番外編 魅惑の死神 前編
玉座の間に残されたジェイとルーリ。
マヤリィ不在の今、何が起こる…?
「ねぇ、ルーリ…」
「なんだ、どうした?」
ジェイが暗い表情でルーリに話しかける。
ここは玉座の間。
先ほど、マヤリィが第4会議室に転移したので、二人はここで待機中である。
「君、知っているんだろう?姫の病気について、詳しいことを」
「姫というのはマヤリィ様のことだな?お前こそ、マヤリィ様について随分詳しそうじゃないか。まるで最初から知っていたみたいに」
ルーリは適当に言ったつもりだが、図星だ。
「さっき、姫は君にだけ明確な指示を与えず、この場に残るよう命じた。本来ならこの國で一番の実力を持つ君が最前線に立つべきだったのに。なぜ、進言しなかったんだ?」
ジェイは冷静さを失っている。
「どうしてそんなことを聞く?あの時のマヤリィ様のご様子をお前も見ていただろう?私を必要として下さっているあの御方を置いて行けるわけがない」
ルーリは静かにそう言った。
ジェイも本当は分かっている。あの時、折れかけていた姫の心の支えになれるのはルーリしかいなかったと。
「…悪い。僕は君に嫉妬しているみたいだ。本当は僕だって分かってる。マヤリィ様はルーリ、君のことが本当に好きなんだ。僕から見てもルーリはすごく魅力的な人だ」
ジェイは33歳。ルーリに敵うはずがない。
「そう率直に言われると困るな…」
気付けば、ルーリの身体からピンク色の風があふれ出ている。
ルーリは49歳。ジェイの純粋な瞳が眩しい。
「マヤリィ様が、このルーリのことを本当に好きだって…?そ、そうですよね、あの時、愛してるって、確かに言って下さいました」
ルーリワールド炸裂。
ジェイは焦る。
「ルーリ!『魅惑』が発動してるよ!このままじゃ僕が魅惑に…!いや、むしろ一度くらいかかってみたいかも。僕、耐性ないし」
ジェイとしては、マヤリィの心を奪ったこのサキュバスの実力を見てみたかった。
が、ふいに風がやむ。
「お前を魅惑にかけてどうするんだよ。私もお前もマヤリィ様一筋だって言うのに」
急に普通に戻る。
「そ、それはそうだけど…」
ジェイはそう言ってから考え込み、
「そうか!ルーリはサキュバスとはいえレズビアンだもんね。男は抱けないんだね!」
最低の煽り作戦。そんなに『魅惑』を体験したいの?
でも、その作戦は功を奏したらしい。
「誰がレズビアンだって…?私はバイ・セクシャルだ。お前がそこまで言うなら抱いてやるよ」
言い終わらないうちに、物凄い勢いでジェイの身体が風に包まれる。ジェイは思わず目を瞑る。風系統魔術の使い手なのに、ルーリの風には対抗出来ない。
ようやく目を開けると、胸元と背中が大きく開いた真っ赤なドレスを着た女性がブロンドの髪を揺らし、ジェイを押し倒している。
「んふふっ、まだ若いわね」
ここにいるのはいつものルーリではない。
人を魅了し、油断させ、その隙をついて雷を落とす、本来の敵に対する魅惑魔法の使い方をしている。
「ねぇ、遊びましょう?」
『魅惑の死神』は蠱惑的な笑みを浮かべながら、その真っ赤な唇をジェイの唇に優しく押し当てる。舌を入れられ、舌を弄ばれ、それでもまだ離してもらえない。気付けば、細くしなやかな指がジェイのベルトを外している。起き上がろうとするも、碧い瞳がジェイの心までとらえて逃がさない。服を脱がされると、今度はまた口付け。真っ赤なネイルが光っているのが見える。むせ返るような甘い香りがジェイを包み、意識を朦朧とさせる。
「坊や、お愉しみはこれからよ。逃げないでね?」
そう言って、ジェイの下半身に攻め込む。いつの間にか全部丸出しにされている。
「…んっ……ルーリ…っ…」
「可愛いわね。若いって素敵だわ。うふっ♥」
楽しげなサキュバスの声が聞こえる。
でも、ジェイは全く身動きが取れない。
ていうか、かなりヤバい。
勃ってる!舐められてる!啜られてる!
「どう?気持ちいいかしら?…本当に可愛い子ね♥」
ただでさえ美しいルーリに女神のような微笑みを向けられる。ジェイは快感に浸った。
姫、ごめんなさい…。
その背徳感がさらにジェイを興奮させる。
魅惑の死神はいつまでも離してくれない。
ジェイは蕩けそうな表情のまま、魅惑の海で溺れている。
ずっとこの時間が続けばいい。 すごく気持ちいい。
心も身体も美しい夢魔に支配されている。
(そろそろ雷を落としても良い頃合いね)
ジェイは油断している。このままでは殺人級の雷魔法が降ってくる。
と、そこへ。
《こちらシロマ。これより玉座の間に転移します。全回復は使用可能です。何かございましたらお呼び下さい》
「玉座の間…!?」
ここじゃん。シロマが来る。
ヤバい。本気でヤバい。
ジェイは我に返って焦りまくる。
どうするの、これ!?
続く。
後編に続きます。




