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【十二】豪運の種類

 その夜。夜ご飯を食べながら、小町の頭も借りることにした。三人寄れないけど、二人でもそれなりの知恵になるはず。


「試しに薬袋と戦ってもらったんだけど、それでもだめだった。花札で圧勝したんだよ、あの薬袋に」


 小町のお箸が止まる。


「そんなの、いくら挑んでも勝てないんじゃない?」

「そう、それが今日得た結論」

「じゃあ無理じゃん」

「そう簡単に諦めないでよ。言ったでしょ、この件の先には八咫鏡があるんだって」


 八咫鏡という言葉が出たから、私は一粒万倍の裏闘技への参加を試みた。参加方法を知っている人は、違法だと分かっているから話そうとはしない。唯一話してくれそうだった鍛冶屋のお客は不審死。残った希望が、神酒に勝って教えてもらう事だ。


「その神酒っていう人、そもそも教えるつもり無いんでしょ?」

「多分ね。でも、約束は守ってくれる人だよ」


 そうでなきゃ、甘味処で会う約束を守るはずがない。


「神酒さん以外に、方法は無いの?」

「う~ん、望み薄かな」


 それはさっきも話したような、裏闘技の違法性が原因だ。裏闘技について話してくれる別人を探す方が早いか、神酒に勝つ方が早いか。……どっちも絶望的だね。


「小町ならどうする? 勝たなきゃいけない相手が圧倒的な運を持ってたら、何でどう戦う?」

「そんなこと言われてもね……斬り合いとか?」

「……却下」

「だよね」


 友情崩壊待った無し。それに、神酒は恩人でもあるから、斬るなんて事はできない。私の良心というか道徳心が許さない。


「豪運か……。あたしさ、()()()()()()()()()ってふと思ったんだけど」

「種類?」

「そう」


 食器を置いた小町。


「振りかざす豪運と、降ってくる豪運の二種類ね」

「……と、仰いますと?」

「例えば、何時如何なる時も自分の望み通りに事が進む豪運。これはあたしの言う、振りかざす豪運ね」


 なるほど。要するに、自らの意思で好き勝手に使いこなせる運って事か。刀だか棒だか知らないけど、振りかざすって表現は確かに合致するかも。


「逆に、振りかざせない豪運。それが、降ってくる豪運ね」

「それ、どういうこと?」


 理解が追い付かず、首を傾げて聞いてみる。小町は「う~ん」と少し考え、数秒ほどで例えを思いついた様子。


「例えば、()()とか()()っているでしょ? 何時何処に行っても雨に降られる人」

「うん」

「人にもよると思うけど、そういう人たちって、別に雨に降られたいわけじゃないじゃん? それでも、傍から見たらどこでも雨が降るなんて、()()()()()()()()と思わない?」


 ここで小町が言う()()()()っていうのは、その現象の良し悪しは別として、高頻度で確率が低い出来事に遭遇するって意味だろうと思う。一日に何回も鳥の糞が頭に落ちてくるとか、そういうのね。


「それの極端な形が、降ってくる豪運。つまり、結果の方からやって来る……う~ん、ごめん。自分で言っておいて分からなくなってきたかも」


 自信無さげに食事を再開する小町。いや、今の理屈は結構いい話かもしれない。


「つまり、振りかざす豪運は望んで得る豪運、降ってくる豪運は望む望まざるに関係なく得る運……ってこと?」

「そう、それが言いたかった。思考読まれてるみたいで不気味だよ、桜華」

「酷っ! 以心伝心だね、とかでいいじゃん!」


 果たして、神酒はどっちなんだろう。振りかざしているのか、降られているのか。前者なら神酒の心を変えないといけない。後者なら、どうにかして傘をさしてあげないといけない。


「どちらにせよ」


 そう言い、小町は空になったお茶碗を置いた。


「向こうが勝ちをもぎ取っていっちゃうんだけどね。相手より先に、雨の降る場所に突っ込まない限り」


 結局、神酒に勝つ方法は思いつかなかった。とりあえず今日は寝よう。次の対戦は明後日だ。あと一日、考える猶予がある。


 翌日、新情報が無いか鍛冶屋に向かった。何かあれば、神酒に勝たなくて済むかもしれない。そう期待しての訪問だ。


「いや、あれ以来新しい情報はないぜ。そもそも、賭場の情報をもってる奴自体が貴重って感じだ」

「そう、分かった。じゃあまた——」


 鴨脚に手を振って背を向け、収穫無しで鍛冶屋を去ろうとした時のこと。門の方から下品な声がした。


「や~い鴨脚!」

「最強の刀~ありますか~? ぎゃははは!」


 彼を罵る言葉が、鍛冶屋どころかその周囲に響く。


「はあ。あの酔っ払い共、また来てやがる」

「未だに言ってくるんだ。熱心で結構だね」

「ああ、執拗くてかなわん。ま、放っときゃいいさ」


 腰に手を当て、呆れたように言う鴨脚。私はちょっと、意外だなと思った。


「言い返しに行かないの?」


 少し前の彼なら、間違いなくそうしていたはず。


「行かねえよ。ああいうのは無視が一番効くんだ。それに、構ってやる時間があったら俺は刀を打つ。そうすりゃ鍛冶屋の実績になるし、鍛冶屋としての腕も磨かれるだろ?」

「悔しくはないわけ?」

「あ? そりゃ悔しいさ」


 今度は腕を組み、堂々とした態度になる鴨脚。


「悔しいからこそ、実績と腕で見返してやろうってんだ」

「……へえ。なんか、大人になったね。まるで年上と話してるみたい」

「お前が生意気なだけで、実際俺が一つ年上だからな!」


 てへ、そう言えばそうだった。


「とにかく、くだらないことに使ってやる時間は、鍛冶屋にも俺個人にもにもない。俺に罵詈雑言を浴びせて勝った気でいるなら、勝たせてやるよ。まあ実質俺の勝ちになるわけだが……まあなんだ、負けて勝てってことさ」

「……っ! ちょっと待って、今なんて言った?」


 鴨脚の言葉の中に、気になる部分があった。私が必死に聞くのを見て、彼は不思議そうな顔をする。


「今? 実際俺が一つ年上だからなって言ったが」

「いや戻り過ぎ。負けて勝つって、そう言ったよね?」

「ああ、言ったぜ。一見負けだが、実質勝ち。そういう意味でな」

「それだ、それだよ!」


 一人で盛り上がる私を、鴨脚は冷ややかな目で見てくる。いいもんね。最高の作戦を思いついてしまった今の私はの興は、それしきのことでは削げないんだから。


「なにが?」

「おかげで八咫鏡に近付けるかも。あんがと鴨脚、あんがと酔っ払い!」


 高揚した私は、碌に挨拶もせず鍛冶屋を飛び出した。待ってなよ、神酒。今度こそ、今度こそ絶対に私が勝つから……!

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