第十四話 彼女の素顔
ルーリが戦闘服を用意していない理由。
①マジックアイテムを身に付けていることで既に戦闘服と同等の防御力を得ている。
②魅惑魔法の使い手なので、それっぽい服装が一番動きやすい。
彼女は常にパンプスを履いているので、最悪の場合ピンヒールで人を殺しそうな気もする…。
数日後、国境線付近。
「確かにゴーレムならこの程度だな」
雷を纏って次々にゴーレムを無力化しているのは『流転の閃光』をその身に宿すルーリ。
「魅惑魔法の出番はございませんでしたな」
余裕のある声音でネクロが言う。
「ゴーレム相手に『魅惑』をかけてどうするんだよ?逆に怖ぇよ」
そう言ってルーリが笑う。
女神のように美しい見た目に反してこういう喋り方をするのはいつものことだ。
そんな彼女の今日の衣装は薄紅色のミニドレス。ハイヒールは10cm。
喋り方に反して優美な立ち居振る舞いをするのもいつものことだ。
「結局、私の出番もございませんでしたな」
ネクロはそう言いつつ安堵する。
『隠遁』のローブのせいで相変わらず中は見えない。
当初言っていた通り、国境線の兵士=ゴーレムを一掃=無力化する役目はルーリとネクロに与えられた。
ルーリは「たとえ他所の国の者であろうと人の命を軽く扱わないように」との主の命令を忠実に守ろうと心がけていた。
「…で、肝心の指揮官はどこにいるんだ?」
二人はしばらく関所を探して歩いていた。
そこへ突然、ゴーレムとは違う強い魔力が物凄いスピードで近付いてくるのを感じる。
「黒魔術師か!?」
ルーリが構えを取る。
闇の中からそいつは現れた。
「指揮官のお出ましにございますな」
ネクロも警戒して距離を取る。
「俺の配下達を倒してくれるとは、貴様らは何者だ?そう簡単に国境線を越えられると思うなよ?」
闇に紛れて顔は見えない。
しかし、声はうるさい。
「何とか言いやがれっ!」
相手は鎌を取り出し、ネクロを攻撃する。
ネクロは容易にそれを避けると、青い靄の杖から『悪神の化身』に持ち替える。
「俺の名はマンス。都を守る黒魔術師だ。正当な理由なくここを通すわけにはいかない」
「私はネクロと申します。正当な理由はございますが、一刻を争いますゆえ、早急にこちらを突破させて頂きます…!」
律儀にも二人は名乗り合い、武器を構える。
(この者は捕らえる必要がございますな)
「どうやら、貴様らを捕らえて尋問するしか方法はなさそうだ」
敵も同じことを考えていて、
「『宵闇』発動」
突然、辺りが真の闇に包まれる。
「『雷光』!」
ルーリが素早く魔法を放つ。
が、一瞬遅かったらしい。
魔術を発動する前に、真正面からマンスの鎌を食らったネクロ。
『隠遁』のローブが切り裂かれる。
「相手が悪かったな、三流黒魔術師。せっかくだから顔を見せてもらおうか」
相手はもう勝った気でいる。しかし、
「『氷塊』発動」
ネクロは平然と氷系統魔術を発動する。マンスの身体が凍り付く。
「『悪神の化身』よ、死の鎖を繋ぎ合わせ敵を『拘束』せよ」
ネクロの持つマジックアイテムによって、氷像にされ、鎖に拘束されたマンス。
これで、ようやく大人しくなった。
「ネクロ、大丈夫か?」
いつでも雷魔法を連続発動する体勢でいたルーリは、敵が動かなくなったのを見てネクロに近寄った。
「っ!?お前…い、いえっ、貴女様は…」
「防御力にも長けた隠遁のローブが切り裂かれるとは、予想以上に鋭い鎌だったようですな。ルーリ殿、心配をおかけして申し訳ない」
「ネクロ…なのか?」
ルーリが驚くのも無理はない。ネクロの素顔はご主人様そっくり。
「ああ〜」
ネクロは頭を抱えるが、見られてしまっては仕方がない。
