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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第三十四話 彼女の部屋

ジェイとともに流転の國に帰還したマヤリィ。

早速、玉座の間へ皆を集めます。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

流転の國の玉座の間には、指示通りにルーリとランジュが待機していた。

「お疲れでございましょう?今宵はぜひ私の部屋へお越し下さいませ」

ルーリは主を玉座へと導く。

「ええ、そうするわ」

マヤリィはそう言って微笑んでから、

「ジェイ、バイオを見張っているミノリ以外の全員をこの場に呼んで頂戴」

「はっ」

《こちらジェイ。只今、ご主人様ととも帰還しました。ミノリとバイオを除く全ての者は速やかに玉座の間に転移するように、とのことです》


第4会議室。

「では、ミノリ殿。この場は任せましたぞ」

「ええ。シャドーレをお願い」

「了解した」

ネクロは転移の宝玉を取り出し、シャドーレを連れて玉座の間へと転移した。


シロマの魔力は完全に回復していた。

「玉座の間、主の御前へ『転移』」

すぐに玉座の間に現れる。


ユキはいまだに宝玉に慣れていない。

「て、『転移』…!」

因みに、わざわざ口に出さなくても宝玉に込められた魔術は発動する。


マヤリィは手短に皆に報告した。

ツキヨ王の退位とその後の処遇。『クロス』にはこれまでと変わりなく活動させること。バイオの身柄は流転の國で預かること。そして、シャドーレを自分の配下とすること。

「お、お待ち下さい、マヤリィ様…!」

最後の項目について、驚きの声を上げたのは当の本人であるシャドーレだった。

「私は、このまま流転の國にいても良いということですか…?」

その目は嬉しそうに輝いている。

「ええ。貴女の力を見込んでのことなの。ツキヨ殿の許可も取ってある」

「マヤリィ様、実はこのシャドーレ、このような事態に不謹慎なことですが、このまま流転の國に留まり貴女様にお仕えすることが出来たらどんなに幸せかと思っておりました」

頬を紅潮させ、新しい主に想いを語る。

「それでは、私シャドーレは只今より、流転の國の者として、マヤリィ様に絶対の忠誠を誓います。流転の國に全てを捧げ、命を賭して貴女様をお守り致す所存でございます」

シャドーレが跪き、頭を下げる。

「よろしい。存分に力を発揮しなさい」

「はっ」

マヤリィは満足そうに微笑む。

そして、シャドーレは流転の國のメンバーの方にも顔を向けて、

「流転の國の皆様。改めまして、自己紹介させて頂きます。私の名はシャドーレ。黒魔術を専門とする魔術師にございます。余所から来た者にございますが、一刻も早くマヤリィ様のお役に立つとともに、皆様とも親交を深められれば幸いにございます。どうぞよろしくお願い申し上げます」

皆は突然のことに戸惑っていたが、彼女の明朗な挨拶を聞いて、その場は和んだ。

「私達も挨拶をさせて頂きましょう」

ジェイの言葉に主は頷いた。

「私はジェイ。マヤリィ様の側近にして、風系統魔術を専門とする魔術師です。…って、既にご存知でしたね」

「ジェイ様、再びお会いすることが出来て光栄ですわ。先だっては大変興味深いお話をありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願い致します」

二人は桜色の都の貴賓室で話をしたことがある。

「初めまして、シャドーレ殿。私はルーリと申します。雷系統魔術を専門とし『流転の閃光』を持つ者にございます。『魅惑』魔術を使役することも可能ですので、訓練の際にはぜひ誘って頂けますよう、お願い致します」

よそゆき顔のルーリ。超レア。激レア。

ずっと玉座の間にいたので、ルーリは今初めてシャドーレの顔を見た。シャドーレも、今初めてルーリの存在を知った。

流転の國最強の実力を持ち、最高権力者代理に指名されたルーリは、紛れもなくマヤリィの切り札だ。だからこそ、彼女を玉座の間から動かさず、ダークにもバイオにもツキヨにも会わせなかった。そして、今の今までシャドーレにさえ彼女の存在を知らせることはなかった。

(なんて美しい御方なのかしら…!)

シャドーレは思わず見とれる。

続いて、ネクロが挨拶する。

「先ほど、第4会議室にてご一緒させて頂いたネクロにございます。私も黒魔術を専門としておりますので、互いに研鑽し合うことが出来ましたら幸いにごさいます」

相変わらず『隠遁』のローブを着たままなので、どんな顔をしているのかは分からない。

「私はランジュと申します。防御に特化した力を持つ『流転の斧』を授かりし者にございます。どうぞよろしくお願い申し上げます」

ランジュは自分よりも背の高い女性を見て、内心驚きつつ、穏やかな声で挨拶をする。

シャドーレは『流転』と名の付く魔術具に興味を示している。

「私の名はシロマ。回復・治癒・再生魔術などを扱う白魔術師にございます。私の力が必要な折には、いつでもお呼び出し下さいませ」

シロマは優しげな微笑みを浮かべてお辞儀する。

彼女こそが『完全治癒魔術』によってバイオの傷痕を消した凄腕白魔術師である。

「わたくしはユキと申します。わたくしも元は天界の者でありましたが、ご主人様に救われ、今は毒系統魔術を専門として訓練に励んでおります。よろしくお願い致します」

バイオと似た境遇のユキは少し複雑な気持ちで頭を下げる。

そんなユキの挨拶から間を置かず、

「最後は私ね」

主は玉座から立ち上がり、威厳に満ちた声で言う。

「我が名はマヤリィ。流転の國の最高権力者にして、この國に存在する全ての者達の主。そして「宙色の魔力」を与えられた魔術師よ。私はこののちも皆に様々な命令を下すことになるけれど、決して自分の命を軽く扱うことはしないで頂戴。貴方達の痛み苦しみはそのまま私の痛み苦しみになると心得なさい。そして、最後にお願いが…。いえ、これは命令よ。私は貴方達にこの流転の國で心穏やかに健やかに過ごして欲しいと思っている。私に忠誠を誓うならば、決してそれを忘れず、行動で示して頂戴。…私からは以上よ」

