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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第十五話 桜色の都へ

頑張ってヴィランを演じるマヤリィ様。

でも、実際は慈愛に満ちた最高権力者なんですよね。

世界屈指の強大な力を持ちながらも、あくまで平和的に話し合いを進めようとする異色の支配者。

誰も殺さず誰も傷付けず。

それが現代日本出身の彼女の考え方です。


「ここは…?」

氷塊と拘束を解かれたマンスがベッドの上で目を覚ます。ここは第4会議室。

「お目覚めかしら。『流転の國』にようこそ」

その声を聞いて、マンスは飛び起きる。

「き、貴様は誰だ…?」

「あら、口の利き方には気を付けた方がいいわよ?殺されたくなかったらね」

そう言った途端、マヤリィが宙色の魔力を放つ。魔術を発動したわけではない。単純に殺気という名の魔力圧をかけただけだ。

マンスの身体が震える。こいつはヤバい。

「貴様…いや、貴女が先ほどの二人の主様ということですか…?」

「そう。貴方が国境線を守る黒魔術師であり、ゴーレム達の指揮官であることも聞いているわ。…ところで、貴方の国はどこ?」

マヤリィの問いに対し、マンスは震えながらも強気に出る。

「答えなければ、どうしますか?」

その返事を聞いて、マヤリィは不敵に微笑む。

「答える気になるまで、いくらでもやりようはあるわ。…ねぇ、知っているかしら。先ほど貴方を戦闘不能にしたネクロは超一流の黒魔術師よ。そして、もう一人の美女は魅惑の死神という異名を持つ、雷系統魔術の天才。それと…私もいくらか魔術を使えるのだけれど、貴方はどんな拷問がお好み?」

勿論、拷問などするつもりはない。

ジェイからアドバイスを受けたのだ。

「姫、相手が素直に話さない場合は、殺気を放ちながら脅しをかけるんです。貴女の魔力圧なら、確実に口を割ります。…あと、その際は余裕の微笑みを見せ付けてやりましょう」

(ジェイ…私、うまく演れているかしら…)

言われた通り、姫は微笑みながら凄まじい殺気を放ち続けている。その場に居合わせた配下達ですら恐怖を感じている。

(マヤリィ様、怖ぇ…!だが、かっけぇ)

(そこにいるのがミノリじゃなくてよかった…!)

(既にこれは拷問と呼ぶべきですな)

三人は大人しく会話を見守る。

「さぁ、答えなさい」

「こ、答えます!正直に言います!だから…拷問は勘弁して下さい!!」

最初の勢いはどこへやら、マンスは涙ながらに頭を下げる。

「話が早くて助かるわ。…さて、もう一度聞くけれど、貴方の国はどこ?」

「こ、国境より西の方角に50km、『桜色の都』という国がございます。私はその国に仕える黒魔術師の一人です。国王陛下は雪色の白魔術師と呼ばれるツキヨ様にございます」

マンスは拷問が怖いのか命が惜しいのか、聞いていないことまで教えてくれる。マヤリィは相手に気付かれないように『鑑定』を使い、その都度、彼の話の真偽を確かめている。今のところ、全て事実らしい。

今の話で一つ気になったことがある。

「雪色の白魔術師と呼ばれているとは…どんな御方なのかしら?」

知らない間に定着した『宙色の大魔術師』という自身の異名。なんとなく、それに呼応するような響きがある。

「我が国の国王であらせられるツキヨ様は、攻撃魔法の適性を持たぬ代わりに、回復魔法を極めた御方にございます。そもそも、桜色の都の人間は魔力値の低い者ばかりで、攻撃魔法を使える魔術師も少ないのです。私の配下のゴーレム達は危険な国境線に人間を配置することを躊躇われた国王陛下の命により作り出された兵士にございます」

「…そう。貴方の国王陛下は優しい御方なのね」

話を聞く限り、ツキヨという人物はとても慈悲深い人間のようだ。

「もしや、貴女方は国境線に配置された兵士がゴーレムであることを見抜いておられたのですか?」

突然、マンスが言う。

「その通りよ。ネクロが事前に『魔力探知』をしてくれたお陰で、倒れても復活することの出来るゴーレムが大多数であると分かったの。私達の目的は、最初から彼等の指揮官と穏便に話をすることだったのよ」

