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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第三十五話 名前を呼ぶな

当たり前のように一夜を同じベッドで過ごした二人。

…まぁ、マヤリィはすぐ寝てしまいましたが。


ミノリからの念話を受け、マヤリィは第4へ。

マヤリィからの命令を受け、ルーリはシャドーレの部屋へ向かいます。

次の朝、バイオは目を覚ました。

「…ここは…?私は…一体…」

「目が覚めたみたいね…!」

《こちらミノリ。ご主人様、バイオが目覚めました。指示を待ちます》

ミノリは即座に念話を発動。

マヤリィはルーリの部屋で朝の時間を過ごし、これから第4会議室に赴こうという時だった。

「ミノリから念話が入ったわ。第4に行ってくるわね」

ルーリに告げる。

「畏まりました、ご主人様。…本日、私は何をすればよろしいでしょうか?」

「シャドーレを衣装部屋まで案内してあげて。これは私が悪いのだけれど、彼女は『クロス』の制服しか持っていないから、何か適当に普段着を見繕ってあげて頂戴。貴女のセンスを頼りにしているわ、ルーリ」

ルーリは嬉しそうに頬を紅潮させ、

「畏まりました、ご主人様。全身全霊で我等の新しき仲間を歓迎させて頂きます。このルーリに、全てお任せ下さいませ」

ルーリの頼もしい言葉に、マヤリィは満足そうに頷く。そして、

「昨夜は本当にありがとう。貴女のお陰ですっかり元気になったわ。また近いうちに来るわね」

甘えるような声で可愛らしく微笑む。

(マ、マヤリィ様、可愛すぎる〜〜!!)

ルーリは叫びたいのをこらえて、

「愛するマヤリィ様、有り難きお言葉、謹んで頂戴致します。ルーリの部屋はいつでも貴女様を迎える準備が出来ておりますので、どうぞまたお越し下さいませ」

主の前に跪き、頭を下げる。

「ありがとう。では、任せたわよ」

「はっ」

マヤリィはすぐに第4会議室に転移していった。

(マヤリィ様、マヤリィ様、私が宇宙で一番愛している御方…!ああ、お美しいマヤリィ様…!ルーリは幸せでございます…!)

マヤリィと過ごした時間の余韻に浸る。

幸せすぎても怖くならない人がここにいる。


「待たせたわね。…バイオ、身体の具合はどうかしら?」

「脱力感と倦怠感でうまく身体を動かすことが出来ません…。大変ご無礼ながら、この姿勢にてお話しすることをお許し下さいませ」

実際、バイオは寝たきりになってしまった人のようだった。

(もう、大丈夫そうね…)

マヤリィはミノリに向かって、

「ミノリ、よくこの場を守ってくれたわ。ご苦労でした。…これより後は自由時間よ。ゆっくり休みなさい」

「はっ。有り難きお言葉にございます、ご主人様。…それでは、失礼致します」

ミノリは主の前で一礼すると、自分の部屋に転移した。

(ご主人様ともっとお話したかったのに…。あの天使め……)

ミノリはバイオを恨みつつ、自室のソファにもたれかかるのだった。

バイオさん、一番怖い人に目を付けられてますよ。


「これから、私はどうなるのですか…?」

自らの運命を悟ったのか、バイオが訊ねる。

「貴女が意識を失っている間に色々なことが決まったの。とりあえず、これを見て頂戴」

マヤリィは『記憶の記録』を発動する。

つくづく、便利な魔術だね。

「そ、そんな…!ツキヨ様が…!?」

バイオは戸惑い、混乱している。

自分のせいでツキヨが退位することになり、王宮から去ることを余儀なくされるとは。

「なぜ、大罪人である私に最上位魔術を使い、介抱して下さったのですか…!?」

バイオは涙を流しながら、

「私を…殺して下さいませんか」

いっそ死んでしまった方がましだ。

バイオはマヤリィに懇願する。

「…傷付けないとは言ったけれど、貴女のその言葉は聞き捨てならないわ」

マヤリィは殺気をあらわにし、とてつもない魔力で圧をかけ、第4会議室は恐ろしい空気に包まれる。そして、

「覚悟しなさい」

そう言って、渾身の力でバイオをぶん殴る。

魔力で圧をかけてはいるが、マヤリィの物理攻撃は大したことない。それでも、バイオは恐怖のあまり硬直し、殴られた衝撃でベッドから転げ落ちた。

(痛っ……)

