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【八】怪異探しの助っ人

◇◇薬袋◇◇


 桜華ちゃんが店を出てしばらく経った。


「いやあ、見てないね」

「そうですか。ごめんなさい、変なことを聞いて」


 薬を買いに来た商人さんは、謎の人影について何も知らなかった。ううん、彼だけじゃない。


「う~ん、分からんなぁ」


 常連のおじいさんも。


「分かんな~い」


 その手の話題を、どこからともなく仕入れていそうな子供も。


「んにゃあ?」


 店に迷い込んだ猫ちゃんも。誰もかれも、七人を見た人は居ない。薬の売れ行きはいいけど、それとは対照的に、情報は皆無だった。全く何も得られないまま、もうすぐ閉店の時間になる。少しは桜華ちゃんの役に立ちたかったんだけど、そう簡単にはいかないか……。そう諦めかけた時、一人のお客さんが来店。女の人だ。


「ども~。まだやってる?」

「はい、大丈夫ですよ」


 その人は着物を意図的に着崩しながらも、同時にびしっとした印象もある不思議な人だった。あれ? この人まさか……と、その着物を見て私は思った。


「あの、違ったらごめんなさい。防人の不知火(しらぬい)さん、ですよね?」

「そうだけど? 何、防人限定の割引でもあるの?」

「い、いえ、それは……。えっと、どの薬をご所望ですか?」


 割引は無いという私の言葉に、不知火さんは少し残念そうな顔をした。防人ってそんなに予算無いの……?


「傷薬ある? 刃物で斬っちゃった傷に効くやつ」

「ございますよ。五箱まででしたら、すぐにご用意可能です」

「いやそんなに要らない。一瓶でいいよ、防人としての御遣いじゃないから」


 よく考えたら、西部司令の不知火さんが防人の御遣いで来るわけないか……。人影の事で頭がいっぱいになってたのかな。そう反省しながら、彼女に紫雲膏(しうんこう)を勧めた。特にこだわりが無いようで、彼女はすぐに勘定を済ませた。


「ありがとね」


 お礼を言ってくれた不知火さんに頭を下げた。彼女は戸に手をかけ、最後に振り向いて言う。


「最近どう? あの火事以降、不審なことは無い? もし何かあったらウチが相談に乗るけど」

「町は——あっ!」


 いいことを思いつき、自分でも驚くくらいの速さで不知火さんの元へ。


「な、なに?!」


 そして彼女の両手を握り、必死に訴える。


「あります! ありますよ、不審なこと!」

「ちょ、いったん落ち着いてよ。そんなに慌てなくても、話くらい聞くから」

「あっ、ご、ごめんなさい……」


 つい興奮してしまった。


「で、不審なことって?」

「実は最近、友達から妙な話を聞いたんです」


 小町ちゃんが見たっていう、七つの人影について不知火さんに話した。彼女は胸の前で腕を組み、唸る。


「人影ねえ。確かに不審だけど、そんな通報なかったしなぁ……」

「それで今、桜華ちゃ——それを教えてくれた友達が、人影の正体を探りに」

「ちょっと待って」


 不意に、不知火さんが私の言葉を遮った。彼女は目を丸くしていて、人影についての話よりも興味がある感じがする。


「今、何て?」

「え? 友達が人影の正体を」

「違う、その前! 友達の名前」

「名前? 桜華ちゃん、ですけど」


 口を滑らせて言った名前を改めて言うと、不知火さんは大きく溜息を吐いた。


「それって、桜色の髪の女?」

「はい」

「はあ……。またあいつかよ……」

「え? 不知火さん、桜華ちゃんをご存知なんですか?」

「知ってるも何も……まあいいや。で、その桜華が人影を調べに行ったの? 小町、だっけ? いつもの連れも一緒?」

「いえ、小町ちゃんは熱を出しているらしいので、桜華ちゃん一人です」


 不知火さんは額に手を当て、頭が痛いといった様子だった。まさか桜華ちゃんと不知火さんが知り合いだったなんて、吃驚。でも桜華ちゃん、防人は信用してないって話してた気がするけど……。まあ仕方ない、こうなったら頼れるのは不知火さんだけだ。


「それで不知火さん。その人影なんですけど、今から私と一緒に探しに行ってくれませんか?」

「え、今から?」

「はい。桜華ちゃんが一人で行ってるので、私心配なんです」


 お願いすると、不知火さんは露骨に嫌そうな顔をした。司令として多忙なんだろうってことは容易に想像できる。だけどここで引き下がったら、もう好機は無いかもしれない。それにこの西部で、不知火さん以上に強力な助っ人は居ないだろうし。


「お願い、できませんか?」

「……はあ」


 彼女は今度も溜息を一つ。私は私で、手汗がびっしょりだ。


「分かった」

「いいんですか?」

「うん。あのガキ、一発平手打ちしてやりたいからさ」

「あ、あはは……」


 二人の間に何があったのか私は知らないけど、一般人に平手打ちは防人として良くないんじゃいかな……。


「桜華が何処に向かったかは分かるの?」

「はい、大体は」

「あっそ。でも、あんまり遅くまでは駄目だかんね」

「はい!」


 不知火さんに執拗いくらいお礼を言い、準備をして店を出た。閉店までちょっとあったけど、残りはお母さんが代わってくれることに。桜華ちゃん、無事だといいけど……。

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