第三話 『流転の閃光』
ご主人様:33歳
ネクロ:同い年
ミノリ:32歳
リス:17歳
ルーリ:最年長
…という設定をiPhoneメモのどこかに書いた気がする。
これは、西の森の探索が始まる少し前の話。
「実際どうなのかな、ミノリちゃんは?」
「は?何が?」
「ご主人様の寝室に忍び込む算段は整ったのかなってことだよ」
ルーリが意地悪く笑う。
今ここにご主人様がいないので、配下同士で他愛のないお喋りをしている。
「そ、そんなこと出来るわけないでしょ…!やりたいけど」
「やっぱやりたいんだ。そうだよねぇ、ご主人様とやってみたいよねぇ〜」
「い、意味深な言い方しないで下さい」
その場に同席していたリスが口を挟む。
「べ、別にミノリは…ご主人様と一緒に寝たいとかそういうんじゃないから」
「いや、そういうことだろ」
「私はご一緒のベッドで眠りたいですな」
突然のネクロの一言に一同ズッコケる。
「ネクロ…ちゃん?って両性具有とかそっち系だと思ってた」
ミノリが言う。『隠遁』のローブを着ている為、今も顔は見えない。
「ネクロが夜這いに行ったらさすがにご主人様も驚かれるんじゃないか?」
「ていうか、ネクロさんは実際どんな顔されてるんですか?」
リスが興味津々にネクロに近付く。
「いや、どんな顔と言われましても」
「ミノリも気になるわ」
「やめておけ、二人とも」
ルーリが遮る。
「元々黒魔術師というのは姿を見られてはいけない存在なんだ。たとえ味方でも。だからネクロの素顔はご主人様だけが知っている」
「そ、そんな…!もしネクロが絶世の美女だったりして、ご主人様の心を射止めてしまったら、ミノリはどうしたらいいの…?」
「落ち着け、ミノリ」
「嫌よ、ミノリはここで貴女の素顔を見る」
ミノリの周りに魔術書が浮かび上がり、魔法陣が展開される。
「ミノリさん、やめて下さい!」
「仕方ないですな…」
「ネクロさんも!」
ネクロは杖を高く掲げ、呪文の詠唱を始める。
「マジでやるつもりか…」
「そんな…!どうしたら…!」
リスは怯えて、ルーリの後ろに隠れる。
そして、二人の魔力がぶつかり合う瞬間、
「『流転の迅雷』」
真上に向かって人差し指を立て、ルーリが雷魔法を放つ。それによって、二人の魔力は相殺され、無効化された。が、衝撃波でミノリとネクロは吹っ飛んだ。
「ルーリさん、今の何ですか…って、えっ…」
リスは見た。ルーリの指先から二の腕に至るまで、雷の光が絡みつくように光っている。
「本当はこんな所で使っちゃいけない魔法なんだがな」
「ルーリさん、それは…」
「私に授けられたマジックアイテムみたいな物だ。『流転の閃光』と呼ばれているが、書物や杖や斧と違って私の身体に直に宿っている」
ルーリは説明しながら、魔法を解く。
二人の魔術を相殺するだけの力だったので、雷魔法とはいえ誰も痺れてはいない。
「ちょっと、今の何よ…」
「一瞬、光の筋が見えましたな」
「大丈夫ですか?お二人とも」
リスが二人に駆け寄る。
相変わらず『隠遁』のローブを着ているネクロ。
魔術書を拾い上げてアイテムボックスにしまうミノリ。
「雷がどうとか言ってたけど、ルーリの本業は『魅惑』魔法じゃなかったの?」
「まぁ、種族的にいえば本業は『魅惑』だが、有り難いことに雷系統魔術にも適性があるんだ」
そういえば、水晶球が言っていた。
ルーリは雷を司る魔術師であるとともに、魅惑魔法を自在に操る者であると。
「貴女達、ここで何をしているの?」
その声に、四人は咄嗟に整列して跪く。
「一時、高い魔力を感じたわ。魔術訓練なら廊下ではなく訓練所でしなさい。ここが崩落でもしたらどうするの?」
「申し訳ございません、ご主人様」
ご主人様に鋭い眼差しを向けられ、一同は頭を下げるしかない。
「ミノリ、貴女の書物は仲間と戦う為の物ではないわ。ネクロ、挑発に乗って応戦してはダメよ。リス、怖かったでしょう?怪我はない?ルーリ、二人を止めてくれてありがとう」
そう言ってルーリの腕に触れると、雷の波動がマヤリィの身体に伝わっていく。
それを感じながら、マヤリィは微笑む。
「貴女以上に『流転の閃光』と相性のいい魔術師はいないわ、ルーリ」
「勿体ないお言葉でございます、マヤリィ様」
ルーリは嬉しそうに目を輝かせる。
リスは今もルーリの後ろにいる。
ミノリとネクロはすっかり縮こまっている。
「では、貴女達に命じる」
マヤリィが再び眼光鋭く一同を見る。
何かと思えば、
「自室に戻りなさい」
「はっ!」
お喋り(時々魔術)終了のお知らせだった。
「喧嘩するほど仲がいいのも、各々の魔力が強いのも、考えものね…」
マヤリィはそう呟いて自身も部屋へ戻ろうとした。
しかし、部屋の前に誰かが立っている。
「直接貴女様のお部屋の前に参上したこと、並びに御名をお呼びすることをお許し下さいませ」
やっぱり名前呼ぶのに許可が要るの?
「気にしなくていいのに」
マヤリィは部屋のドアを開けて、
「早く中へ入りなさい。貴方が来ることは分かっていたわ」
「はっ。失礼致します、マヤリィ様」
マヤリィはふっとため息をつくと、
「今だけは前のように話していいのよ」
そう言って、主の御前で畏まる男の目を覗き込む。
「昔話を始めましょうか、ジェイ」
ドアには鍵がかけられた。
今回は分割に成功しました。
次回はマヤリィの転移前の話を少々…。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます!