第三十六話 流転の城ツアー
シャドーレさん、流転の國へようこそ。
案内人は女神の顔をした死神だよ♪
「失礼致します。ご主人様の命により、参りました。ルーリにございます」
シャドーレの部屋をノックし、待機する。
すぐにドアが開いた。
「ルーリ様…!おはようございます!」
『クロス』の制服姿で命令を待っていたシャドーレが出迎える。
マヤリィ様はきっとお忙しいでしょうから、今日はメイドさんが来て城内を案内してくれるのかしら…と思っていたら、まさかの女神降臨。
「おはよう。…早速だけど、ご主人様から貴女を衣装部屋に案内するように言われている。今から、私についてきてくれないか?」
ルーリは淡い水色のドレスを身に纏い、肩下まであるブロンドの髪にウェーブをかけていた。
先ほどまでマヤリィと過ごしていた為か、幸せオーラに包まれ、輝くばかりに美しい。
「はっ!畏まりました!ルーリ様、よろしくお願い致します…!」
「そんなに固くならないで大丈夫だよ。私のことはルーリと呼んでくれ。…いいよね?シャドーレ」
美しいルーリに微笑みを向けられ、
「わ、分かりました……ルーリ」
シャドーレはやっとの思いでそう呼ぶ。
二人は歩いて衣装部屋へ向かった。
「ここだ。色々な服があるだろう?ご主人様はここにある服や靴や小物を好きに使っていいとおっしゃっている」
一番ここを好きに使っているのはルーリだが。
「でも…私のような大きすぎる女に合う服はございますでしょうか…?」
まだまだ堅苦しい口調でシャドーレが聞く。
「いやいや、それがあるんだって。ご主人様曰く、望む通りの物がこの沢山の服の中から必ず出てくるらしい。実際、今までもそうだった。…シャドーレはどんな服を着たい?」
ルーリが楽しそうに訊ねる。
「あの……恥ずかしながら私…実家にいた頃は貴族の娘の格好ばかり。学生の頃は制服ばかり。黒魔術師部隊にも制服がありましたので…自分で服を選んだことがないのです」
そう言って、シャドーレは俯く。
(私って、本当に地味な女よね…)
シャドーレは心配そうにルーリの顔を見る。私に失望なさったかしら。
しかし、そんな心配は必要なかった。
「そっかぁ。じゃあ私が選んでいい?シャドーレは抜群のプロポーションだし、選び甲斐があるよ。自分でも見てて気になったのがあったら着てみてくれ」
言い終わらないうちにブティックハンガーに吊るされた数多の洋服をかきわけ、ルーリは彼女に似合いそうな服を探し始める。とても楽しそうに。
「これなんてどうかな?うーん、何色が似合うかな?これも…捨てがたい…!」
ルーリは片っ端から色んな洋服をシャドーレに当ててみては、考える。
「…これ、ちょっと着てみて」
ルーリはシャドーレに洋服を渡す。女同士なのでその場で着替えてもらっても構わないのだが、
「あの……ルーリ…」
シャドーレは恥ずかしそうに、
「私、下着も地味なんです。その…恥ずかしいので、あちらを向いていてもらえませんか」
「そっか…じゃあ、下着もお気に入りのやつを選んでみない?ほらほら」
「ル、ルーリっ…!?」
シャドーレの恥ずかしさなどお構いなしに、ルーリは彼女の服を脱がせる。
「大丈夫。私に、全てを任せて…」
「は、はい…!」
シャドーレは頬を紅潮させ、ルーリの着せ替え人形になっていた。
やがて、シャドーレのコーディネートが完成する。
「本当に…こんな素敵なお洋服を着させて頂いてよろしいのでしょうか…?」
「いいのいいの。ご主人様の命令なんだからさ、有り難く頂戴しようよ」
身長190cmのシャドーレは、ハイヒール込みのルーリから見ても本当に背が高い。
「…シャドーレ、綺麗だよ」
ルーリは彼女を抱き寄せ、そっと唇にキスをする。
シャドーレは真っ赤になって動けなくなる。
「これが…貴女の…」
気付いた時にはサキュバスの腕の中。
「私も貴女のこと気に入っちゃった。ねぇ、これから二人でいいことしない?」
「ルーリ…!貴女のような美しい女性がなぜ私なんかを…?」
淡い水色のドレスにピンク色の風が重なり、ルーリの瞳が艶っぽく輝き始める。
「案内だけにしようと思ってたけど、ごめんね?貴女を食べたくなっちゃった」
素早く宝玉を取り出し、第2会議室へ。
素早くベッドに入り、全裸魔術発動。
魔術のネーミングセンスはどうにかならないの?