「はっ!」

その場にいる全員が声を揃え、頭を下げる。

つまり、ご主人様は皆に自由に生きろと言いたかったらしい。

「今一度、我等が主マヤリィ様に絶対の忠誠をお誓い申し上げることをお許し下さいませ!」

絶対的君主を前にして、配下達は恭しく頭を下げる。

流転の國に顕現した時から、皆の忠誠心は全く変わっていない。

「よろしい。皆を頼りにしているわ。これからも私についてきて頂戴」

「はっ!」

「畏まりました、ご主人様!」

配下達の顔を見渡して、マヤリィは安堵する。

誰一人として傷付いた者はいない。

「今日は皆、本当にご苦労でした。この後は各自、部屋に戻ってゆっくり休みなさい。あと、シャドーレには部屋を与えるので、このまま私と一緒に来るように。それから…」

マヤリィはルーリの顔を見る。

「ルーリ、貴女だけはもう少しこの場で待っていてくれる?すぐに戻るから」

「畏まりました、マヤリィ様。貴女様の仰せの通りに致します」

ルーリはまだよそゆき顔だが、この後のことを考えると、嬉しくて仕方がない。

マヤリィはルーリの言葉を聞いて微笑むと、

「では、行きましょう。『転移』」

シャドーレを連れて転移した。


「今日からここが貴女の部屋よ」

他の配下達の自室と同じ広さの部屋。

ていうか、空き部屋なんてあったんですね。

「こちらのお部屋を…私一人で使ってよろしいのですか…?」

「ええ。内装は好きに変えていいわ。あと、欲しい物があったら言って頂戴。誰かを呼んで女子会を開いてもいいし。好きに使ってくれればいいのよ」

マヤリィはそう言って鍵を渡した。

「あの…ジョシカイ、とは…?」

友人に恵まれず、異性だらけの職場で長年過ごしてきたシャドーレには初めて耳にする言葉だった。

「えーと…ミノリとか、ルーリとか、女の子を呼んでお茶でも飲みながらお喋りするのよ。私もあまり詳しくないけど…」

マヤリィも元の世界では女子会には縁がなかった。

「とにかく、皆は貴女と仲良くしたいと思っているはずよ。明日にでも案内するけど、衣装部屋もあるし、近くにはカフェテラスもあるから、この城の中では自由に過ごして頂戴。会議は基本的に玉座の間で行うわ」

シャドーレは驚いた。

都の黒魔術師部隊の宿舎に比べたら雲泥の差。

「私、本当にこんなに素晴らしいお部屋を使わせて頂いて良いのでしょうか…?」

誰でも、幸せすぎると怖くなる。

「気にしないで。私の命令だと思って素直に従いなさい。貴女はこの部屋を使い、先ほど私が言ったように自由時間にはゆっくり過ごせば良いの。任務があればその都度命令を下すわ」

「はっ。畏まりました、マヤリィ様」

素直に頭を下げるシャドーレを見て、マヤリィは微笑む。どうやら、シャドーレに名前を呼ばれるのは嫌ではないようだ。

「本当にありがとうございます。このように素敵なお部屋で過ごせるなんて、夢のようです」

少女のように目を輝かせるシャドーレの様子にマヤリィも嬉しくなって、

「貴女をこの國に迎えることが出来て本当によかったわ、シャドーレ。今夜はゆっくり休みなさいね」

「はっ。有り難きお言葉にございます。マヤリィ様のお役に立てますよう、精進致します」

シャドーレは跪き、頭を下げた。


マヤリィはシャドーレの部屋を出ると、再び玉座の間へ転移した。

「ルーリぃ〜〜〜!!!」

転移してくるなり抱きついてきたマヤリィをルーリはしっかりと受け止める。

「此度の件、本当にお疲れ様でございました。マヤリィ様がご無事で何よりです。さぁ、ルーリの部屋に参りましょう。私が貴女様の疲れを癒して差し上げたく存じます」

ルーリは『転移』が使えないので、宝玉を取り出す。

「それではマヤリィ様、参りましょう」

マヤリィを抱きしめたまま、ルーリは自分の部屋へ転移した。

「ルーリ…!ずっと…会いたかったわ…!」

マヤリィはルーリから離れない。

「私もです、マヤリィ様…!今宵は…っ…」

その言葉を遮って、マヤリィはルーリにキスをするのだった。


さっきまでの威厳はどこへ??

シャドーレはマヤリィの配下となれたことが嬉しくて、たぶんダークのことも『クロス』のことも忘れているでしょう。ツキヨ様はご無事だと伺ったし。


『流転の國』は心穏やかに健やかに過ごせる自由の國。

マヤリィはそれを忘れないようにと配下達に命令(お願い)します。

國に平穏が戻った今、心優しき主は誰よりも支配者に向いているのかもしれません。

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