第十九話 大好きよ
マヤリィとルーリのイチャイチャ回。
同性愛が苦手な方はご注意下さいませ。
ようやくルーリの年齢が明かされます。
皆は、どうしただろうか。
傍らには、心配そうな表情をした美女。
「ルーリ…」
だいぶ声が出るようになった。
「ご主人様、お目覚めですか?」
「どのくらいこうしていたのかしら。貴女、疲れてない?」
「滅相もございません、ご主人様」
本来なら跪きたい所だが、今ベッドから下りるとマヤリィが倒れてしまう。
「…ねぇ、ルーリ」
「はっ」
「…髪、切りたいわ…切ってくれる…?」
「はっ。シェルに命じましょうか?」
「いえ…貴女に切って欲しいの…」
ルーリは自分で自分の髪を整えているという話をマヤリィはどこかで耳にしていた。
「私が貴女様の御髪を…?」
「ええ、お願い」
ルーリにしてみれば出来ないことではない。
「はっ。貴女様のお望みとあらば、このルーリ、誠心誠意力を尽くさせて頂きます」
マヤリィは何も心配していなかったが、実際、彼女はスタイリスト並みの腕前だった。
「ルーリ、さすがね。貴女に任せてよかったわ」
シャドーレほどではないが、短く刈り上げた髪を触って、主は微笑む。
「ありがとう、ルーリ」
「勿体ないお言葉にございます。マヤリィ様のお役に立つことが出来て、私は幸せです」
(マヤリィ様、美しい…!)
少し元気になった主の様子を見て、ルーリは安心しつつ、その美貌に見とれた。
「ねぇ、ルーリ。一緒にお風呂に入りましょう?」
「お、お風呂…でございますか!?」
急展開。ご主人様とお風呂…ですと?
「貴女も疲れたでしょう?せっかくだから一緒にゆっくりしましょうよ」
「はっ。ご一緒させて頂きます…!」
(マヤリィ様とお風呂…❤︎)
マヤリィが一足先にバスルームに入る。ルーリは指を鳴らし、一瞬で服を全て脱ぐと、主の後を追ってバスルームに入る。
長身のルーリが先に湯船に浸かり、ルーリにもたれかかるような体勢でマヤリィが浸かる。
(身体の、身体の密着度っ…!!)
ルーリは真っ赤になる。
(マヤリィ様…なんて細い肩……)
彼女の華奢な身体をルーリはしっかり抱き止める。
(ルーリ、綺麗な肌をしているわ。…む、胸が柔らかい…)
背中にルーリの豊満な乳房を感じる。それは、マヤリィの全てを包み込んでくれるようだった。
(マヤリィ様…うなじが色っぽい…んっ…夢魔の私でさえ誘惑されてしまう…)
急にルーリがマヤリィのうなじにキスをする。
「んっ…」
彼女の身体がぴくんと反応する。
「畏れながら、マヤリィ様。私は我慢出来なくなりそうです。貴女様がお美しすぎて」
「我慢しなくていいわよ」
今度はマヤリィが体勢を変えて、ルーリにキスをする。
そのまま、浴槽の中、二人は抱き合う。
ルーリの手がマヤリィの後頭部に触れる。
「気持ちいい…ルーリの手の温かさが直に伝わってくるわ」
ルーリは微笑んで、
「では、この辺りはいかがでしょうか?」
姫のうなじから盆の窪からさらにその上まで細い指でなぞっていく。
「あっ……んっ…」
マヤリィが思わず声を上げる。
「マヤリィ様。貴女様のお美しいうなじ…もっと私に下さいませ」
そう言って、ルーリはマヤリィのうなじを舐める。
「…んっ……あんっ……」
マヤリィは性感帯を舐められ、感じまくる。
「マヤリィ様ったら、ココが性感帯なのに、いつでも舐められる状態でいて下さるなんて…エロすぎますっ…」
確かに、ベリーショートの髪ではうなじは隠せない。
「あ…んっ………だって……髪の毛、伸ばしたくないんだものっ……仕方ないじゃない……」
身動きが取れないまま夢魔に弄ばれるマヤリィ。それでも、少し落ち着きを取り戻すと、
「…ねぇ、私のぼせちゃったみたい。そろそろ上がりましょう?…それと、後でもう一度抱いてくれるかしら」
上目遣いでルーリに問う。
「ああっ、お美しいマヤリィ様…!今のお言葉、然と拝聴致しました。…続きはベッドの上でいかがでしょうか」
二人して顔を真っ赤にしながら、ようやくお風呂から上がる。
そして、軽くシャワーを浴び、バスルームを出る。
湯船の中で乱れに乱れたお陰で、先ほどシャンプーして乾かしたマヤリィの髪はまた濡れてしまった。ルーリはその後ろに座って、優しくタオルドライする。そして、ドライヤー。
「本当に簡単に乾くわね。嬉しいわ」
マヤリィは心地よさそうにルーリに頭を委ねる。
「普段よりも短くしたいと仰せでしたのでここまで切らせて頂きましたが、まるで美少年のようです。お美しいです、マヤリィ様」
そりゃあ、ルーリよりかなり小柄で胸もないから、少年のようにも見えるだろう。
「色も綺麗にしてくれてありがとう。貴女のブロンドの美しさには遠く及ばないけれど、金髪が好きなのよね」
マヤリィは元は日本人特有の黒髪だが、ここに来てからは常に金髪に染めている。
「貴女様の御髪は柔らかく素直な髪質ですので、綺麗に色が入ります。お気に召して頂けたのなら幸いにございます」
ルーリはマヤリィの短い髪をブラッシングする。本当に手触りの良い髪だとルーリは感じた。柔らかくてさらさらとしていて…もしこれがロングヘアだったらさぞかし…。いや、これ以上は考えない方がいい。
「…ねぇ、ルーリ?」
「いかがなさいましたか?」
「私は…本当は黒髪の方が似合うのかしら」
ふと、シェルに聞かれたことを思い出したマヤリィ。エルフ種である彼は、なぜ美しい黒髪を染めてしまうのかと、あろうことか本人に聞いてしまったことがある。
それ、聞いちゃ駄目なやつ。
「畏れながら、私はマヤリィ様が黒髪であられた頃のお姿を拝見したことがございません。きっと黒髪の貴女様もお美しいことに変わりはないでしょう。ですが、私は、自由にヘアスタイルを楽しんでおられる今現在のマヤリィ様が大好きです。…生まれ持った髪の色に拘る種族もいるようですが、貴女様の好きな貴女様でいて下さることが私の一番の喜び。どうか、これからもお傍近くでそのお美しいお姿を拝見させて下さいませ」
ルーリは戸惑いながらも、真剣に、マヤリィの不安な心に寄り添う。
「ルーリ……ありがとう…」
彼女は何もかも分かってくれている。
マヤリィは心の中が温かくなるのを感じた。
ぽろり。涙がこぼれる。
「マヤリィ様!?」
「貴女がいてくれて、よかった…」
マヤリィは笑っていた。泣きながら、笑っていた。
「マヤリィ様…!」
ルーリはアイテムボックスの中からシルクのハンカチを取り出すと、主の涙をそっと受け止めた。
柔らかい感触。最高級のアイテムだろう。
「ねぇ、ルーリ…」
マヤリィはルーリを見つめながら、
「私の髪色も貴女に近くなったことだし、貴女が姉で、私が弟と名乗っても信じてもらえそうね。目の色とかは違うけれど…そこはカラコンで」
急に突拍子もないことを言い出す。
それは一体どんな作戦なんだ?
どこの誰を騙そうとしているんだ?
「た、確かに私も金髪ですが…ご主人様の姉などとは畏れ多い…。それに、私はご主人様よりもかなり年上でございますし…。っていうかマヤリィ様、あくまでも美少年を貫かれるとおっしゃるのですね?弟って…」
「…だって、男の子だったら…」
そう言いかけて、やめた。
「ところで、ルーリって幾つなの?」
そんなに年上なの?
それとも年齢の概念が違ったりする?
「い、いつかはお訊ねになられる日が来ると覚悟しておりました…」
いや、そんな、悲観的にならないで。
「あ、ごめんなさい。いいの。言いたくないなら言わないでいいの。…えっと、因みに私は33歳よ」
先手必勝。言わせる気満々のご主人様。
「マ、マヤリィ様が33歳ですと?」
ルーリは驚いて、
「20歳の間違いではございませんか?」
「残念ながら、正真正銘の33歳ね。私の暦によれば…あと3ヶ月くらいで34よ」
マヤリィは12月生まれ。
「そ、そうでございましたか…。マヤリィ様と近い年齢の者が羨ましい限りです。特にネクロ」
ルーリはちょっと怖い顔になってから、意を決して自分の歳を告げる。
「わ、私は…49にございます」
ご主人様が予想以上のお歳だったとはいえ16歳差。どうしてこんなに年齢差があるのだろう。ルーリは俯く。
しかし、マヤリィは微笑みながら、
「教えてくれてありがと。絶世の美女に年齢を聞くなんて、いけないことをしたわ」
そう言ってルーリに抱きつく。
「こんなに綺麗な49歳、私初めて見た」
「勿体ないお言葉にございます。…恐らく、この城の中では私が最年長でしょう。年齢不詳だったネクロも、この間の計画でうっかり顔を見てしまいましたので…」
国境線の黒魔術師マンスとの戦闘で『隠遁』のローブが切り裂かれた際に、ルーリはネクロの素顔を見てしまったのだ。
それに関しては、マヤリィも報告を受けているので知っている。
「マヤリィ様にそっくりの美貌を持ち、さらには年齢も同じであるというネクロが…本当に羨ましい」
ルーリが悔しそうに唇を噛む。
「私だって、マヤリィ様のように綺麗だったら…若かったら…よかったのに…」
彼女のこんな表情は珍しい。
「ルーリ、貴女、自分で気付いていないの?」
突然、マヤリィが言う。
「えっ…」
「私は貴女のことを世界一の美女だと思っているのよ?年齢なんか関係ない」
マヤリィの純粋な言葉がルーリの悔しさをかき消す。
「貴女が私を褒めてくれるのは本当に嬉しいし幸せなことだわ。…でもね、ルーリ。私は貴女以上に美しい女性を知らない。それに、貴女は本当に優しい人…」
マヤリィの輝く瞳がルーリを真っ直ぐに見ている。マヤリィは本気でそう思っている。
「貴女に会えてよかったわ…」
そう言うと、マヤリィは少し背伸びをして、
「ルーリ、大好きよ」
返事を聞くこともなく、ルーリにキスをした。
(マヤリィ様…!)
ルーリの瞳に幸せの涙の粒が光る。
魅惑の死神は、初めて真実の愛を感じていた。
マヤリィにはジェイという彼氏がいる。
ルーリの本業はサキュバスである。
それなのに、愛し合っちゃう二人。
世界も種族も年齢も何も関係ない!
二人は姉弟ではなく、恋人同士なのです…。




