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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第二十九話 十年前

第5会議室に転移したマヤリィとバイオ。

顔に傷のないバイオの姿を見た二人は、十年前に起きた天界との戦を思い出します。

国王陛下への忠誠心を強く持った若き日のシャドーレは、裏切り者に対して容赦なく黒魔術を使ったのでした……。

第5会議室にバイオを連れたマヤリィが姿を現す。

「マヤリィ様…!それに、バイオ!?」

シャドーレが駆け寄る。

バイオの意識はない。そして、顔の傷痕もない。

「顔の傷が…!まさか、貴女様がバイオの顔の傷痕を消して下さったのですか?」

シャドーレが訊ねる。

「私ではないわ。我が國の白魔術師の完全治癒魔術のお陰よ」

マヤリィが答える。

シャドーレは顔に傷のなかった頃のバイオを知っている。彼女が密偵として桜色の都に潜り込んでいた頃のことだ。バイオは当時の国王に取り入り、桜色の都の情報を得ていた。同じ頃、シャドーレも王宮に出入りすることが多かった為、二人は顔馴染みだった。

バイオは『変化』の魔術を使い、翼を隠して完全に人間の姿をしており、誰も天使だとは気付かなかった。その正体を突き止めた時には、既に戦は始まっていた。

シャドーレは当時を思い出す。

「貴女が陛下を欺いて天界へ情報を流していたのね…!逃がすものですか!!」

十年前の戦の最中、シャドーレは隙を見てバイオに攻撃を仕掛けた。

その時、バイオは『変化』を解き、今まで隠してきた立派な翼を広げて空へ逃げようとしたが、味方であるはずの天使に翼を奪われ、地面へと叩き付けられた。再び『変化』しようにも、既に天界から与えられた力は使えなかった。

「シャドーレ!誤解だわ。何かの間違いよ!!」

「いいえ。貴女は正体を偽って陛下を欺き、我が国の弱点を天界に知らせていた。その背中を見れば、誰だって貴女が天使であり、桜色の都を戦場にした張本人であることを確信するわ!…この裏切り者がぁ!!」