「男の人に抱かれ慣れてるね。シャドーレ、貴女は都に恋人がいるの?」
「ええ。ですがっ…私は流転の國に魅了されてしまいました。そして、今…貴女にも……」
シャドーレは恍惚とした表情になる。
「…彼は、私のことなど忘れていると思います。私も…もういいんです」
そう言ってルーリに身体を委ねる。
「そっか…それなら、遠慮なく頂きます」
婚約者とかだったらさすがのルーリも自粛したかもしれないが、今のシャドーレはフリーになりつつあるらしい。
いや、ルーリの辞書に自粛は載ってないな。
「彼は長かった私の髪を切ってくれました。私は嬉しかったけれど…彼はどう思っていたか分かりませんわ…」
プラチナブロンドのスポーツ刈り。少し伸びて、形が崩れている。
ルーリはシャドーレの髪を撫でて、
「貴女はもう彼にも都にも囚われなくていい。…シャドーレ、髪を切りたいのなら後でヘアメイク部屋に案内するよ」
「色々なお部屋があるのですね…」
シャドーレは真っ赤になりながらそう言った。
二人は魅惑の風に包まれながら、女同士の情事を愉しんだ。
その後、二人がヘアメイク部屋に直行したのは言うまでもない。
「しばらく見かけないと思ったら、エルフの里に帰っていたのか」
「はい。リスはまだ戻っておりませんが」
そういえば、シェルとリスはエルフ種。
耳が尖っていて銀髪が特徴的なだけで他に何が違うのか、ルーリには分からないけれど。
「初めまして。シェルと申します。ヘアメイク部屋のスタイリストを務めております」
シェルが行儀よく挨拶する。
「桜色の都出身の魔術師シャドーレにございます。此度、マヤリィ様のご命令にて、流転の國に永住させて頂くことになりました。どうぞよろしくお願い申し上げます」
シャドーレも深々と頭を下げる。
シェルも背は高い方なのだが、相手はなんといっても190cm。最初、モデルが雇われたのかと思った。
「素人に刈り上げてもらったものですから、少し伸びたらこんなになってしまって…。綺麗に整えて頂けますか?」
確かに、少し伸びたスポーツ刈りは格好が良いとは言えないものだった。
「短髪がお好みなのですか?」
「ええ…ずっとロングヘアでしたから、短い髪に憧れていましたの。どうか、さっぱりと刈り上げて下さいませ」
「畏まりました、シャドーレ様」
主が気に入って配下に加えたという黒魔術師を前に、シェルは恭しく頭を下げる。
「…そうでしたか。流転の國の危機に里帰りなど、申し訳ないことでございました」
ルーリから今回の一件について聞いたシェルはしょんぼりとしていたが、正直な話、シェルは戦闘要員ではないから、里帰りしていてくれてよかったのかもしれないとルーリは思った。
「バリカン…気持ちいいです…!うふふっ♪」
シャドーレさん、絶対マヤリィと気が合うと思う。
ルーリの選んだ新しい服に身を包み、プラチナブロンドの髪をカッコよく刈り上げたシャドーレは美しかった。
「貴女の姿を早くご主人様に見せたいな」
ヘアメイク部屋を出ると、ルーリは嬉しそうにシャドーレを連れて城内を歩く。
「ルーリ…今日は何から何まで…本当にありがとう。私、必ずご主人様のお役に立ってみせますわ」
シャドーレがそう言って微笑むと、ルーリもまた嬉しそうに笑って、頷いた。
その美しさに、シャドーレはつい見とれてしまう。絶世の美女が隣にいる。
「これからどうしようか?やっぱりカフェテラスかな。シャドーレ、コーヒー飲めるか?」
「は、はいっ…!」
「よかった。決まりだな」
到底サキュバスとは思えないような喋り方だが、ルーリはいつもこんな感じである。
「どんな所なのでしょう…楽しみですわ…!」
男装の麗人の中身は貴族の令嬢のままである。
ルーリとシャドーレはすっかり仲良くなり、潮風の吹くカフェテラスに着くまでの間も、楽しそうに会話を続けるのだった。
魅惑の死神による流転の城ツアー行程表
衣装部屋→第二会議室→ヘアメイク部屋→潮風の吹くカフェテラス
ルーリさんったら、早速『魅惑』を発動してますね。




