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【九】寒風に舞う暗香

「まさか連れの女子までもが力を使えるとは、驚きだ」


 一瞬だけ戸惑ったような顔をした小町だけど、次の瞬間には頼もしい表情を浮かべていた。きっと、自分に目覚めた力を理解したんだろうね。私もそうだった。誰に説明されたわけでもないのに、最初から知ってたかのように使えるんだから不思議だよね。


「桜華。今まで、あたしを守ってくれてありがとう。これからは、あたしもいっしょに戦う。見つけたよ、あたしの()()!」


 小町はそう強く言い放った。その途端、周囲は梅の香りに包まれる。光は梅の花弁が舞い踊る風に変化し、瞬く間に大きく広がる。円形に、鍛冶屋の庭を覆うほど。


「食らいな、鬼!」


 台詞と共に風が鬼を取り囲み、やがて消える。桜散火のように攻撃をしたわけではなさそうだけど、異変はすぐに認められた。


「な、なんだ……? お前、我に何をした……?」


 突然、がたがたと震え始めたのだ。歯をがちがち言わせ、刀を持つ手も小刻みに震えている。


「——梅雪風(うめゆきかぜ)、とでも名付けようかな。どう? 寒いでしょ? それだけじゃない。自慢の体力と防御力は、もう素人同然だよ」

「こ、小賢しい、真似を!」


 やおら立ち上がると、「桜華!」と鴨脚の声が聞こえた。さっき放った刀が地面を転がって来た。軽くお礼を言い、右手に持って鬼に迫る。


「私たちの勝ちだね、鬼さん?」

「ま、待て、やめろ——」

「——桜散火!」

「ぐおおおお!」


 敵は無様に吹き飛び、気を失った。防ごうと前に出した鬼の得物が、二つに分かれて地に落ちる。鷹と蛇の勝負は、蛇の勝ちみたいだね。まあ、ほぼ小町のおかげなんだけど……。


 数分後、鬼が目を覚ました。残念ながらもう動けないよ、拘束したからね。大人しくしているところを見ると、さすがの鬼でも、ぐるぐる巻きの綱を引きちぎるなんて無茶苦茶は出来ないみたいだ。


「……そうか、我は負けたか」

「さあ、質問に答えてよ。盗賊集団スサノオ、知ってるの?」


 鬼は躊躇うように「ううむ」と唸った。直後、自分から持ち掛けた約束であったことを思い出したのか、不承不承といった様子で語り始める。


「知っている。噂程度だが」

「噂? あんたはスサノオじゃないの?」


 聞くと、鬼は不思議そうな顔をした。八岐神社が何者かの襲撃を受け、御神体の剣が盗まれていた。私たちはそれをスサノオと関連付けて調べているのだ、と説明すると、彼は蘞辛っぽく笑う。


「なるほど。下手人が御神体の剣を盗んだという事実から、我に接触したというわけか。しかし、我は神社の襲撃など行っていないし、スサノオでもない」

「本当に?」

「ああ。こう見えて、我は信心深い。神社の御神体を手に入れたいと思ったなら、そのような野蛮な手段はとらぬ」


 その野蛮な手段を、あんたは鍛冶屋に対してしたんだけどね。


「……そう。じゃあ、スサノオについて何か知っていることは?」

「ああ。スサノオは、高祠の三神器を狙っていると聞いたことがあるな」

「三神器? なにそれ」


 聞いた事も無い言葉。その正体を問うと、鬼は少し口角を上げた。そんなことも知らないのかと、馬鹿にされた感じがする。


八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)八咫鏡(やたのかがみ)……そして、天叢雲剣あめのむらくものつるぎの三秘宝を総称してそう呼ぶ」

「天叢雲剣……?」


 思わぬ情報に、反射的に小町の顔を見た。彼女も同じような反応をしていて、目が合う。


「桜華、それって……」

「うん。八岐神社を襲って宝を奪ったのは、スサノオって可能性が高いね。ねえ、他には?」

「知らぬ。そもそも、スサノオが本当に存在する組織なのかも、我には分からん。一般的な感覚で言うと、幽霊や妖怪のような迷信の類かもしれんな。もしスサノオを探したいなら、三神器を追うのが早いだろう」

「そう、情報あんがと。鴨脚、鬼の身柄はどうするの? 私らの目的は果たしたから、あとはお好きにどうぞ」


 横に立つ鴨脚は、呆けている。なにその世界が終わったみたいな顔。もう一度強めに「鴨脚」と呼びかけると彼の硬直は解け、急に動き出した。なんか鼠みたいだね。


「こいつは……防人に引き取ってもらうよ」

「童よ、我が黙っていると思うか?」

「縛られてるお前なら、折れちまったもんでも黙らせられるんだぜ。さて、いつも喧しい夜警さん方がそこらに居るはずだ。お前らはどうする?」

「ここで待っとく。防人となんて一秒も会いたくないから」


 そう返すと、鴨脚は「分かった」と頷く。その途端に何処かへ走り去ったかと思うと、大きな荷車を引いて帰って来た。なるほど。意図を察し、小町と協力して鬼の足と手もぐるぐる巻きに。そんで、畑の収穫物みたいに荷台に乗せてやった。重すぎるんだけど、こいつ。


「これ貸しておくよ」

「おう、助かる」


 護身用にと、小町の懐刀が鴨脚の手に渡った。重そうな荷台がゆっくりと動き始め、やがて勢い付いて鍛冶屋を出て行く。門から覗いてしばらく様子を見ていたけど、鬼が暴れだす様子は無い。やれやれ、一件落着か。

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