「で、では、私を拷問にかけるつもりはなかったということですか…?」

「そういうことになるわね」

「なんと…!」

マンスは急に力が抜けた。

「当初の調査では、魔力を持った人間の兵士が常在していると仮定していました。その段階では、ご主人様は国境線に行くことを躊躇っておられました」

ミノリが静かな口調でマンスに語りかける。

「しかし、我等の目的は『桜色の都』と国交を開くこと。まずは関所の指揮官である人間と接触し、話し合いが出来ない場合には、殺さずにこの城へ連れてくるという命が下されました」

「氷像になる体験はいかがでございましたかな?『拘束』も然り、私は全くダメージを与えていなかったのですが」

マンスは頭が混乱してきた。

ゴーレム達を無力化し、自分を圧倒してこの城へ連れてきた者達の思わぬ慈悲深さに困惑し、同時に感銘を受けていた。

「ところで、正当な理由があれば関所を通してくれると言っていましたな?」

ネクロが戦闘の際の会話を思い出して言う。

「それはそれは」

マヤリィは嬉しそうに微笑んで、

「その話も詳しく聞かせてもらえるかしら」

再び圧をかける。

「はっ!なんでも答えます!」

マンスは素直に頷いた。


「貴女方が目指しておられるのは…そういうことでしたか」

「ええ。西の森で薬草採取も試みたけれど失敗に終わったし、正直なところ困っていたのよ。でも、私達は幸運だったようね。貴方の国王陛下が白魔術の権威だなんて」

第4会議室には結界が張られている。

まだルーリもネクロもミノリも本気でマンスのことを信じたわけではないが、

「畏れながら、流転の國の主様」

マンスの方は完全に戦意喪失していた。言葉遣いもだんだん丁寧になっていく。

「薬草を求めるということは、貴女様の國に何をもってしても癒せぬ病を持つ人間がいるということでしょうか?」

「ええ。私の知る限り、その病を克服した者は聞いたことがないわ。けれど……」

「つまりは、貴女様の大切な御方なのですね。…貴女様がこの國の主様であると伺いましたが、さらに高位の御方がいらっしゃるのですか?」

「っ…」

ここで流転の國の主本人が病気だとは言いづらい。

「いえ、ご主人様こそがこの國の最高権力者であり、我等が命を賭して守るべき御方です」

マヤリィの代わりにミノリが答える。

その間にマヤリィは言い訳を考える。

「えっと…こちらにも色々と事情があるので詳しくは教えられないわ。でも、私の大切な人であることは間違いないわね。身分は違うけれど、私の愛する人であることには変わりない。だから、生きていて欲しいのよ…」

そう言いながらマヤリィは頬を染め、初めて優しげな表情になる。

言い訳にもほどがある。

しかし、それを目にした三人は思わず息を呑む。

(ご主人様、これは名演技ですな…!)

ネクロは主が必死で言い訳を考えていたとも思わず、素直に感激していた。

流転の國の最高権力者であり、とてつもなく強大な魔力を秘めた超ヤバくて怖い人が突如見せた女の顔…。

マンスも一瞬、心が揺れる。

よく見たらこの人、めっちゃ美人じゃん。

(やっぱマヤリィ様は怖ぇ。でもかっけぇ)

ルーリは語彙力崩壊中。

(今、誰を思い浮かべたの!?ご主人様!!)

