交流
学園の中庭に広がる賑やかな雰囲気。生徒たちが様々なクラブのデモンストレーションを楽しんでいた。俺は武道クラブの演武に興味津々で見入っていた。一方で、ヴィクトリアは音楽クラブの演奏に心を奪われていた。
「お疲れ様、ヴィクトリア。素晴らしい演奏だったよ」
俺がヴィクトリアに声をかけると、彼女は嬉しそうに微笑む。音楽クラブの演奏に誘われて参加したヴィクトリアは自前の楽器ではなかったが、クラブの輪に溶け込んできっちりと演奏をして見せたのだ。
俺は聞き覚えのある音色というかリズムというか、そういうものに誘われて音楽クラブが演奏をしている野外ステージへと足を運んだところで最前列の端にいるヴィクトリアを見つけ暫くその演奏を聴いていたのであった。
「ありがとうございます。従兄様こそ、見事な演武でしたね。ですが、我が一族に伝わる抜刀術を披露なさっても良かったのですか?」
小声でヴィクトリアは窘める。だが、あれくらいはたいしたことはない。演習でも時折アレに近い動きは見せている。
「問題ないさ。でも、ヴィクトリアの演奏の方が俺の武道よりもっと心に響く。時々で良いから個人的に聴きたいくらいだよ」
「まぁ、お世辞がお上手ですこと。オリヴァー様の直伝ですの?」
そんな会話を交わしながら、二人は舞台裏へと足を運んだ。
舞台裏では他のクラブメンバーや生徒たちも集まっており、賑やかな雰囲気が広がっていた。エドウィンとヴィクトリアが近づくと、アレクサンダーが笑顔で迎えてくれた。
「ヴィクトリア、お疲れ様。君のおかげでクラブの演奏が大成功になったよ。推薦した甲斐があったというものだ。ありがとう」
「皆さんのおかげで楽しい時間を過ごせました」
アレクサンダーの言葉に、ヴィクトリアは照れくさそうに頬を赤らめつつも謝意を伝える。他のクラブメンバーも交え、楽しいひとときが続く中で、エレノアが現れた。どうやら、タイミングを計っていたようだ。
「皆、もしよければ図書館のテラスでお茶でも飲みながらくつろぎませんか?」
彼女の提案に賛成の声が上がり、一行は図書館へと向かう。図書館に着くと、俺とヴィクトリアは静かな場所を見つけて座り、他のメンバーも各自で本を手に取って集まってきた。
発案者のエレノアは元々準備をしていたのか、バケットから焼き菓子をいくつか取り出して皆に配るとお茶を振る舞う。彼女が淹れたお茶は安価な市販品ティーバッグであるが、なぜか喫茶店並の味と香りがするので不思議だ。
「どうも、この茶葉は値付けが間違っているような気がする」
オリヴァーがそう呟くが、エレノアは首を横に振る。
「購買部で売っているお茶ならこれくらい簡単ですよ」
彼女の伊達眼鏡の奥がキラリと光った気がする。彼女の七不思議があるが、安い茶葉でも一流のように淹れる特技、そしてコロコロと変わる伊達眼鏡はその最たる例だ。今は柔らかい表情によく似合う丸眼鏡だ。けして瓶底眼鏡ではない。前にそう失言した時に感じた殺気を未だ忘れない。
「ここは静かでいいね。落ち着いてお茶を楽しめる」
俺が呟くと、ヴィクトリアは微笑みながら答えた。
「ええ、落ち着いてお話が出来るので私はセリーナさんとはよくきますわ」
「どんな話をしているんだい?」
俺は彼女に向かって少し身を乗り出し、興味津々の様子で尋ねた。
「そうですね、つい先日は音楽についてお話ししていましたかしら」
「そういえば、君はどんな音楽が好きだったんだ? 士官学校に入ってから趣向は変わったのか?」
ヴィクトリアはしばらく黙って考え込んだ後、懐かしい思い出に浸りながら語り始めた。
「私が小さかった頃、家には古いピアノがありました。そのためか母が私にピアノを教えてくれていたのです。その時の音楽が私にとっての原点で、古典楽曲が好きでしたね」
俺は彼女の話に興味津々で耳を傾けていた。一方で、アレクサンダーは彼女の過去に思いを巡らせていた。
「それは素晴らしいね、ヴィクトリア。君の演奏の技術とセンスはその頃から磨かれてきたんだな」
アレクサンダーの言葉に、ヴィクトリアは微笑みながら頷いた。
「はい、私の演奏は家族や過去の思い出から生まれています。その中にお従兄様との思い出もたくさんありますよ。お従兄様はお忘れのようですけれど」
少しだけ拗ねた様子で答えるヴィクトリアが可愛く思えた。
一方のテーブルでは、エレノアがリリーとアイザックに声をかけていた。
「リリー、アイザック、あなたたちはどんな趣味があるの?」
「俺か? 俺はそうだな、筋トレと釣りが趣味だな。どっちも趣味と実益を兼ねることが出来て良いからな」
「私は戦略ゲームが好き。アイザックとよく対戦しているわ」
アイザックは力こぶを作りながら歯を見せて笑って答える。リリーもそれに続けて答える。最近の彼女は割と砕けた感じの口調になって親しみを感じるが、段々と男っぽくなっている。なんだろう、これが彼女の地なのだろうかと最近は思っているが、黙っておく。
「それは面白そうですね。今度、一緒にやりませんか?」
エレノアは興味津々の表情で言ったが、その瞬間にリリーの表情が固まるのが見えた。あいつ、何か色々と地雷踏んでるのだろうか?
ともあれ、三人の会話も弾んでいた。図書館のテラスでは、異なる趣味や過去の話題が重なり合い、新たな絆が生まれつつあった。




