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【十八】作戦会議

 一粒万倍の裏闘技に立ち寄り、神酒は朱里さんに物凄い額を賭けた。勿論朱里さんが勝利し、それ以上の額が返還された。私や小町がお菓子屋でいったい何日……いや何か月働けば同じ額が手に入るだろうか。


「着いた、ここだよ」

「へえ、こんなところにお菓子屋さんがあったんだ」


 懐かしきお菓子屋へ到着。この見慣れた引き戸を開けば、小町が居る。朱里さん救出作戦の仲間として、小町と神酒の顔合わせをしよう。最初にそう提案したのは私だったのに、私はどうしても扉を開けない。開く気になれない。


「桜華、どうしたの?」

「ああいや、その……神酒。先に入って、今、店主さんが居るかどうか確認してみてくれない?」


 私を摘まみ出した彼だ。まあ、別の意味で摘まんだのは私の方なんだけど。とにかく、彼と鉢合わせることだけは避けたい。


「どういうこと?」

「まあその、色々とあって」

「……? 分かった、聞いてみるね」

「あんがと」


 納得は出来ないだろうけど、神酒は分かってくれたらしい。不思議そうな顔をしたまま引き戸を開け、敷居を跨ぐ。中からは(こまち)の、笑ってしまうくらい作った「いらっしゃい」という声が聞こえた。……しばらくすると、神酒がひょこっと顔を出す。


「店主さん、ついさっき商談と仕入れに向かったってよ」

「はあ、良かった……。これで私も安心して入れる」


 神酒に続いて、私も入店した。店内の装飾や商品の並びなんかは、私が居た頃と変わっていない。


「いらっしゃ——って桜華? 何してんの? あたしに会えなくて寂しくなっちゃった?」

「まあそんなとこ。いや違くて」


 小町が居る勘定場に近付いた。


「何回か話した、朱里さんの件。作戦が良い感じに煮えてきたんだけど、二人じゃ心許ないから、小町にも手伝ってもらおうと思って。紹介するね、神酒だよ」


 その途端、小町の顔が私に向ける物より数段優しいものに変わった。僅かに声を高くし、彼女は神酒に声を掛ける。


「初めまして、小町です。妹がお世話になってます」

「初めまして、神酒だよ。……えっと、どっちが姉なの?」

「私だって」

「あたしですよ」


 ぎりっと睨み合う。


「あはは、まあ、大体察したよ……。ああそれと小町、そんな固くならないで。十個も二十個も歳が離れてるわけじゃないだろうし」

「……分かった。よろしく、神酒。話は大体把握してる。あたしも協力させてもらうね」

「うん、ありがとう」

「小町。今日、仕事が終わったら直に向こうの甘味処まで来てよ。作戦の打ち合わせをしたいから」

「はいよ。——いらっしゃい」


 お客が来た。とりあえず要件は伝えたし、私たちは撤退しよう。居座っていても邪魔なだけだし、店主が帰って来たら最悪だからね。


 夕方。大体暮れ六つ。甘味処で雑談に花を咲かせて今に満開という折柄、「お待たせ」と仕事帰りの小町が合流した。お腹が空いたのか、小町はみたらし団子を注文。長椅子に座る私の隣に座した。


「揃ったね」


 私らと対面する形の神酒。背筋を伸ばして座り直し、咳払いをしてから続ける。


「まずは小町、協力してくれてありがとう」

「気にしないで。桜華に振り回されるのには、もう慣れてるから」

「おい」


 平生通りに「あはは」と笑い、直後、神酒は改まった様子で本題に入った。帳面を広げ、いつの間にかまとめていた段取りに沿って話し始める。


「早速、作戦の草案を説明するね。一、五周年記念の酒を贈呈。一粒万倍は、明々後日で五周年を迎える。その記念品として、経営者たちが愛して止まない酒を贈る。何処の酒を贈るかは、元酒屋の娘である私が見繕っておくよ。二、その夜、三人で一粒万倍に忍び込む」


 控えめな声量で神酒は言う。


「経営者たちが酒に呑まれていることを確認する係と、闘技場に忍び込んで朱里さんを助けに行く係の、二手に別れて行動するよ。この中で朱里さんと交流があるのは私だけだから、私は彼女を助けに行く方に参加する。桜華と小町はどうする?」


 ここは、最悪の出来事を想定して決めた方が良いか。それはつまり、経営者五人が全然寝てなくて、物音を聞きつけて出て来た場合だ。夜だから、酔って判断力が無い状態じゃないと、ちょっとした物音でも不審に思われてしまう。


「私が確認係をやるよ。見つかっちゃっても、私なら破落戸(ごろつき)ごとき簡単にぶっ飛ばせるから。小町は神酒について行ってくれる?」

「分かった、それが最適かもね。あたしは神酒と同行する」


 経営者五人にばれた場合、奴らは一気に襲い掛かってくるだろう。もしそうなったら、奴らには気絶してもらうしかない。現実的にそれが可能なのは、小町よりも私だ。


「御意、じゃあそれで」


 神酒は懐から矢立を取り出し、帳面に係の件を追記した。それからまた、彼女は作戦の説明を再開。


「確認係の桜華は、奴らに動きがあるかどうか監視。救出係の私と小町は、闘技場の地下に入って朱里さんを連れ出すよ。夜の牢獄には監視が一人いる。こっちは二人だから……まあ、臨機応変に対応しよう」


 小町が「うん」と頷く。


「で、三。救出に成功したら朱里さんを連れて、経営者たちの部屋がある一粒万倍の裏へ。ここで桜華と合流し、あとは無我夢中で走って、朱里さんを防人の西部駐屯所に送り届ける。大雑把だけど、如何(どう)かな? 何処か変えた方が良い部分はある?」


 小町のみたらし団子が届いた。彼女は軽く「どうも」と言って受け取ったが、手より頭を動かすことを優先したらしい。


「一個だけいい?」


 確認したいことがあり、私は挙手した。


「経営者たちは一回、私の顔を見てる。それも、あいつらの住んでる場所でね。もう一回私が居たら、よほどの馬鹿じゃない限り、何かの()()が裏にあるって気が付きそうじゃない? 仮に、べろんべろんだったとしてもね」


 だからと言って、五人と戦う可能性が僅かにでもある確認係は私にしかできない。


「そうだね、確かにそれは心配な点だと思う。あくまで朱里さんが勝手に脱走したって事件を装う訳だし……。とりあえず、贈る酒と一緒に、御高祖頭巾(おこそずきん)も用意しようか。暗さと泥酔が味方してくれると思うから、顔と桜色の髪さえ隠せば……ああいや、その着物も意外と派手だね」


 私の美貌を更に強調する桜色桜柄の着物ね。確かに、神酒の指摘通り少し派手かもしれない。


「実を言うと、同じようなのしか持ってないんだよね」

「そっか……。小町の着物を借りるのはどう?」

「あたしも、赤ばっかり」

「おお……お若いね二人とも」


 十個も二十個も歳が離れてるわけじゃないだろうに。


「じゃあ、私のを貸すよ。あんまり着てない、灰色の地味なやつがあるから」

「あんがと、お言葉に甘えて借りるね」


 ここまですれば、「あの時の女!」とはならないだろうと思う。……まあ、そもそもばれないのが一番望ましいんだけど。


 作戦の細かいところを詰めていると、いつの間にか暗くなっていた。甘味処も店を閉める時間だ。明々後日の朝にまたここで会う約束をし、解散した。さてどうなるかな。決戦の日までもう少し時間はあるけど、今からもう緊張してきた。

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