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【八】神馬神社の巫女

 翌日も畑の手伝いをして、また三人でお昼ご飯を食べる。


「そういえば、昨日はどうだった? 御鏡は見つかりそう?」

「ううん。私らが調べた限りじゃ、鏡の情報は全く無かったよ。村長さんも、それについては何も知らないって」

「そっか……」


 生明まで残念そうにしながら、しばらく食事に集中していた。もうすぐ食べ終わる。おにぎりが、残り一口分。そんな時、生明が何か思いついたように言う。


「この後の予定は決まってる?」


 やば、おにぎり口に入れちゃって喋れない。ここは小町に任せよう。


「ううん、決まってない。地道に聞き込みするしかないかな」

「決まってないならよかった。この後、ちょっとついて来てくれない? 絶対、捜索の役に立つと思うから」

「どこに?」


 やっと咀嚼を終えて飲み込んだ私が問うた。生明はなぜか誇らかそうにし、「行ってからのお楽しみ」と言う。いったい何だろう……?  


 私らはいったん帰って着替え、案内されるがまま、生明の家からから二十分くらい南下した。田園風景は森に変わり始め、草よりも木が目立ち始めたころ。木々に隠れるように、朱色の枠——鳥居が見えた。こんなところに神社があるらしい。


「ここだよ。神馬(じんめ)神社っていうんだ」

「へえ、立派だね」  


 見た感じ、かなり奥行きがありそうだ。広さで言えば、大黒神社や八岐神社に匹敵するかもしれない。こんな広大な神祠があったなんて……。


「ここなら、神の御鏡について情報が得られるかも」

「へえ。でも御鏡については、村長さんでさえ知らないんだよ?」

「ふふ、大丈夫。この神馬神社は確かに村の中にあるけど、彼と同等の力を持ってるんだよ。なんてったって、()()()()()()()()()だからね。村長さんが知らないことも知ってるかもしれないし、持ってない、把握してない伝承があるかも」


 悪魔側が圧倒的に少数派って生明は言っていた。なるほど、裏を返せば、豊穣神信仰が圧倒的多数ということになる。それ故に強大な権威があるってわけね。


「さ、行こう」


 再び生明の背中を追う。やがて鳥居の前まで来ると、その近くに二人、男の人が立っていた。何かを警戒しているような感じだ。


「おっ、生明じゃないか。お参りかい?」  


 その内の一人が参拝者の存在に気付いて駆け寄ってきた。見た目からして、茂雄さんと同い年くらいだろう。


「見回りお疲れ様です。今日は、お客さんを連れてきたんです」

「ああ、そちらの二人かい?」


 彼が私らを見た。一歩近づき、「桜華です、小町です」と名乗り、旅人であること、今は生明の家で厄介になっていることを話した。


「そうだったのか。ようこそ、我らが村へ」 「あの、見回りって? 神社の周囲をですか?」


 気になったから聞いてみると、彼は生明に視線を向ける。それを受け、生明は「はい、彼女らはもう知ってますよ」と返答した。ああ、なんとなく察しがついた。


「神馬神社は豊穣神側の本拠地だから、時々悪魔側の奴らが悪戯すんだよ。半年くらい前だったかな、奴ら境内に動物の遺体を捨てていきやがった」  


 そうだろうとは思ったけど、悪戯の内容が想像の一手先二手先、ううん、不可説転の彼方ほど先を行く酷いものだった。意図せずその光景を想像してしまい、ちょっと気分が悪くなる。


「だから、最近は当番制で見回りをつけてんだ。ほんと、酷い奴らだよ」  


 彼の表情には、嫌悪感が満ちに満ち切っている。まあそんなことされたら、信仰とか関係なく嫌だよね……。


 見回りの彼と別れ、三人で鳥居をくぐった。神馬神社というだけあって、あちらこちらに馬の像や装飾がある。その点では、因幡神社の馬版といえるかも。それに加えて、どこからともなく動物の臭いが漂ってくる。どうやら本物の馬を飼っているらしい。それに混じって、何だろう……魚の臭い? 動物とはまた違う何かもうっすらと感じる。


