで事務的に対応するのでした。

【ツキヨ様、ご無沙汰致しております。『クロス』の副隊長を務めておりました、黒魔術師のシャドーレにございます。突然のお便りをお許し下さいませ。あの一件の後、流転の國の主様から陛下がご無事でいらっしゃると伺い、安堵致しましたが、まさか退位なさるとは思いもよりませんでした。聞けば、エアネ離宮で桜色の都の人々を癒す為に白魔術の力を活かしていらっしゃるとのこと。お優しい貴方様らしい余生の過ごし方でございますね。さて、私は現在マヤリィ様にお仕えするとともに、さらに高度な黒魔術の習得を目指しております。直接エアネ離宮にお伺いして、これまでの感謝の言葉をお伝えすることが叶わず、申し訳ございません。桜色の都にて陛下にお仕え出来ましたことは、私の一生の誇りにございます。ツキヨ様、今まで本当にありがとうございました。どうか、お身体をお大事に、いつまでもお元気でいらして下さいませ。 『クロス』元副隊長・シャドーレ】


シャドーレのもう一通の手紙はツキヨ宛。

「大丈夫。ミノリが行ってくるわ」

エアネ離宮にいるツキヨに手紙を渡しに行くと真っ先に手を挙げたのはミノリだった。

「ミノリはツキヨ様にお会いしたことがあるし、使者がミノリであると分かれば、すぐに取り次いでもらえるはず」

確かに、初めて桜色の都を訪ねたのはミノリだった。ツキヨは退位後すぐに離宮に移り、数人の警備の者を置くだけで静かな生活を送っているとのことだが、当然許された者でなければ入れないだろう。

「ミノリになら安心して任せられるわ」

マヤリィにそう言われ、

「勿体ないお言葉にございます、ご主人様。必ずやこのお役目を完遂して帰って参りますことをお約束致します」

そう言って跪き、頭を下げる。

「ミノリ……」

シャドーレは心配そうな顔。

「大丈夫よ、シャドーレ。貴女の代わりにツキヨ様にご挨拶してくるから」

「…ミノリ殿、結婚のご挨拶はまだ時期尚早と思われますぞ?」

「わ、分かってるわよ!間違ってもシャドーレさんをお嫁に下さい、なんて言わないわ!」

ミノリが真っ赤になって抗議する。

皆は内心、ミノリなら言いかねないな、と思う。

マヤリィは真面目な顔で、

「では、気をつけて行ってきなさい、ミノリ」

「はっ。行って参ります、ご主人様」

ミノリは一礼すると、すぐに『転移』した。



「よくお越し下さいました、ミノリ殿。寂しい所ではございますが、どうぞゆっくりなさっていって下さい」

ツキヨの周りに人はいなかった。 エアネ離宮の門前にいた一人に取り次ぎを頼んだ所、その必要はございませんと言われ、ツキヨの部屋の場所を教えられてそれっきりだった。

「ツキヨ様、ご無沙汰しております。こちらには初めて伺いましたが、エアネ湖とはとても美しい湖にございますね」

ツキヨの部屋からは湖がよく見える。

「本日は、シャドーレ殿からのお手紙を渡しに参りました。…こちらになります。お受け取り下さいませ」

そう言って、ミノリは手紙を手渡す。

「ありがとうございます。…彼女は息災にしておりますか?」

ツキヨは手紙を開くこともなく、

「彼女には随分とつらい思いをさせてしまったのではないかと後悔しております。あんなにも私に忠実に仕えてくれたシャドーレに、私は何ひとつ報いていない。今からでも、彼女の助けになるようなことをしてあげられないものか…」

ツキヨは寂しそうに封筒を見る。しかし、客人の前で開けるようなことはしない。

「シャドーレ殿はツキヨ様にお仕え出来たことをとても光栄に思っていると言っていました。そして、エアネ離宮にて健やかにお過ごし下さることを願っていると」

「…彼女は、私のことをまだそんな風に思ってくれているのですね…」

ツキヨは涙ぐむ。

「お返事は、どのようにお出しすればよろしいでしょうか」

「大変申し訳ございませんが、ツキヨ様からのお手紙をお預かりすることは出来ません。元々、我が國に文通の風習はございませぬゆえ、この手紙は例外であるとご理解下さいますようお願い致します。これは流転の國の主様の命にございます」

心の中ではツキヨを哀れに思いつつ、ミノリはあくまで事務的に対応する。

「…そうでございましたか。このような特例をお許し下さったことを感謝致します。シャドーレには、どうか身体を大切に、自分らしく生きて欲しいとお伝え下さいませ」

そう言ってツキヨは頭を下げる。

「畏まりました。今のお言葉、必ずシャドーレ殿にお伝え致します」

「ありがとうございます、ミノリ殿…!」

ツキヨは初めて会った時に比べて、随分と痩せ細っていた。国王であった時には後ろでひとつに束ねていたアルビノ特有の白い髪も、僧侶のように丸坊主にしてしまっていた。

「綺麗な御髪でしたのに…」

思わず、ミノリはそう言ってしまう。

(ご主人様には絶対に言ってはいけない言葉だわ)

