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流転の國 vol.1 〜突如として世界を統べる大魔術師になった主人公と、忠実で最強な配下達の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第十三話 魔力探知

国境を越え、未知の国と交流する為、計画は進む。

…が。

とにかく、殺戮はいけないわ!


って、なかなか配下達に言えないご主人様…。

皆、余所者に対しては好戦的なのです。

「ご主人様、此度は本当に申し訳ございませんでした」

ジェイの謹慎期間が明けたその日、マヤリィは会議を開いた。

「それでは、各自、調査結果を報告しなさい」

「ミノリ、発言致します」

ミノリが真っ先に発言した。

「まず、この世界には言語は一つしか存在しないということが分かりました。そして、こちらは書庫にある中で一番新しい歴史書にございます。この歴史書には、国境線に多数の兵士が常駐しているとの記述がございます。しかし、その者達がどのような命令を受けているかどうかは不明です。最悪の場合、こちらが近付いただけで攻撃してくる可能性もあるでしょう」

ミノリがその歴史書を皆にも見えるように掲げる。

国境線に多数の兵士。もし一方的に攻撃されたら、話し合いどころではない。

「話が出来ると良いのだけれど、そうでなければかなり厄介なことになりそうね。…他には?」

「ネクロ、発言致します」

相変わらず『隠遁』のローブに身を包んだネクロが発言する。

「その国境線を『魔力探知』で探っておりましたが、やはり多数の魔力を感知致しましてございます。個々の魔力は低いようですが、時折やや強い魔力値を感じるのが気になっております」

「兵士達の指揮官が動いているのかもしれないわね。…それにしても、ネクロ。『魔力探知』は素晴らしい魔術だわ」

「勿体ないお言葉にございます、ご主人様」

ネクロが頭を下げる。

二人の話を聞いて、マヤリィは考える。

国境線に多数の兵士がいて、さらに話し合いが困難な場合、戦闘は避けられないのだろうか…。

圧倒的に情報不足な中で他の国家と関わるのは予想以上に大変そうだ。

「国境線で敵に遭遇した場合、我々は一体どうするべきなのか、それを具体的に決めておく必要がありますね」

ジェイが言う。

「敵ならば、捕らえて情報を引き出す必要があるのではございませんか…?」

ランジュが言う。

「しかし、国境線に配置された兵士となると、大した情報を持っていないことも考えられます。それに、人数が多ければ捕らえるのも難しくなります」

ユキが言う。

「こちらの存在を知った者を逃せば後々その国から攻め込まれることにも繋がるでしょう。…ネクロ様、おおよその敵の人数は分かりますでしょうか?」

シロマが言う。既に国境線の兵士=敵という認識になっている。

「全勢力は未知数でございますが、魔力値の低い兵士が多数であると仮定すれば、数十人が国境線に配置されていると思われます」

ネクロが言う。

「畏れながら、ご主人様。我々の目的はあくまで『桜色の都』にございます。国境線の兵士達を一掃した後、力を誇示しつつ直接王都に向かうのが一番の近道かと存じますが、いかがでしょうか?」

ルーリが言う。

「それは、国境にいる兵士全員を問答無用で殺し、強引に王都に入り込むということ?」

マヤリィが聞く。

「はい。幾度も魔術訓練を行っておりますが、我々は非常に強い魔力を持っていると考えられます。それもそのはず、水晶球が言ったようにご主人様は『宙色の大魔術師』と呼ばれる絶対的な魔力の持ち主なのですから、その配下である我々も貴女様に仕えるに相応しい魔力を授けられているのです。その力を使えば、誰一人傷付くことなく、王都まで辿り着けるでしょう」

ルーリが言う。

「確かに、ミノリ達の魔力は強大です。しかし、その力を使う前に、桜色の都においてそれなりの身分を持っている者と話が出来れば良いのですが…。もしそれが叶わない場合には、力に頼らざるを得ないと存じます」

ミノリが言う。

「では、皆に聞きたい。話し合いが不可能だった場合、国境線に配置されている見知らぬ兵士達をどう扱おうと言うの?」

主が皆に問う。

「はっ。必要とあらば、魔力値の低い数十人の兵士など私一人で殺めて参りましょう。私の魔力をもってすれば一人も逃がすことなく葬り去ることが可能だと自負しております。そして、指揮官を見つけ次第、そやつを服従させ、王都に案内させます。…ご主人様、どうかご命令下さいませ。すぐにでも実行致します」

ルーリが間を置かずに答える。残酷な言葉を平然と並べているが、その目は本気だった。

「た、単独行動は許さないわ…!」

殺戮者の顔を見せたルーリに主は戸惑う。ご主人様をはじめ、この城にいる人間が特別なだけで、他所の国の兵士の命など取るに足りないものと考えているようだ。

「では、私がご一緒させて頂きましょう。ルーリ殿と私の魔力があれば、国境を越えた先の先まで我等の國となるでしょう」

(どこまで武力行使するつもりなのよ…)

