【九】甘い抹茶ぜんざい
数日後。小町が仕事に出ている間に、私はまた町を練り歩いていた。散歩、暇つぶし、そして、あわよくば復讐の相手が何処の誰なのかという情報に出会えればいいなと思っての事だ。ふと、遠くの方に人だかりを見つけた。何かと思って近づくと、どうやら掲示がなされているらしいと分かった。沢山の人がその内容に目を通そうと殺到している。もはや立錐の余地もないほどだ。しばらくもみくちゃにされて、やっと見える位置まで来られた。掲示主は防人みたいだ。内容は、例の事件に関してである。
『先日、連続少女失踪事件、所謂、神隠し事件の下手人を捕らえました。長期にわたって地域住民の皆様の不安を解消できなかった事、深くお詫び申し上げます』
ふん、自分たちの手柄みたいに言っちゃって。
『さて、先ずはこの下手人についてご説明いたします。この者は以前、高祠之国城にて所定の職務に就く者でありましたが、先々月末ごろに城内にて痴情を働き、収監されておりました。しかしながら、先月脱獄し、此度の事件を起こした次第です。我ら防人におきましては、下手人の権威に慄き、拘束一歩手前まで調査が進んでいたのにも拘らず、足踏みをしておりました』
つまり、とっくに全部分かっていたのに、河童がちょっとしたお偉いさんだからって、忖度していたって事だ。気がくさくさする。そんな酷い理由で、京都は……。
『結果的に何人もの女性が亡くなり、防人一同、慙愧に堪えぬ想いです』
本当かよと、私はその言葉に疑いの目を向けた。とりあえずそう書いただけなんじゃないのか。そう言っておけば、住民の厄介な苦言を払えるなんて思ってるんじゃないか。もう、あいつらの言う事なんて何も信じられなかった。
『尚、当該下手人につきましては、獄門に処し、昨日執行が完了しております。首は高祠之国城にて、明日の暮れまで晒して御座います。亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。 以上』
最後の三文には、ちょっと驚いた。防人は河童が権力者だから忖度していた。それなのに、捕まったらあっという間に晒し首。毅然と正義を執行したのだ。なんだか急に人が変わったみたいで、防人の対応で唯一、素直に評価してもいいと思えるものだった。ま、だからって防人を見直すわけじゃないけどね。あいつらは無能組織。私の考えは、これくらいじゃひっくり返らない。やって然るべき事をしたに過ぎないんだから。
「はい、抹茶ぜんざい、お待ちどおさん」
「ども」
散々しわくちゃにされた後、近くのお団子屋にやってきた。お菓子屋からそう遠くない場所だから、きっとあの子が言ってたのはここの事だろう。
「うんま、はまりそう」
仄かに苦い抹茶。丁度いい甘さの餡子。もちもちした食感の白玉。色も味も何もかも異なる三つが、恐るべき結束力でもって一つの美味しいを作り上げている。
「今度、小町にも食べさしてやろ」
あっという間に平らげ、器と匙を返した。三人で来られたら、いったいどれほど楽しかっただろう。そういえば、私はまだ小町と京都の絡みを見たことが無かった。なんでだろう、全っ然想像できない。そのうち可笑しくなって、勝手に上がろうとする口角を必死に抑えた。
「さてと、掃除と素振りでもしようかね」
私自身を鼓舞する意味も込めて独り言を呟き、重い腰を上げる。
「あれって……人相書き?」
ふと、往来の端に立て札が見えた。心地よい木の香りがしそうなほど白くて綺麗だ。そこに達筆でいろいろと書いてある。辻斬りがどうこうって書いてあるように見えた。
「ま、いいや」
立ち止まって見ることはせず、私は帰路に就く。厄介ごとの相手ばかりしてたら、自分の目標に近づけないもん。そんな事を考えながら、廃屋に向かって歩いた。
口の中にはまだ、抹茶ぜんざいの甘さが残っている。
【弐話 不殺の契り 〜完〜】