なぜか分からないが、ミノリはそう思った。

ツキヨは丸い頭を撫でると、

「今の私は世捨て人のようなものですので、このような姿が相応しいかと思いまして…」

そう言って寂しく微笑む。

「私は都の民を癒すことをマヤリィ様にお約束しながら、それを果たすことが出来ておりません。…皆、退位した私のことなど覚えてはいないのでしょう。ここには誰も来ませんから。…本来ならば、この離宮ではなく、国民の中に混じって暮らすべきなのかもしれません」

ここでの生活環境もあまり良いようには見えない。ツキヨは痩せ細っただけではなく、随分と歳を重ねたような風貌になっていた。

「ツキヨ様、畏れながら、貴方様の体調はあまりよろしくないようにお見受け致します。ご無理はなさらないで下さいませ」

アルビノは身体が丈夫ではなく、日光にも弱いとミノリは本で読んだことがある。エアネ湖の周りを散歩するだけでも、かなりの紫外線を浴びそうだ。

ミノリはますます彼が可哀想になる。

ツキヨは話題を変えて、

「マヤリィ様はいかがお過ごしでございましょうか?ご息災でいらっしゃいますか?…先の一件では大変なご迷惑をお掛けして、誠に申し訳ないことでございました」

ツキヨは美しいマヤリィの姿を思い出しながら、ミノリに訊ねる。

「主様はお変わりなくお過ごしでいらっしゃいます。お忙しいご様子なので、私も毎日お会い出来るわけではございませんが。…近々、バイオ殿に部屋を与えるとおっしゃっていました」

実際はもう既に与えてあるのだが。

「バイオに…部屋を…?」

ツキヨは驚く。

「ええ。…ここだけのお話にして頂きたいのですが、主様は将来的にはバイオを流転の國の仲間として扱うつもりだとおっしゃいました。彼女が我が國で心穏やかに健やかに過ごすことを、主様は望んでおられます」

「っ…!マヤリィ様はなんと慈悲深い御方でございましょうか…!もし我が国で裁くとなれば極刑は免れなかった彼女を救って下さっただけではなく、流転の國の一員として扱って下さるとは…!やはり、マヤリィ様は誰よりもお優しく、そして強い御方であられます。流転の國にいれば、彼女の復讐の火もいずれ完全に消えることでしょう」

ツキヨは感激のあまり涙を流す。

「はい、私もそれを願っております」

ミノリはそれ以上説明する気はない。

「…それでは、私はこれにて失礼致します。先ほどのツキヨ様のお言葉を必ずシャドーレ殿にお伝えすることをお約束致します。…本日はありがとうございました」

「ミノリ殿…!もう行ってしまわれるのですか…?せっかくですから、湖の傍までご案内したいと思っていたのですが…!」

縋り付くような目でミノリを見る。

「申し訳ございません。実は私も山のように仕事を抱えておりまして。…出来ましたらツキヨ様のお話を伺いながら、ゆっくりとこの美しい湖を眺めていたい所でございますが」

エアネ湖はとても美しい。流転の國のどこかにも、このような湖が存在するのだろうか。

ツキヨは姿勢を正すと、

「お引き留めして申し訳ありません。ミノリ殿、流転の國に戻られましたら、マヤリィ様にツキヨからの感謝の気持ちをお伝え下さいませ」

「畏まりました。確かにお伝え致します」

ミノリは微笑む。

「…またお会い出来ますか?」

「それは主様がお決めになられることです」

寂しそうなツキヨに対し、ミノリの答えは事務的だった。これ以上、時間をかけるわけにもいかない。

ミノリは魔法陣を展開し、

「それでは、失礼致します。ツキヨ様、本日は誠にありがとうございました」

美しい所作でお辞儀をする。

「ミノリ殿!どうか、シャドーレのことをよろしくお願い致します…!遠く離れたこの地から、ツキヨはシャドーレの幸せを願っているとお伝え下さいませ!」

ミノリが『長距離転移』を発動させる直前、ツキヨが叫ぶ。

「はい!必ず幸せにします…!」

ツキヨ直々にシャドーレの幸せを託されたミノリ。これって、結婚のお許しよね?

ミノリは内心嬉しく思いながら転移する。

ツキヨは寂しそうにその場に立ち尽くす。

『長距離転移』の魔法陣は、ミノリの姿が見えなくなると同時に消え去った。

残ったのは、強い魔力の僅かな残滓のみ。

ツキヨは寂しげにため息をつくと、ようやくシャドーレからの手紙を読んだ。

涙が止まらなかった。

シャドーレに未練のある男がここにも一人。

マヤリィはシャドーレを守る為にも、再び会えるかも、などといった期待をツキヨに抱かせないよう、早急に任務を終えて帰還するようミノリに命じていたのでした。

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