マヤリィは頭を抱え、今の話を整理しようとした。

「本当に、その道しかないのかしら…」

(このままでは、本当に今言われた通りの命令をしなければならなくなってしまう…)

主は呼吸が苦しくなってきたのを感じる。一度、会議をリセットしなければ。

「貴女達の意見はよく分かったわ。もう少しだけ私に考える時間を頂戴。今回の計画の詳細については追って連絡する」

「はっ!」

「では、これにて本日の会議は終了よ。…皆、下がりなさい」

やっとのことで解散を告げる。

玉座の間に一人残った主は深いため息をつくのだった。


(確かに、ルーリもネクロも強い。もし私が彼女達の敵だとしたら、凄まじい魔術を食らって、さぞかし悲惨な最期を遂げるでしょうね…。今の私には『桜色の都』がどんな国家なのか、どんな民族がいるのかさえ分からないけれど、もし私と何も変わらない普通の人間が暮らしているとしたら…)

考えるだけで恐ろしい。

(なぜ私はこの國に顕現して、なぜこんなにも強い者達の主人になってしまったのかしら。…って、今はそれを考えている場合ではないわね。とにかく、殺戮はいけないわ。なんとか代替案を提示しないと…!)

マヤリィが玉座に座ったまま考え込んでいると、外から声がした。

「ご主人様、こちらにいらっしゃいますでしょうか?ネクロにございます」

「ネクロ?…いいわよ、入りなさい」

「はっ。失礼致します。…実は、ご主人様に至急お伝えしたいことがございまして参りました」

ネクロが主の前に跪く。

「何かあったの?」

「はっ。例の数十人の兵士の正体が分かりました。あれは…人間ではありません」

「人間ではない…?」

ネクロが頷く。

「我等は国境線を見張る人間の兵士が存在すると仮定して話を進めて参りましたが、あの場所に存在するのは人間ではありません。黒魔術師の指揮下で動いているゴーレムのようです」

「ゴーレム…」

ならば、魔力値が低いのも当然か。

ネクロは話を続ける。

「畏れながら、ご主人様は殺戮を躊躇っておられるようにお見受け致します。しかし、ゴーレムとなれば話は別。彼等は何度でも復活することが出来、なおかつ見逃したところで我が國の情報が漏れる心配もございません。何より、人間を傷付けずに済みます」

「そうか、ゴーレムは…復活が可能なのね…」

主は安堵すると同時に、ため息をついた。

「はい。簡単な魔術を用いて無力化するだけで、彼等はしばらくの間動かなくなるでしょう」

「無力化…ね。優しいのね、私の黒魔術師さん」

「とんでもございません。誰よりもお優しいお心をお持ちでいらっしゃるのはご主人様にございます。…それにしても、ルーリ殿はいささか過激にございますな」

「ええ。私も忘れかけていたけれど、彼女は『魅惑の死神』と呼ばれるサキュバスであり、雷魔術を自在に操る殺戮者という一面を持っている天性の悪魔。そう考えれば、先ほどの発言も不思議ではないわね」

「『魅惑の死神』でございますか…。なんともルーリ殿に相応しい二つ名ですな」

ネクロはそう言うと、主を真っ直ぐ見る。

「畏れながら、ご主人様。私の勝手なる発言をお許し下さいませ。…此度の計画を実行する前に、皆に命じることを進言致します。「正当防衛でない限り、人を傷付けてはならない」と…。シロマ殿でさえ他所の者に対しては殺害も厭わぬ口振りにございましたゆえ」

「ネクロ…」

彼女は主の優しさを理解していた。

会議がどんどん物騒な方向へ傾いていく中、苦慮する主の心の内を見抜いていた。

「ご主人様、私も先ほどは残酷な提案をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。まずは穏便にあの国境線に近付き、その先に何があるのかを見極めることが重要かと存じます」

ネクロは跪いたまま、深く頭を下げた。

「よく言ってくれたわ、ネクロ。貴女の言葉は然と受け取りました。やはり、皆には流転の國の者だけではなく、この世界に生きる全ての命を軽く扱わないよう伝えておかなければいけないわね。それと、貴女の『魔力探知』のお陰で、この計画を順調に進められそうよ。ありがとう、私の黒魔術師さん」

「勿体ないお言葉にございます、ご主人様。…それにしても、その呼び方はおやめ下され。…照れますゆえ」

『隠遁』のローブの下で、ネクロは真っ赤になっていた。

嬉しいけれど、他の者の前でそう呼ばれたらどうしよう。ミノリが怖い。

「ふふ、照れている貴女も可愛いわね。…ネクロ、今日は本当にご苦労だったわ」

「はっ!有り難きお言葉、謹んで頂戴致します、私の…愛するご主人様」

ネクロにそう呼ばれて、マヤリィは一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうな微笑みを浮かべるのだった。

ネクロもご主人様を愛しているのか!?

いえ、敬愛という意味だと思います…。


次回、最恐の二人が国境線に向かいます。


お読み下さり、感謝申し上げます!

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