マヤリィの物理攻撃は流転の國で最弱。魔力でなら人を殺せるが、拳では人を殺せない。

だからこそ、激昂したマヤリィは物理的に彼女を殴ったのだが、むしろ自分がダメージを受けてしまった。

バイオの方は、全く痛みを感じないことを不思議に思っていた。

(マヤリィ様は…本当に誰も傷付けない御方なのだ…)

むしろ感銘を受けていた。…誤解です。本当に怒ってました。

マヤリィはバイオに手を差し伸べ、祈るような顔で語りかける。

「バイオ、よく聞きなさい。貴女は確かにとんでもない過ちを犯した。それは許されることではないけれど、私は貴女に生きて欲しい。生きて、罪を償って欲しい。それは、ツキヨ殿の願いでもあるのよ」

「………」

バイオは困惑した瞳でマヤリィを見る。

「焦ることはないわ。罪を償う方法はこれから私と一緒に考えていきましょう。二度と桜色の都には帰れないけれど、貴女のことはこの私が責任を持って面倒を見るから」

マヤリィは諭すようにバイオに語りかける。

「今は生きることだけを考えなさい。貴女はもう桜色の都の人でもなく、天使でもない。流転の國の人間になるのよ」

「流転の國の、人間…」

バイオはマヤリィの言葉を自分に言い聞かせるように呟くと、急に何かを思い出したように、

「畏れながら、マヤリィ様。…私は人間ではありません。実は、まだ天使のままなのです。翼はありませんが」

「知っているわ。…だから、貴女には『人化』魔術を受けてもらいたい」

「………?」

バイオは聞いたことのない魔術の名に戸惑いを隠せない。

「貴女を天使種から本物の人間に変える魔術よ。人間の形をした天使ではなく、種族レベルで人間になってもらう。…異論はあるかしら」

「…ございません」

バイオは素直にマヤリィ言葉に従うのだった。

《こちらマヤリィ。ネクロ、シロマ、第4まで来て頂戴》

マヤリィの念話を受け、すぐに二人が転移してきた。

「畏れながら、ご主人様。施すのは『完全治癒魔術』でお間違いないでしょうか?」

シロマが聞く。

「…そうね。まずは背中の傷痕を消しましょうか」

「はっ。…では、バイオさん。背中を見せて下さい」

「は、はいっ…」

バイオの背中には、十年前に天界から見捨てられ、翼をむしり取られた時の惨い傷痕が広がっていた。

「『ダイヤモンドロック』よ、全ての傷痕を消し去り給え」

シロマが『完全治癒魔術』を発動すると、すぐにバイオの背中から傷痕が消えた。

『星の刻印』とは違い、特別な魔法がかけられた傷ではない為、数分で魔術は終わった。

「…終わりました。もう服を着て結構ですよ」

そう言いながら、シロマは鏡を合わせて、バイオに背中を見せる。

「っ!?…これが、私の身体…!?」

バイオは驚く。翼など元々生えていなかったかのように、傷痕は綺麗に消えている。

「…シロマ様、ありがとうございます…!」

そう言って、バイオはシロマに頭を下げる。

「私はご主人様のご命令に従ったまでです」

シロマは事務的に答える。

「『人化』の準備も出来ておりますぞ。いつでもご命令下さいませ」

青い靄の杖を携えたネクロが言う。

バイオは服を着ると、マヤリィの顔を見る。

「…覚悟は出来ているみたいね」

「はい。よろしくお願いします…」

「では、始めなさい」

「はっ。畏まりました、ご主人様」

ネクロは一礼し、魔術を発動する。

「私は人間だから、どんな風に変わるのかは分からないけれど…」

ユキの場合は人間になったことにより、天使だった時の痛みの残滓が完全に消失したという。

