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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第三十八話 『流転のクリスタル』

自らバイオの様子を見に行くマヤリィ。

今日は特別に渡す物があって第4会議室を訪ねますが……。

第4会議室に行ったら、バイオが一人で泣いていた。

「どうしたの、バイオ?」

「ご主人様ぁ……!!」

バイオは急にマヤリィに抱きつく。

「怖いです、怖いです……!」

子供のように泣きじゃくるバイオ。

(これは一体どうしたことかしら…)

マヤリィは不思議に思いつつ訊ねる。

「一体どうしたと言うの?ここには怖いことなんて何もないわよ?」

「思い出して…しまったのです……」

「思い出した?何を?」

その問いに、バイオは泣きながら答える。

「…最近になって、一人でじっとしていると思い出してしまうのです。桜色の都で拷問された頃のことを」

また十年前の話が始まるらしい。

「桜色の都で戦犯として収監されていた頃、私は毎晩のように独房で看守の男にレイプされました。見知らぬ男に無理やり裸にされ鎖に繋がれて身体を汚された苦しみを、ありありと思い出すようになってしまって…。出来る限り考えないようにしているのですが…」

バイオは大粒の涙を流す。

(フラッシュバックか…。これは厄介ね…)

マヤリィは可哀想に思って、バイオを突き放すこともなく抱きしめると、優しく話しかける。

「…とりあえず、涙を拭きなさい。今日は貴女に渡したい物があって来たのよ。昔の話は一旦置いて、私の話を聞いて頂戴」

「はっ。畏まりました、ご主人様。お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございません」

バイオは少し落ち着きを取り戻すと、跪いて頭を下げた。

「これを受け取りなさい、バイオ」

「はっ。…こ、これは…?」

突然渡されたアイテムを受け取ると、バイオは神妙な面持ちで訊ねる。

「これは『流転のクリスタル』というマジックアイテム。貴女には、これから水系統魔術を習得してもらうわ」

マヤリィは言う。

「貴女は「予言」の能力は失ったけれど、魔力まで枯渇したわけではないでしょう?だから、これから毎日訓練所に通って、水系統魔術を完璧に操れるようになりなさい。そして、ゆくゆくはその力を私の為に役立てて欲しい」

バイオの魔力量はシャドーレでさえ驚くほどだと聞いた。ならば、新しい魔術の習得もそう困難なことではないだろう。

『流転のクリスタル』は腕輪のような形をしていた。マヤリィはそれをバイオの手首に装着する。

「寛大なるご主人様、罪人である私に魔術具を授けて下さるとは大変畏れ多いことにございます。私バイオは、自分が犯した罪を忘れることなく、ご主人様の御為、魔術を習得するべく精進させて頂きます」

そう言って頭を下げる。

バイオは戸惑うこともなく、素直にマヤリィの命令を受け入れた。

「よろしい。では、訓練所に行きましょう」

そう言うと、マヤリィは第4会議室の結界を一度解いた。

今回は『転移』ではなく、バイオが滞在している第4会議室から、訓練所に向かう。彼女に行き方を覚えさせる為にも、城の内部を見せる為にも、必要なことだ。

「さぁ、着いたわ。…あら、ランジュ。来てたのね」

訓練所には『流転の斧』を携えたランジュが一人で鍛錬に励んでいた。

そういえば、皆には正式にバイオのことを紹介していない。

(その都度、紹介していけばいいか)

マヤリィはそう思って、バイオを紹介する。

「ランジュ、紹介するわ。彼女の名はバイオ。桜色の都の元予言者であり、今は…流転の國の魔術師見習いとでも言うべきかしら。これから、彼女にはここで魔術訓練をさせることになっているから、貴方もそのつもりでいて欲しい」

元予言者の罪に関しては、流転の國の全員が知っている。しかし、ランジュは表情を変えることなく、主の前に跪いて頭を下げる。

「はっ。ご主人様のご命令とあらば、どんなことでも致す所存にございます」

ランジュはそう言うと、今度はバイオの方を向いて挨拶する。

「お初にお目にかかります、バイオ殿。私はランジュと申します。どうぞよろしくお願い致します」

バイオは完全に男性が怖くなっているので、一瞬硬直したが、ご主人様の御前で失礼なことは出来ない。

「わ、私はバイオと申します。此度は皆様に大変なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした。さ、先ほど、ご主人様よりマジックアイテムを賜り、こちらで訓練を行わせて頂くことになりました。…ランジュ様。これからよろしくお願い申し上げます」

バイオはそう言って深々と頭を下げた。

「…そういうことでしたか。私はほぼ毎日こちらにおりますので、お役に立てることもあるかと思います。何でも聞いて下さい」

「あ、有り難きお言葉にございます…」

穏やかな表情のランジュを前にして、バイオは少しだけ安心した。

とは言え、ランジュは185cmの身長に加えて、筋肉質でがっしりとした体格なので、バイオは自分が随分と小さくなったような気がした。

「…では、後は頼むわね、ランジュ。突然で悪いけれど、バイオの魔術訓練に付き合ってあげて頂戴。頼りにしているわ」

「はっ。勿体ないお言葉にございます、ご主人様。貴女様のご期待に応えられますよう、全身全霊で魔術訓練にあたらせて頂きます」

ランジュが跪き、頭を下げる。やはり、皆ご主人様と呼んでいる。

マヤリィはランジュの言葉を聞いて満足そうに頷くと、

「バイオ、貴女の新しい魔術に期待しているわ」

そう言い残して、さっさとどこかへ『転移』してしまった。

「ご、ご主人様…!?」

突然ご主人様に置いて行かれたバイオは怖々とランジュを見る。やっぱりちょっと怖い。背高いし。

バイオが緊張した面持ちで立ちすくんでいるのを見て、ランジュは優しく話しかける。

「私は『流転の斧』を授かりし者にございます。防御に特化したマジックアイテムですので、いざとなればご主人様の盾になれると自負しております。バイオ殿はここでどんな魔術を習得されるのですか?」

穏やかなランジュの表情や話し方に、バイオは少しだけ緊張が解れる。

「み、水系統魔術の訓練を行うよう、ご主人様からこのマジックアイテムを頂きました」

「それは…『流転のクリスタル』…!?」

ランジュはそれを見て、主がバイオを罪人ではなく、ゆくゆくは流転の國の仲間として扱おうとしていることを確信する。『流転』と名の付くマジックアイテムは貴重であり、使役する者を選ぶ特別な魔術具である。

「成程、ご主人様はそこまで考えていらっしゃるのですね。…ならば、貴女がその魔術を一刻も早く習得出来るよう、手伝わせて頂きましょう。私が今持っている『流転の斧』を使えば、貴女の魔術の強さも測れます。…ともにご主人様の御為、鍛錬に励みましょう」

「は、はいっ!よろしくお願い致します!…ランジュ様…!」

この穏やかな方は私を罪人と知っていてなお優しく接して下さる…。ご主人様は全て分かっていて、私に訓練所に通うようにと命じられたのかしら。だってこの方と一緒だったら…大丈夫。

スノーの表情がだんだん和らいでいく。

「さぁ、お互いに頑張りましょう」

「はいっ!」

こうして、ランジュとバイオは訓練所で毎日顔を合わせるようになった。

『流転』のマジックアイテム達

指環:風系統魔術…ジェイ

羅針盤:書物の魔術…ミノリ

斧:防御特化…ランジュ

クリスタル:水系統魔術…バイオ ←NEW!!


なお、ルーリの持つ『流転の閃光』(雷系統魔術)は、最初から彼女の身体に直接宿っているものなので、厳密にはマジックアイテムとは異なります。

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