第四十七話 ダーク様へ
今日の会議でミノリとの交際を正式にご主人様から認められたシャドーレ。
その後、休みの間にしたためていたダークへの手紙を取り出すのでした。
【ダーク様へ。先日はお手紙を下さり、どうもありがとうございました。お返事が遅くなりまして申し訳ありません。私は現在、流転の國にて、高度な黒魔術の習得を目指して研鑽の日々を送っております。本日はダーク様にお別れの言葉をお伝えしたく、お手紙を書かせて頂きました。直接桜色の都に行くことが出来ないのが残念でございますが、何卒お許し下さいませ。思えば、魔術学校を卒業してからずっとダーク様とともに国王陛下をお守りして参りましたね。初めて私を女として見て下さったダーク様、貴方との日々はとても幸せでございました。されど、この先の人生を貴方と歩んでゆくことは出来ません。どうか、私のような女など忘れて下さいませ。今まで本当にありがとうございました。いつか貴方が本当に結ばれるべき女性と幸せになって下さることを遠い流転の國からお祈り申し上げています。さようなら。 シャドーレ】
「お任せ下され、シャドーレ殿。同じ黒魔術師として、前々から『クロス』の方々に興味を持っておりました」
別れの手紙を預かったのはネクロだった。
「すぐに帰ってきますゆえ、心配は無用にございますぞ」
相変わらず『隠遁』のローブを着ているので表情は分からないが、なんとなく頼もしい。
「ネクロ様、よろしくお願い致します…!」
シャドーレが頭を下げる。
「危険はないと思うけれど、気を付けて行ってくるのよ、ネクロ」
『長距離転移』の魔法陣を出現させ、転移の宝玉を渡しながらマヤリィが言う。
「畏まりました、ご主人様。貴女様のお優しいお言葉に感謝致します。…それでは、行って参ります」
ネクロは深々とお辞儀をすると、魔法陣の中央に立ち、桜色の都へ『転移』した。
「それで…ダーク隊長の反応はどうだったのかしら」
玉座の間に帰還したネクロにマヤリィが聞く。
行ったと思ったらすぐに帰ってきた。
「はっ。それが…ダーク隊長はいらっしゃいませんでした。何でも、魔術学校で期間限定の特別講師になったとかで、かなりお忙しいらしく、しばらくは『クロス』にも戻ってこられないと隊員の一人から聞きました。その為、シャドーレ殿の手紙は隊長代理を務めているという黒魔術師に託して参りました」
「そうだったのね…」
「ご主人様、私の判断は間違っておりましたでしょうか?」
ネクロが心配そうな声で聞く。
日を改めて直接渡すべきだったかもしれないと悩んでいた所だった。
「いいえ、そんなことないわ。『クロス』の隊員ならば確実に渡してくれると思うし、正直な話、ダークがその場で手紙を読んで感情的になって暴走して面倒なことになったら困ると思っていたのよ」
確かに、ダークは今もシャドーレを愛している。そこへ別れの手紙が来たとなれば、とても平静ではいられないだろう。
「…最悪の場合、魔力爆発が起きますな」
その場面を想像して、ネクロは頭を抱える。
「まぁ、ダークの実力は大したことないから、仮に魔力爆発が起きたとしても、ネクロの力をもってすれば簡単に制圧出来ると思ってね。それで、貴女に頼んだのよ」
「ご主人様はそこまでお考えになられた上で、私を指名して下さったのですか…!」
ネクロは驚く。
「あくまで、最悪の事態を想定しての話よ。私が難しく考えすぎただけだから気にしないで。…シャドーレの手紙を届ける役目、ご苦労だったわ、ネクロ」
「はっ!勿体ないお言葉にございます、ご主人様」
ネクロは跪いて頭を下げる。
「では、下がりなさい」
「はっ!」
その後しばらく経って『クロス』に戻ったダークは、シャドーレからの手紙を読んで激昂した。
「なんで…なんで俺がシャドーレと別れなければならないんだぁぁ!!!」
既に魔術が暴走しはじめている。
「隊長、魔力爆発が起きてしまいます!」
「シャドーレ〜〜〜!!!」
もはや彼の耳には誰の言葉も届かない。
「おい『シールド』を張れ。いざという時の為に習得しただろ?」
「でも、隊長の魔術を防げるでしょうか?」
「いいから早く発動しろ」
「時間がありません!『シールド』を張りつつ、この建物から避難しましょう」
隊員達は口々にそう言って、暴走するダーク隊長から距離をとる。
「シャドーレ〜〜〜!!!」
マヤリィが想定した最悪の事態。
残念ながら、ここには魔力爆発を簡単に制圧出来る者はいなかった。
今作中で、一番可哀想かもしれないダークさん。
シャドーレのことは忘れて、幸せになってね。