ただ、バイオの場合は天使と呼べる状態ではない天使にされてから、かなりの年月が経っている。今から人間になったところで、彼女の何が変わるかは分からない。

「これにて終了にございます。…バイオ殿、身体の具合はいかがですかな」

「何か変わった点はあるかしら」

マヤリィは興味深そうにバイオを見る。

「…!身体が…動きます…!」

先ほどまでまともに動くことすら出来なかったバイオが立ち上がる。

「それはよかった。我々には『人化』の後の感覚が分からぬゆえ、心配しておりました」

ネクロは人間ではない為、マヤリィとはまた別の意味で心配していたが、バイオの言葉を聞いて微笑んだ。

『隠遁』のローブを着ているので、表情は見えないが。

「本当に、なんとお礼を言ったら良いか……!マヤリィ様、シロマ様、ネクロ様。心から感謝致します…!!」

そう言ってバイオは跪き、深く頭を下げる。

今はその体勢も苦しくない。

マヤリィはその様子を見て微笑むと、

「二人とも、ご苦労様。見事な魔術だったわ」

ネクロとシロマを労う。

「はっ。勿体ないお言葉にございます、ご主人様」

「ご主人様のお役に立てたのなら、これ以上の喜びはありません」

二人も主の御前に跪き、頭を下げる。


ネクロとシロマが第4会議室から転移した後、マヤリィは再びバイオと向き合った。

「貴女には、もうしばらくこの部屋で過ごしてもらうことにするわ。まだ、あの一件が完全に片付いていないから、玉座の間に呼ぶわけにもいかないのよ」

当然だ。実質、第4会議室には今も結界が張られているし。

「…私は貴女様の國を危険に晒そうとした大罪人。玉座の間に入るなど許されぬことと存じます。…長い時間をかけて罪を償い、マヤリィ様に生涯を捧げることをお誓い申し上げます」

バイオは自らの立場を完全に受け入れていた。

「バイオ。貴女のその言葉、信じるわよ」

マヤリィはそう言って微笑むと、念話の宝玉を手渡す。

「とりあえず、ここで大人しく過ごしなさい。何かあったらこれを使って私を呼んで頂戴。…いいわね?」

「はっ!畏まりました、マヤリィ様」

「…。私のことは名前で呼ばないで頂戴」

元はと言えば予言の能力で知られた名前。それを覚えているマヤリィはまだバイオには名前を呼ばれたくない。

「いい?私の名を軽々しく口に出すことは許さないわ。流転の國の者となった以上、私は貴女の主。…身分をわきまえなさい」

いつになく厳しいお言葉。

「も、申し訳ございません!…で、では…ご主人様と呼ばせて頂くことをお許し頂けますでしょうか…?」

バイオは慌てふためく。そういえば、先ほどの二人も御名を口にすることはなかった。

「ええ、許すわ。これからはそう呼びなさい」

「はっ!畏まりました、ご主人様。…数々のご無礼、重ねてお詫び申し上げます」

バイオはその場にひれ伏す。

マヤリィはバイオを見下ろしながら、

「念の為に伝えておくけれど、元々ここは結界部屋だから簡単には出られないようになっているの。間違っても、ドアに触れたりしないでね」

そう言うと、返事も聞かずに『転移』した。

「ご、ご主人様…?」

バイオは顔を上げて部屋を見回すが、主の姿はどこにもない。

「転移魔法…。私には、きっと一生使えないだろうな…」

そう呟くと、先ほど渡された念話の宝玉を見つめるのだった。

バイオにだけは名前で呼ばれたくないご主人様。

予言の能力で勝手に名前を知られ、勝手に呼ばれたのが、いまだに気に入らないのでしょうね。

わりと根に持つタイプのご主人様です。大人げないな。

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