ミノリは心穏やかではないが、平静を装っている。本当に主が誰かを想っているかのように見えたのだ。まぁ、間違ってはいない。

「胸中、お察し致します。そのような事情であれば、可及的速やかに国王陛下にご相談申し上げ、その御方をお救い出来るよう、お力添えをさせて頂きたく存じます」

「それは有り難いわ。もしそれを実現してもらえるなら、流転の國は貴方達の国の守護者となることを約束しましょう。ここには攻撃魔法を得意とする者達が多く存在するので、有事の際には必ず貴方達の国を守ります。そのように国王陛下に伝えて頂戴」

「畏まりました、流転の國の主様」

マンスが跪き、頭を下げる。

「ところで、貴方は『転移』を使える?」

「てんい…?」

「…まぁ、知らなくても構わないわ。これから、瞬間移動の魔術を使って貴方を国へ帰します。…ミノリ、流転の國の使者として、この者と一緒に桜色の都へ行ってきて頂戴」

「はっ。畏まりました、ご主人様」

ミノリは跪き、頭を下げる。

流転の國の使者という大役を任されたことに内心大喜びしている。

「それと…これを着て行きなさい」

マヤリィが指を鳴らす。

次の瞬間、ミノリはメイド服ではなくスーツを着ていた。正式訪問ではないが、こういう場合はスーツだろう。

「ご主人様、このお洋服は…」

ミノリに聞かれて、マヤリィは咄嗟に答える。

「この國の正装よ」

マヤリィの言葉を少し離れた所で聞いていたルーリとネクロは興味深くミノリを見る。

「…ってことは、マヤリィ様はいつも正装でいらっしゃるのか」

「私もあの服を着てみたいものですな」

ネクロが羨ましそうに見る。

「今度、衣装部屋で探してみるか」

「はい。その際はぜひご一緒させて下され」

今回の作戦のお陰か、すっかり仲良くなったルーリとネクロ。

「では、ミノリ。任せたわよ」

「はっ。必ずや桜色の都と良い関係を築いて戻って参ります。お任せ下さいませ」

「期待しているわ」

そう言うと、マヤリィは魔法陣を展開する。

「行って参ります、ご主人様」

ミノリが頭を下げる。

美しい魔法陣にマンスが見とれている間に、マヤリィは『長距離転移』魔術を発動する。


次の瞬間、ミノリとマンスは桜色の都の王宮の中に立っていた。

マンスは辺りを見回しながら言う。

「この奥が国王陛下のいらっしゃる玉座の間でございます。どなたかに取り次いでもらいますので、少々お待ち下さいませ」

しかし、そこで呼び止められた。

「国境線の黒魔術師よ、事前の許可なく王宮に入り込むとはいかがした?」

そこに立っていたのは、ひと目で黒魔術師と分かる杖を手にした長い髪の女だった。

マンスよりもかなり背が高く、魔術師としての位も高いようだ。彼女を説得しなければ国王に取り次いでもらうことは不可能だろう。マンスは怯んだが、

「桜色の都の黒魔術師殿、お初にお目にかかります。私は流転の國よりの使者、ミノリと申します」

ミノリは毅然とした態度で名乗った。

「流転の國…と言いましたか?」

「本日はご無礼を承知で王宮に直接『転移』させて頂きました。強引な手段を用いまして申し訳ございません。されど、そちら様にも不都合なお話ではありませぬゆえ、何卒お許し願いたく存じます」

「転移…それを使えると言うのですか?」

彼女はやはりマンスよりも高位の魔術師らしい。 『転移』が何かを知っている。

「この者を懐柔したとは、一体どんな手を使ったと言うのですか?何を目的としてこの王宮に乗り込んできたのですか!?」

しかし、少々冷静さに欠ける。彼女は今にも黒魔術の詠唱を始めそうだ。

「…はぁ、言語は同じなのに話が通じないというのは困りますね」

ミノリはため息をつくと、魔術を発動する。

「『記憶の記録』発動。我が主とそこなる者の記憶を辿り、その記録を読み解くが良い」

魔法陣とともに書物の幻が表れ、魔術師の動きが止まる。

「すぐに終わりますから、安心なさい」

心配そうに見ているマンスにミノリが優しく話しかける。

『記憶の記録』は書物の魔術師の得意分野。

「…ご主人様。こうなることが分かっていて私を使者に選んで下さったのですね」

ミノリは小さな声でそっと呟いた。

前半戦:マヤリィ様の必死の名演技

後半戦:書物の魔術師ミノリの活躍劇


今回初登場の「長い髪の黒魔術師」は桜色の都編のキーパーソンです。

近々、容姿は変わりますけれども。

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