シャドーレはそう叫んで黒魔術を発動する。完全に冷静さを欠いている。

「うっ……」

バイオは膝をつく。シャドーレの魔術は強力だ。ここで殺される運命なのか…。

「貴女のせいで都の者がどれだけ犠牲になったか分かってるの!?天界から見捨てられたのも自業自得というものよ。かくなる上は己の運命を呪って死になさい!!」

「待て、シャドーレ!!」

バイオを殺そうとしたシャドーレを寸前で止めたのはダークだった。

「この者を始末するのに何か問題でもありますの?ダーク殿」

シャドーレに怖い顔で見下ろされ、ダークは一瞬怯んだが、

「…陛下からのお言葉だ。裏切り者を捕らえて、天界の情報を引き出すようにと」

当時はまだ『クロス』結成前なので、二人は同僚のような関係だった。

それに、桜色の都で一番の実力を持っているのはシャドーレだったから、彼女の魔力はダークにとっても恐ろしいものだった。

「分かりましたわ。では、陛下のご命令に従いましょう。…この死に損ないを『拘束』せよ」

シャドーレは構えていた槍に魔力を込めると『拘束』魔術でバイオを生け捕りにした。

「命が助かってよかったわね。…でも、これから先、貴女はあの時私に殺されていればよかったと思うことでしょうね。同情しますわ」

バイオはかつて一緒に国王陛下に仕えた黒魔術師によって牢獄に連れて行かれたのだった。

その後、バイオはシャドーレの言葉通り、死んだ方がよかったと思うほどの激しい拷問を受けた。

琥珀色の瞳。栗色の長い巻き髪。白い肌。

美しき大罪人として噂になった彼女。

結局、天界から大した情報を与えられていなかったバイオは長期に渡る拷問の末、処刑を言い渡された。

背中には今も翼をむしり取られた時の傷痕が残る。

「あの時、お前が言っていたように死んだ方が楽だったかもしれないな、バイオは…」

捕らえた時の姿そのままのバイオを目の前にしてダークが呟く。

「そうすれば『星の刻印』に苦しむこともなかった…。覚えているか、シャドーレ?」

「ええ。星の刻印が爆発した日のことは私も聞いていますわ。彼女の顔は火傷と怪我でひどい有り様だったと聞いております。処刑の日が延期されたくらいですもの」

シャドーレはそこまで話すと、

「マヤリィ様、話が長くなりまして申し訳ございません」

マヤリィに向かって深く頭を下げる。

「いえ、構わないわ。その頃の話は先ほどバイオから少し聞いたのだけれど、貴女は詳しく知っているの?」

「あまり詳しくは存じ上げません。これは人伝に聞いた話なのですが、牢獄の救護室を担当していた白魔術師の勤務態度は悪く、彼女は一時的に痛みを止める魔術を施されただけで、しばらくの間放置されていたようです」

「その間、貴女はお見舞いに行ったの?」

「いいえ。その頃は『クロス』結成の為の仕事に追われていましたから、罪人の見舞いどころではありませんでした。ただ、ツキヨ様直々の白魔術によって回復し『予言』の能力が認められて罪を赦されたという話をしばらく後で聞きました」

この話の間、バイオは、ホテルのロビーのような空間が広がる第5会議室の長い椅子に寝かされていた。

マヤリィは十年前の話を詳しく聞いた上で、

「この國に顕現した時、ユキと名乗る元天使は『変化』の魔術で天使の少年に化けていたわ。ここにはエルフもいるし、違う種族が混じっていることに最初は何も違和感を感じなかった。でも、桜色の都に潜入したバイオは、完全に人間の姿に『変化』していたのね?」

翼を隠し人間に化けていたバイオに対し、天使のまま少年に化けていたユキ。

「それは、恐らく魔力量の違いによるものかと存じます」

シャドーレが説明する。

「天使の中にも、魔力の強い者とそうでない者がいるようです。バイオの魔力量は私達も驚くほどの多さですので、長期間の人間への『変化』が可能だったのでしょう」

そういえば、前にユキが言っていた。元の姿から変えすぎると魔力が持たない、と。

「ユキは魔力量が少なかったから、人間ではなく天使のまま、疑われづらい子供の姿で配下の中に混ざっていたということかしら。そういえば、誘われても訓練に参加しなかったと言うし、今思えば、魔力を温存するのに精一杯だったのね」

それを聞いたダークは頷いて、

「もしかしたら、一人の時には元の姿に戻っていたかもしれませんね」

「それは有り得るわ。各々に個室を与えてあるから、誰にも気付かれずに『変化』を解くことも可能だったでしょうね」

マヤリィはため息をついて、

「星の刻印の件といい、天界の者達は相当に厄介な存在ね」

と言ってから、

「だからと言って、今すぐ攻め込んで滅ぼして良い理由にはならないわ」

バイオはまだ目覚めない。ダメージは受けていないものの、禁術を使われたのだから、当然といえば当然か。

「…それにしても、こちらには素晴らしい白魔術師殿がいらっしゃるようですね。ここだけの話、バイオの傷痕を消すことは、雪色の白魔術師と謳われているツキヨ様でさえ不可能でした」

ダークがいまだに信じられないといった顔でバイオを見る。

マヤリィはバイオの長い栗色の髪を見て、かつてのユキの姿を思い出す。

(そういえば、天使は皆似たような髪型なのかしら)

「…ところで、ユキ殿の髪もバイオと同じ栗色のウェーブヘアなのでしょうか?目の色はやはり琥珀色ですか?天使は皆そういった姿をしていると聞いたことがございます」

話が一段落したと見て、シャドーレが興味津々に訊ねる。マヤリィと似たようなことを考えている。

マヤリィは自分がユキにした仕打ちを思い出して、

「ええ。『変化』を解いた時のユキは、確かに今のバイオと同じ、栗色の長い巻き髪に琥珀色の瞳をしていたわ。肌も白くて」

「では、バイオにそっくりですね…!」

「その時まではね」

そう言って、急にトーンの下がるマヤリィの声。

(ご主人様、言っちゃうんですね…)

傍に控えていたミノリはあの日のことを思い出す。ミノリが考える限り、あれは紛れもなく「罰」だろう…。ルーリの見解とは異なるが。

「そ、それでは今は違う姿に…?」

マヤリィの声色が変わったのを感じて、シャドーレはなぜか少し怖くなる。

「天使だった頃を忘れさせてあげたくてね、彼女の髪を切ったのよ」

マヤリィは微笑んでいる。

が、目は笑っていない。

(ご主人様、怖いけど素敵だわ…!)