「ついにバレてしまいましたか…。ルーリ殿、私は正真正銘ネクロにございます。畏れ多くもご主人様と似た姿で顕現してしまいました」
「そうか…。何にせよ、お前が無事でよかった」
隠遁のローブのお陰でネクロの身体は無傷だった。
「しかし、本当によく似てる…」
「ルーリ殿!?」
急にネクロを抱きしめるルーリ。
「こんなに似てるなんて…信じられません!マヤリィ様がここにいらっしゃるみたい…。いえ、本当はマヤリィ様なのではないですか?そうですよね!?ああ、マヤリィ様…!どうか私に次のご命令を下さいませ…!」
「ルーリ殿!ミノリ殿みたいなことをしないで下さい!!」
「マヤリィ様、今宵はぜひ、このルーリのお部屋に…!」
魅惑魔法の発動を告げるピンク色の風が吹いてくる。ネクロは焦る。
当然『魅惑』耐性など持ち合わせていない。
「わ、我等の次なる任務はこの者を城へ連れ帰り情報を引き出すことですぞ…!」
「マヤリィ様ぁ…!」
二人がこうして話している間ずっと、氷像と化したマンスは鎖に拘束されたまま意識を失っていたが、傷一つ付いていなかった。
「よーく聞いて下され。顔は似ておりますが、声が違いますぞ!ほら、聞いて下され!」
「…声、ですか…?」
「ご主人様は澄んだ高い声をしていらっしゃいます。ルーリ殿、お忘れになられましたか?ご主人様のあの優しく可愛らしいお声を。…忘れたとは言わせませんぞ」
ネクロに詰め寄られ、ルーリは正気に戻る。
「た、確かに…ネクロの声は…低いな…」
「はぁ…危うく本当に魅惑魔法をかけられるところでした」
ネクロは別の意味で疲れたが、気を取り直してマンスを引っ掴む。
「これで、ゴーレムを含め、国境周辺の敵は全て無力化しましたな」
「ああ。では、こいつを連れて帰還しよう」
ルーリは主から持たされた宝玉を取り出し、
「流転の國、主の御前へ」
マヤリィの待つ玉座の間へと帰還したのだった。
「二人とも、ご苦労。怪我はない?」
「はっ。ローブのお陰で、身体を切り裂かれずに済みました」
「そ、それで…図らずもネクロの素顔を見てしまいました。申し訳ございません、マヤリィ様」
ルーリとネクロは主の御前に跪く。
「見てしまったのなら仕方ないわね。けれど、このことは他言無用よ」
そう言いながら、マヤリィはネクロに新しい隠遁のローブを差し出す。
「…それで、その者は人間ね?」
「はっ。ゴーレムを全て倒した後、関所を探している時に現れました。マンスと名乗る黒魔術師です」
彼はまだ凍ったまま拘束されている。
「都を守ると申しておりました。やはり、国境線のゴーレム達の司令塔のようです」
「少々荒っぽい手を使えば、たやすく情報を引き出すことが出来そうですが、いかがなさいますか?」
マヤリィは二人が無事であったことに安堵しつつ、マンスをどのように扱えば良いのか分からない。
「弱いとはいえ、黒魔術師の端くれ。迂闊に術を解けば何をしてくるか分かりませぬ」
ネクロが言う。確かに『宵闇』は単純ながら厄介な魔術だった。
「第4会議室に結界を張りましょう。そこで術を解き、私が直接話をする。二人は後ろに控えていて頂戴。あと、ミノリも呼ぶわ」
「はっ!畏まりました、ご主人様」
第4会議室は、主でさえ入ったことのない部屋だった。
…なんでそこを選んだの?
ご主人様とネクロの見分け方
①話し方が違う
②声が違う(マヤリィは澄んだ高い声、ネクロの声は低め)
③髪色が違う(マヤリィは金髪に染めている、ネクロは藍色の髪)
ルーリもだけど、ご主人様も見た目と喋り方が一致していない人なのではないかと思う。
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