「ねえ生明。豊穣神って、お馬さんなの?」 「ん? ううん、別に、そういうわけじゃないよ」  


 否定されるとは思っていなかった私。思わず首をかしげてしまった。


「ああ、神社の名前が馬だったり、実際に馬がいたりするのは、ここが南にある神社だからだよ」

「方位の動物ってこと?」


 理解が及んでいない私をよそに、小町が問うた。


「そう、小町ちゃん大正解! 高祠之国には、ここも含めて大きな神社が六つあるの。南は馬で北は鼠、東は兎で……。まあ全部が全部、方位の動物の名を冠してるわけじゃないんだけど」  


 なるほど、お馴染みの神社たちね。


「とにかく六つあって、それらを線で結ぶと、一寸のずれもない六芒星ができるんだって。まあ結び方は無数にあるわけだけど……。とにかく、昔の人がそうやって神社を配置して、高祠城を結界で守ったらしいよ。実際、六芒星の真ん中にお城があるんだって」  


 だとしたら、その結界の真ん中で悪魔に取り憑かれてる男の人がいたけど、いいのかな。いやまあ、本当に悪魔が原因だとは思わないけど。


「へえ、昔の人はそんなことまで考えて国を作ってたんだ。なんか凄いね。っていうか、そんなこと知ってる生明もだいぶ凄いよね」


 褒めると、彼女は若干誇らしそうにした。しかしすぐに申し訳なさそうな顔になり、頬を掻きながら言う。


「へへ。まあ、今の話——それと、この前話した信仰の話も、ある人からの受け売りなんだけどね」

「ある人?」

「うん。その人は、今から二人に紹介する人でもあるんだ」  


 笑顔でそう言うと、彼女は拝殿の方へ駆けていき、賽銭箱の横から回って数段上った。そして、拝殿の中に向かって大きな声で——


実稲(みいな)、実稲! 生明だよっ!」


と叫んだ。それから数秒待っていると、中から人が現れた。上は白、下は赤の美しい着物姿の女性。巫女さんだ。よく見ると、白の中にうっすらと稲の模様が入っている。なるほど、豊穣神信仰の拠点らしい巫女さんだね。


「は~い、そんなに叫ばなくても聞こえてますよ~」

「実稲。あの二人——わたしの新しい友達に、色々と教えてあげてほしいの」

「そうなの~。分かったわ~」


 巫女さん——実稲さんは、かなりおっとり系の喋り方をしている。拝殿から出た彼女は、初対面の参拝客二人を見つけて駆け寄ってきた。肩より少し下でふわっと一つに結んだ後ろ髪と、胸まで伸びた横髪を風に揺らす。髪色は大自然を思わせる濃い緑だ。その背を追って生明も帰ってきた。


「初めまして~。神馬神社の巫女、実稲と申します~」

「初めまして、桜華と言います」

「小町です」

「あらあら~そう畏まらないで~。私、生明と同い年ですから~、彼女と同じように接してくださ~い」

「そうなの? じゃあ、よろしくね実稲」


 正直言うと年齢云々よりも、相手は巫女さんだから敬語でいきたかったけど……まあ、本人にそういわれたらそうするしかないか。


「桜華ちゃん、小町ちゃん。実稲はここの宮司兼巫女で、なんでも知ってるんだ。何か知りたいことがあったら、遠慮なく聞いちゃってよ」


 宮司兼巫女とかあるんだ。ここでしか聞いたことないかも。そういえば、八岐神社には巫女さんがいなかったな……。まあ、寂れてたから仕方ないんだけど。


「生明、なんでも知ってるは些か誇張が過ぎるわよ~」

「えへ、ごめんごめん! じゃあ二人とも、わたしは畑に戻っちゃうけど、大丈夫?」

「うん。案内あんがとね」


 私のお礼を聞き、生明は手を振りながら神社を後にした。う~ん、豊穣神信仰の巫女さんに聞きたいことか。そんなの……無限にある!

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