ミノリは主のこの不敵な微笑みが実はとても好きだった。それが自分に向けられなければ、の話だが。

マヤリィはミノリの熱い視線に構うこともなく、自身の短い髪を弄びながら、

「天使の女性にとって長い髪はとても大切な物だと言うけれど、もう天使ではないのだからと言って、ばっさり切らせたの」

「では…今はショートヘアなのですね」

シャドーレが聞く。

「うーん…もっと短いわね。分類的にはベリーショートかしら」

「なっ…」

今度はダークが反応する。

「彼女、髪を切られている時は大泣きしていたけれど、今はもう吹っ切れたみたい。初めはバリカンを少し使っただけで泣くんだもの。困っちゃったわ」

「そ、そうでございましたか…」

お優しいご主人様のとんでもない「罰」に、ダークは複雑な顔をする。

自分の恋人は例外だが、桜色の都では、いまだに髪は女の命という考え方が残っている。それは天界の者達も同じなのだろう。

「流転の國では、ユキ殿を拷問するようなことはなかったと伺いましたが、そういった罰の与え方もあるのですね…」

ダークは感心する。でも怖い。

「たとえ罪人であろうと裏切り者であろうと、決して拷問はしないというのがご主人様のお考えです」

ミノリが言う。

「確かに、国境線のゴーレムの件に関しても相手が人間であれば攻めることを躊躇っていたと伺いました」

マンスの配下を攻めた時のことだ。

あれがゴーレムではなく人間の兵士だったら、あの計画は実行しなかったかもしれない。

その時、唐突にシャドーレが言う。

「髪を切られて号泣ですか…うふふ、私にはご褒美だったかもしれませんわね」

ずっと長い髪を切りたかった貴族出身の女がここにいる。ダークの「例外の恋人」だ。

ミノリはまだ見慣れないという様子で、

「シャドーレ殿に初めてお目にかかった時はロングヘアでいらっしゃいましたから、今日はとても驚きました。すごくお似合いです」

「ミノリ殿こそ、美しい御髪ですわよ?それに、とても可愛らしくて…抱きしめたくなりますわ」

「そ、そんな…!ご主人様の前でそんなことをおっしゃらないで下さいませ…!」

ミノリは頬を染める。彼女は生粋のレズビアンなのだ。ご主人様が隣にいるとはいえ、目の前に男装の麗人が現れたら、そりゃ心も揺れる。

(確かに、シャドーレは美しいわ)

マヤリィは頷いて、

「ミノリ、私のことは気にしないで。そちらの美しい女性に抱きしめてもらいなさい」

これは許可なのか命令なのか。

「はっ。有り難きお言葉に…っ!?」

言い終わらないうちにシャドーレに抱きしめられるミノリ。

「ああ、可愛らしいですっ!ミノリさん!」

どさくさに紛れて呼び方変わってるし。

「シャドーレ…さん…!ミノリは…今、背徳感でいっぱいにございます。ご主人様の目の前で貴女のような美しい女性に抱きしめられているなんて…!ご主人様、ごめんなさい…!ミノリは一体どうしたら良いのでしょう!?」

ご主人様以外の女性に抱かれて背徳感を感じて謝ってる側近は他にもいたような…。

「ミノリ、愛はひとつじゃないわ」

ご主人様は微笑ましく見守っている。

が、ダークは心配になってきた。

「シャドーレ、俺を忘れないでくれ」

十年前の戦で、国王の命によりバイオを生け捕りにしたシャドーレ。

『拘束』はネクロがマンスに対して使った魔術と同じであり、使役する者の力が弱ければ簡単に解けてしまう魔術でもあります。しかし、バイオが『拘束』を解いて逃げ出すことは不可能でした。

当時から、シャドーレの実力は他の魔術師達よりも抜きん出ていたのです。

『クロス』結成後は、桜色の都が男性優位の社会である為、副隊長に留まっていますが、ダークよりも強いということは隊員達も知っています。


それにしても、新しく百合の花が咲きそうな予感…。

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